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ビジネス法務 2024年9月号「リモートインハウスとは何か?」

ビジネス法務・2024年9月号が発刊されました。
今回は、「特集1 リモートインハウスを活用した法務アウトソーシングの実践法」についての感想を記事にします。

リモートインハウスとは?

この特集を読むにあたって個人的に感じた疑問は、「『リモートインハウス』ってそもそも何?」というものです。

法律事務所の顧問弁護士や、会社から雇用される社内弁護士(インハウスロイヤー)との違いがどこにあるのか、といった点が私が興味を持ったポイントでした。

この特集の全体を読んだ印象として、リモートインハウスとは「顧問弁護士」という外部からアドバイスする専門家という立ち位置に比べて、企業により近いところで、(特定の案件に限られない)業務委託という形式でタイムチャージで働く法律事務所の弁護士のことを指す、と捉えました。

しかし、顧問契約の形式をとりながらもクライアントと近しい関係で働いている弁護士はたくさんいますし、会社と雇用関係にある社内弁護士がリモートで働いている場合こそ「リモートインハウス」なのではないかとも思えます。

結局、企業法務のあり方が多様化する中で、法律事務所の立ち位置も多様化しており、法律事務所の弁護士が会社に近い立場の業務受託者として法務サービスを提供する弁護士の活用法、というのが、この特集の趣旨だと感じました。

遠藤:弁護士と会社のかかわりでは顧問契約か案件ごとのスポット契約が一般的で、リモートインハウス(法務受託)という言葉ではまだイメージがわかないと思います。そこで、先生方が具体的にどのようにお仕事をされているのか教えてください。
石原:そもそも顧問契約にもさまざまな形態があるので、制度としての比較はしづらいです。むしろメンタル的な部分の差異が大きいかなと思います。社内の人と話すのと同じテンションで法務相談ができることが、リモートインハウスサービスの本質ではないでしょうか。

特集1 座談会 P32~33

企業内弁護士と「リモートインハウス」の違い

それでは、会社と雇用契約にある企業内弁護士(インハウスロイヤー)とこの特集でいう「リモートインハウス」はどのような違いがあるのでしょうか?

リモートインハウスのメリット?

この特集を読んだ「リモートインハウス」のメリットとしては、様々な企業から相談を受ける経験に基づく専門性や雇用契約に縛られない機動性・柔軟性があげられるかと思います。
一つの企業と雇用契約を締結して勤務する企業内弁護士だと、やはり処理案件や相談が特定の内容に偏る傾向にあることは否定できません。また、企業の視点からすれば、雇用契約で守られる企業内弁護士との契約関係では、プロジェクトベースや事業ベースでコストコントロールをしにくいという硬直性があります。

例えばM&Aのデューデリジェンスといった重い案件を期限までに処理しなければならない場合といった、社内の法務部員が定型的な業務をこなしながら集中して取り組むのは難しい状況で、外部弁護士が必要となるケースが想定できます。また、この特集でも取り上げられていましたが、海外法務といった高度に専門的な業務を処理できる人材をすぐに雇用できるか、と言われれば、人材難やコストの観点で難しい側面があります。

このように、M&Aや新規事業の海外進出といった、専門的かつ時期の限られたプロジェクトにおいて法務リソースを補充しなければならない場合において、リモートインハウスは有効に機能するように思えます。

たしかに外部の法律事務所に単発の個別案件を依頼する以上に会社にコミットしてほしいという案件はあります。また、特定の社内案件に偏りがちな企業内弁護士ではなく、特定の専門分野に強みを持つ弁護士に依頼したほうが良い状況の会社にとっては、リモートインハウスは一つの選択肢になるように思います。

企業内弁護士(インハウスロイヤー)の強み?

一方で、「リモートインハウス」と比べた企業内弁護士の強みは組織内部の専門家としてプロアクティブな働き方ができることと、会社への強固なコミットメントにあると考えます。

企業内弁護士は、組織の一員として勤務先の企業「だけの」弁護士として勤務することになります。他の社員とは法律上な位置づけでも組織上も同僚として働くことになり、強い仲間意識や連帯が生まれます。
内部で働く立場と外部で依頼を受ける立場では、社内情報へのアクセスのしやすさも全く異なりますし、事業も組織も人が造るものである以上、他の社員と同じ立場で働く企業内弁護士の方が、事業に対してもより深く理解することができます。

このように、雇用契約を結んで会社の一員として働くのと、「リモートインハウス」という名前であってもあくまで外部の弁護士としてクライアント企業のために働くのでは、組織や事業へのコミットメントという点で、企業内弁護士に分があります。これは、私自身、企業内弁護士として働いてみて身に染みて感じていることです。
そのため、企業内弁護士の方が予防法務や戦略法務といった場面においてプロアクティブな働き方を期待できるように思えます。

リモートインハウスはあくまで外部の業務受託者である以上、何らかの「依頼」が仕事の起点になり、リアクティブな働き方になりがちです。一方で、企業内弁護士は会社内の問題点や改善すべき点を積極的に見つけ出し、自発的に組織をよくする動きをすることが可能になるからです。

リモートインハウスの使い方

結局、会社としてリモートインハウス(タイムチャージベースの法務外注)の利用を検討する場合、どのような目的を達成するのか、というゴールを見据え、具体的に何を依頼するのか(どのようなアウトプットを期待するのか)を明確にすることが重要だと思います。

単に法務部の人員が足りていないから人手不足を解消する、という漠然とした目的であれば、高額のタイムチャージが発生するリモートインハウスが最適解だとは思えません。
業務がひっ迫しているということであれば、「業務の効率化ができないか」「法務人員の採用を急ぐべきではないか」といった点を優先的に検討すべきです。
また、企業法務に期待する役割が予防法務や戦略法務といったよりプロアクティブな仕事を期待するなら、企業内弁護士を雇用して自社にコミットしてもらったほうがよいでしょう。

一方で、例えば海外進出のプロジェクトが走っており、一時的に外国語を使える法務専門家が必要となる、という状況であれば、リモートインハウスは有効に機能するのではないでしょうか。

まとめ

2024年9月号のビジネス法務では、今回取り上げたリモートインハウスの特集以外にも、デジタルマーケティングの法律入門(特集2)や生成AIと著作権の座談会といった最新のトピックが取り上げられており、大変参考になりました。

日々の仕事をこなしながら法律知識をブラッシュアップする時間を取ることは難しいですが、このように、ビジネス法務では判例から知財まで幅広いトピックがカバーされています。

忙しい法務パーソンこそ、毎月のビジネス法務で最新の法律論点をアップデート習慣化することをお勧めします。


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