ショート ミーちゃん相談があるの
社宅の裏で、兄ちゃんと俺はいつも内緒で猫に餌を揚げている。社宅だから猫も犬も飼えない、でもボス猫のミーちゃんは俺たちにとって特別だった。
パパとママはすぐ喧嘩をする。喧嘩が始まると、兄ちゃんと外へ逃げるんだ。色んな物が飛んで来るから、家の中は危険なんだ。窓だって割れちゃうんだからね、そんな時はいつもミーちゃんが寄り添ってくれるんだ。
喧嘩はドンドン酷くなって、ある日、静かになったから帰ったら、ママが居なかった。パパが1人で寝てたから、兄ちゃんと2人でソーッと後片付けして、カップラーメンを食べて寝た。朝起きると、パパは居なくて、テーブルにお金が置いてあったから、コンビニでパンを買って学校に行った。
俺は2年生だから授業が早く終わっちゃうので、鉄棒しながら5年生の兄ちゃんを待っていた。1人で帰るのはちょっと怖かったから、
2人でまた、コンビニでバン買って帰ったら、ママが1人でビールを飲んでいて、「今頃まで、どこで遊んでいたあ」って俺を殴って来たんだ。兄ちゃんが俺に覆い被さって守ってくれたけど、ゴン、ドンって兄ちゃんを殴る衝撃が伝わって来て、怖かった。パパが帰って来て、また喧嘩が始まった。そのスキに兄ちゃんと外に逃げた。すぐにミーちゃんが出てきた。裏庭の物陰で一緒にパンを食べた。見ると兄ちゃんの肩と背中が変な色になっている。でも痛く無いって言うんだ。兄ちゃんは今朝学校に行く時、貯金箱を持って来ていた。俺に、「考えがあるから、夜まで何処かに隠れるぞ」って言うと、ミーちゃんに「隠れられる場所に連れて行ってくれ」って頼んだ。ミルクパンを食べ終わったミーちゃんが生垣の奥へ案内してくれた。そこはちょっと広くて、暗くて、外からは見えないようになっていた。
ママが怒って2人を呼ぶ声がする。パパも早く出てこないと殴るぞって、怒鳴っていた。社宅の人達は優しいけれど、かかわってくれる事は無かった。パパは、を酒飲んでいると、とても怖いからね、ミーちゃんは、何時間も真っ暗になるまで、一緒に居てくれた。辺りが静かになると、兄ちゃんが「行くぞ」って俺の手を引いた。ミーちゃんに「ありがとう、必ずお礼に来るからね」と言って、残っていたパンを全部置いて来た。通りに出ると兄ちゃんが俺の手を引いて、全力疾走した。走って走って、駅前の交番に着いた。
兄ちゃんが「おまわりさん、助けて下さい」と言うと、すぐに奥の部屋に連れて行かれて、若いおまわりさんが、俺の顔を濡れたタオルで冷やし始めた。痛かった。左側がパンパンに腫れていた。
兄ちゃんと2人で一生懸命話した。一番年取ったお巡りさんが、兄ちゃんに「良く頑張ったなあ」と誉めてくれた。パトカーで病院に行った。兄ちゃんは肩が外れかかっていて、白い硬いもので固定されてしまった。痛い?って聞いたら、うんって、ポロポロ泣いた。病院でおまわりさんに、貯金箱を差し出して、「これ全部出します。足りない分は大人になってから返しますから、弟と一緒の施設にして下さい、お願いします」って言ったら、お巡りさんは泣いて、分かったと言ってくれた。俺も安心して泣いてしまった。
施設では、毎日が忙しくて楽しい、俺は食堂の繁子さんの作るオムライスが大好きで、兄ちゃんはカレーライスが大好きになった。
2週間ぐらいが過ぎた頃、お巡りさんから箱が届いた。お巡りさんがミーちゃんを抱いている写真が入っていて、ミーちゃんはお巡りさんが飼うことになりました。ミーちゃんは幸せになりました。君達も幸せになりなさい、お金はいらないので返します。美味しいものを食べてくださいね、と言うお手紙が入っていました。
貯金箱を机に置こうとしたら、随分重たくなっていました。
おしまい
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