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【読書記録】「ここからはじめる企業法務」

本の紹介

読書;ここからはじめる企業法務
著者:登島和弘
出版:英治出版(1980円)
一言要約:企業法務とは「ビジネスに線路を敷く」仕事である

概要

-こんな本-
企業法務をよく知らない学生へ向けて、
「企業法務とはどのような仕事か?」
「企業法務パーソンにはどのようなマインドセットが求められるか?」
「企業法務の仕事において必要なスキルとは何か?」
これらが実際の法務部の現場を例としてわかりやすく解説されています。

-こんな方へオススメ-
「まえがき」には学生に向けた書かれた本と書かれていますが、企業法務に関わる全ての方にとって学ぶべき要素が散りばめられている良書です。

学んだこと

・企業法務の仕事とは、「ビジネスに線路を敷く」仕事である
・そのためには、イシューの発見とリスクの分析を的確に行う必要がある
・イシューの発見のためには、契約書を単なる「紙」として取り扱うのではなく、ビジネスの現場を知り、関係者から事実をヒアリングし、その上で法的分析を行うべきである
・リスクの分析のためには、俯瞰的な視点から把握したイシューに対し、ミクロの視点で検討する必要がある
・リスク対応のためには、契約文言の検討にとどまらず、ビジネス全体をみて取りうる最適解を探すべきである
・企業法務パーソンは「お人好し」でいるべきでなく、常に虚心坦懐に業務に取り組むべき
・「ビジネスに線路を敷く仕事」というマインドセットを実践するために、仕事を①面で捉えること、②時間の流れを捉えること、③バイアスは排除しきれないことを自覚することが重要である
・「ビジネスに線路を敷く」以上、単なる「法務」の領域を越え、「経営者」の視点を持つことは重要である
・AIが「法務」領域の仕事を変えていくのは間違いない。今後、「法創造」機能を発揮していく企業法務が求められる

特に印象に残ったこと

著者は契約書を作成する段階におけるマインドセットとして、契約書を「書き切る」ことを強調する。

契約書を、「その取引にかかわるすべての人々が、合意された取引条件を明確に理解し、無駄な労力をかけることなく、適時・適切に、合意内容を理解できるようにするための最強のツールである」と理解するのです。

「ここから始める企業法務」登島和弘・著(P156より)

私はこのフレーズに、著者の企業法務という「仕事」にかける情熱が表れており、このような情熱が優れた企業法務につながっていくのだと感じました。

私も含めた一般的な企業法務パーソンでは、契約書は当事者の債権・債務を明確に記載し、想定されるリスクへの対応策が記載されていれば、それで足りると考えるのが多くの考え方だと感じます。
事実、私自身、契約書作成にあたっては、簡潔・明瞭な合意条項を作成することを心がけています。

しかし、ビジネスという観点で言えば、契約書を作成した後に担当者の変更や相手当事者との再交渉が発生することはよくあることです。
このような場合に備えて、特に重要な合意条項に関しては、合意に至った経緯や背景を契約書に落とし込むことは非常に意味があります。

さらに、法律という観点で言えば、契約書において、単に「債権・債務」が明確に記載され、リスクに備えた条項が記載されていることは当然の前提ですが、例えば「動機の錯誤」や「特別損害」の認定において、当該合意がなされるにあたり当事者間でどのような交渉がなされていたか、どのような共通認識が図られていたかは非常に重要となります。
この観点からは、契約書の重要な条項においてその背景や交渉経緯まで含めて記載し、当事者間の合意を契約書として残すことは、万が一、紛争になった場合に非常に重要な役割を果たすことになるのです。

このように、ビジネス・法律の観点から、企業法務の基本的な仕事である「契約書」の作成における、ここでの著者の主張は非常に的を得ていると感じました。

まとめ

私自身、10年以上の法務キャリアにおいて、

・よりクオリティの高い企業法務を提供するにはビジネスそれ自体を理解すること
・法的リスクを現実的かつ広い視野で捉えること
・契約書を単なる当事者間の合意と捉えるのではなく、ビジネスそのものを具現化したものであること

を常に意識してきました。

この本は、私自身が暗黙知として意識してきたことを見事に言語化してくれており、それ以上に学ぶことが多く、企業法務において本当に重要なことを教えてくれる内容でした。
それでいて、物語形式でわかりやすく企業法務の仕事が解説されているので、企業法務に携わる全ての方にオススメできる本だと思います。

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