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法務の転職市場ではどんなスキルが求められるか?

法務キャリアにおいて評価されるために

今やどの職種であっても一生同じ会社に勤めるということは少なく、転職が当たり前の時代になっています。

「給料が上がりにくい」
「今の職場に不満がある、このまま勤めていてもキャリアが見えない」
「毎日が同じ仕事の繰り返しで新たな経験を得ることができない」

法務パーソンが転職を考える理由はいろいろあると思います。

しかし、どうせ転職をするのなら、自分の市場価値を上げてより良いポジション・待遇を得ていきたいですよね。

この記事では、私が転職活動にあたって多くの法務専門ヘッドハンターから聞いた話と、私自身が法務管理職として候補者を面接してきた経験を踏まえ、どのようなスキルが法務パーソンの転職市場で価値があるかについて書いていきたいと思います。

弁護士資格

まず初めに弁護士資格。
これがあるかどうかで待遇に大きな差が出ます。

もちろん法曹無資格で法務部長やCLOとして活躍されている方もいますし、資格が全てとは言いません。

しかし、法務という専門領域において、その専門性を客観的に裏付ける弁護士資格は転職市場において非常に価値のあるものとなります。
印象ですが、資格者と無資格者では、1.5倍〜数倍の年収差があるように思えます。

なお、企業法務の転職市場では日本法の弁護士資格であるか、あるいは外国弁護士であるかはあまり重要視されていない印象です(私自身、面接を受ける候補者の立場で米国州をはじめとした外国法弁護士資格のある方の面接を受けた経験があります)。

また、最近は司法書士資格を持っている方が企業法務に従事しているケースも増えています。
実は私自身も司法書士資格を持つ方と働いたことがありますが、法的知識という点では無資格者より信頼が置けますし、「手堅い仕事をする」という印象を持っています。

特定の法領域での専門的知見や特殊な業界経験

企業法務では契約審査から新規ビジネスの適法性チェックやトラブル対応まで、企業において発生するありとあらゆる相談を受けることになり、ジェネラリストとしての経験が多くなると思います。

しかし、やはり転職市場においては特定の法領域での専門性や製薬や金融といった専門性の求められる業界経験を有していると強いです。

特に、個人情報保護法、知的財産法、独占禁止法、労働法(労使紛争対応を含む)といった特定の法分野における知見があると、専門的知見の必要なポジションを求めている企業に強くアピールすることができる場合があります。これは、ジョブ型雇用の傾向の強い外資系企業に特に当てはまるでしょう。

また、特定の業界(製薬、不動産、金融、IT等)での法務経験があると、その業界での転職に有利になると思います。やはり採用する企業の目線から見たら、業界未経験の候補者よりも、業界経験のある方が安心ですからね。

データプライバシーの経験と専門性

上述した特定の法領域における専門性の一つですが、転職市場において一番需要があると感じるのがデータプライバシーに関する知見です。

行動履歴等の個人情報を含むデータは「21世紀の石油」と言われ、ビッグデータをうまく使えばビジネスの大きな武器になる一方、個人のプライバシーへの意識がセンシティブになっている現代においては、取扱方法を間違えるとSNSをはじめとして大炎上、ひいては企業価値の大幅な下落につながりかねません。
例えば、リクナビDMPフォローの内定辞退率提供事案は、転職サイトの運営企業が、学生のWEB上の行動履歴を分析して企業に内定自体率を提供するというサービスでしたが、個人情報の取り扱い方として大きく問題となったケースで、当時マスコミに取り上げられるなど大きな批判を受け、その結果、リクルートの株価も大きく下落しました。

企業は、データプライバシーに関する万全な法令遵守・ガバナンスを求められており、データプライバシーに知見のある専門家はかなりの需要がある状況です。
実際に、転職活動をしていると、データプライバシーや個人情報保護法、GDPRに関する専門性が求められる求人が多く目につきます。

今、仕事で個人情報保護法やGDRRをはじめとしたデータプライバシーに関わっている方は、その経験が転職市場における自分自身の価値につながると考えて良いでしょう。

コミュニケーション力

企業内の法務パーソンとして活躍するためにはコミュニケーション力は不可欠です。
もちろん転職活動における面接でもコミュニケーション力がなければ、うまく自分をアピールすることはできません。
しかし、弁護士をはじめとする法務パーソンはコミュニケーションに難がある人材が多いと言われています。

営業職といったコミュニケーション力の求められる職種に比べて、専門性の求められる法務ではコミュニケーション力はそのまま仕事の評価にはつながりにくいからでしょう。

しかし、企業法務では、関連部署との調整や取締役会の運営や経営上の意思決定といった経営陣とのやりとりで、高いコミュニケーション力は必須スキルといって良いでしょう。

英語力

AIでこれからますます翻訳技術が発達するから英語はいらなくなる、という方もいますが、英語力はまだまだ需要のあるスキルです。

DeeplやChatGPTの翻訳技術は目を見張るものがありますが、日本語と英語の言語的違いもあり、翻訳はまだまだ十分とはいえませんし、そもそも英語力がなければ、翻訳の精度について評価することはできません。
契約書の審査をはじめ、法務には精緻な作業が求められる職務上、英語を理解しないまま翻訳に頼り切るというのは悪手というほかありません。

これからグローバル化が進むことで外資・日系企業にかかわらず外国人と働く機会は増えるでしょうし、経営陣が外国人であった場合に、英語でコミュニケーションのできない法務パーソンが信頼を得られるとは思えません。

したがって、まだまだ英語スキルは法務転職市場において評価されるスキルになるでしょう。
なお、転職エージェントによれば、ここ数年はコロナによるパンデミックで留学機会を失った方が多いらしく、英語力は希少なスキルとしても重宝されそうです。

私自身、イギリスのLL.M.を修了し、今も毎日英語のオンラインレッスンとNHKのラジオビジネス英語を聞いています。語学学習は特に継続が重要だと感じます。

マネジメント経験

マネジメント経験も、法務転職市場において評価される項目の一つです。

しかし、法務という専門職においては、「何人をマネジメントしたか」という管理職経験ではなく、やはり、「どのような分野に専門性を持っているか」「どんな業界で法務経験を積んできたか」が重視される印象を受けています。

現に、法務管理職の求人であっても、「マネジメント経験は問わない」、と明確に記載されているものもあります。
私は今、IT企業で法務マネージャーを務めていますが、最初はメンバーとしてのジョインでした。
マネージャーへと昇進する際に上司から評価されたポイントも、あくまで法務パーソンとしての能力であって、マネジメント経験ではありませんでした。
ある転職エージェントからも、支援していた候補者の法務部長への転職時にも、マネジメント経験ではなく、「その人が組織を率いることのできるコミュニケーション力、人柄を持っているか」が見られていたと聞いたことがあります。

やはり重要なのは、「マネジメント経験」よりも、自分自身が「実際に」法務パーソンとしての専門性を持っているかという点と、コミュニケーション力だと感じます。
もちろん、マネジメント職において素晴らしい成果を残したり、チームとして評価される「具体的な」経験があれば転職市場でのアピールポイントになるでしょう。

IPO経験

最後に、スタートアップでの転職においてはIPO経験が評価される場合があります。

法務パーソンの中でIPO経験者は数が多くないため、上場準備をしているスタートアップの法務求人に対しては、希少価値のあるアピールポイントになるでしょう。

良いタイミングでスタートアップにジョインできれば、ストックオプションによる利益も得ることができるかもしれません。

終わりに

かなり長くなりましたが、以上がIT企業内弁護士として私が考える、法務転職市場において評価されるスキルです。

もちろん私も含め、ここで述べたすべてのスキルセットを備えている人はいません。

重要なことは、自分自身の今持っているスキルとこれからなりたい姿をイメージし、転職市場において評価されるスキルセットを積極的に身につけ、計画的に自分自身のキャリアを築いていくことでしょう。

私もまだまだ道半ば、自分自身のキャリアを真剣に考えながら、日々の仕事に取り組んでいます。

この記事がキャリアに悩める法務パーソンの参考になれば幸いです。

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