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連載小説 サエ子 第11章

家族写真

山本が電話を切った後、室長が、「普通なら、自分が不利な立場と知って、逃げる所だけどね、相手は頭の薄い変態よ! サエちゃんにお金があるってだけで、接触して来るかもよ、皆んな気を抜かずにね、何かあったらすぐ私に連絡よ!」と言うと、食堂の連中が一斉に「ハイ」って、ありがたいなあ

山本の接触も無いまま、8月に入って繁忙期も終わり、子猫達も成長した。

そんな時、お寺から連絡が来た。寺の再建も終わり、墓地の区画割も済んで、俺達が申し込んであった場所も決まったそうだ。

丁度いい! サエ子が無くした故郷を作りに行くことにした。

お墓には遺骨が入っていないから、空っぽだから、故郷の海の見える場所に建てたい、海から見えれば、名前で見つけて、心が帰って来られるから、

サエ子がそう言うので、先にお墓を立てることにしたんだ。

1週間と長い休みが貰えたので、猫達をペットホテルにお願いした。車なら連れて行けるとも思ったが、猫達の負担が大きいと思うことと、今度のことで、もし、サエ子が故郷へ帰りたがったなら、その時は全員で引っ越そうと思っていた。そうなる予感がしていたんだ。

だって前の共同供養の時、大泣きするサエ子の顔を、隣席の女性がグイグイ拭きながら、故郷訛りの温かい言葉で包み込んでくれた。拭かれるままに泣いているサエ子は、俺が初めて見る顔をしてた。・・・あの時から、いつか、サエ子の手を引いて、此処に帰ってこようと思っていた。

合同供養の時と違って直行バスはなかった。タクシーでも良かったが、サエ子が、路線バスが良いと言うので、お寺へ行けるバスに乗り込んだ。サエ子は窓に張り付いて、子供のように、アッ〇〇屋さんだ、よく来たんだよ、○屋さんだ覚えてる。と騒いでいたが、次第に黙り込み、何にも無くなったと思っていたけど、有るじゃんねぇ、皆んな変わってない、ちゃんと有る・・・なんて呟いていた。

お参りを済ませ、お寺で石屋さんに、掘り込み名と、墓所持者苗字が違うことを聞かれ、結婚のことを告げると、問題ないと言ってもらえた。その上で、3日で出来るとも言われたので、安心した。宿坊をお借りしていたが、石屋さんが、近くに旅館もビジホもあると言うので、旅館を紹介してもらい、俺達は近くの旅館へ移動した。なんだかチョッピリ新婚旅行気分

夕食後、明日は街中で、ブラブラデートしよう!と、サエ子が言うので、了解した。サエ子の家族は、誕生日とか、合格祝いとか、事ある度に、30分かけて路線バスに乗り、この街に来ていたんだって、車で来るとね、お父さんがお酒飲めないから、いつもバスだったって、サエ子の記憶にある場所を歩き回り、2人ともヘトヘトでお腹も空いて、中華屋さんに入った。ラーメンと彼女おすすめの餃子を頼んだ。時々餃子の大食い大会をするらしく、今年の優勝者の写真と、歴代の優勝者の名前が、壁一面に貼ってあった。

美味しい!美味しいと餃子を平らげたサエ子が、大声を上げた。壁の上の方を指さして、「これ!! 兄ちゃんだ。武史、写真撮って」俺は店の人に事情を話し。ペコペコ頭を下げて、サエ子を椅子の上に立たせ、優勝者の名前を指差させて、パシャリ! スマホに大きな思い出を収めた。 店員がちょっと待ってと奥へ行き、まもなく恰幅の良い店主が「あった、良かったぁ」と言って、2枚のポラロイド写真を持ってきた。「ポラだから、ネガは無いけど、これ差し上げますよ」と言って渡してくれた。サエ子は狂喜乱舞である。一枚は、50個完食!という紙を掲げる、高校生の制服姿の少年が、もう一枚にはVサインの家族4人!満面の笑顔の中学生のサエ子がいる。サエ子の、この屈託の無い笑顔が可愛くて、もう一度こんな風に笑って欲しいと思った。

住職は綺麗な箱に入れて、お位牌を渡してくれた。丁寧に鞄にしまい、住職を先頭に、出来立ての真新しい墓に手を合わせた。すると、サエ子と俺の影から、一部が、ふわりと浮かんで、墓石に消えた、住職はウンウンと頷き、お経を唱えてくれた。俺たちも無言で手を合わせた。

つづく


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