連載小説 サエ子 第2章
サエ子との関わり
サエ子と出会ったのは、7年前だった。以前勤めていた会社に、新入社員で同期入社だった。彼女は、苦手なタイプだった。肩にかかる程度のストレートヘアで、前見えてる?ってぐらい顔に被せていて、キノコの山に赤い唇があるみたいに見えてた。あるコーヒータイムに彼女の真っ赤な唇に張り付いた一本の毛髪(抜け毛)を見つけてしまった。飲み物に口をつける度に、ヒラヒラと動いている。「ウワッ、お前、口紅に長―い髪の毛張り付いてるよ」って言ったら、「ひどーい」って思いっきり睨まれた。何で睨まれてんだ。おまけに、課長が「どれ、取ってやろう」なんて手を出すし、俺に向かって「岡崎君、そっと注意するとか出来いないもんかねぇ、君はデリカシーが無いねえ」だってさ、その時からサエ子は俺にとって、苦手な女から嫌いな女になった。
その頃は、不景気だったから、仕事は俺なりに一生懸命やっていた。自分の不手際で退社が遅くなってしまった夜、会議室の前を通過すると、不思議な声を聞いた。オフィスは真っ暗だ。怖くなってエレベーターは使用せず、階段を駆け降りて出口へ向かった。その時、駐車場から車が出て来た。課長が運転席にいて、助手席にはサエ子がいた。そういえば課長は独身だったなあ、チッ!何だラブラブかよ、外でやれ!外で、と思っていた。
俺は営業部に部署移動し、サエ子とは階が違った。ただ遠目に見ても、彼女はどんどん美人になって行った。恋する女は変身するって本当なんだなあと、感心した。社内でイチャコラするもんだから、噂の2人状態だった。
一年ほど地方出張があり、そこへ前の部署の課長、山本洋介から結婚式の招待状が届いた。やっぱりと思ったが新婦の名前が違った。前の職場の友人に電話したら、教えてくれた。いつ別れたのかは誰も知らない、気が付いたら、課長は新入社員の女性と出来てたみたいだ。サエ子は普通に通勤しているらしい、因みに、結婚式には誰も出ないそうだ。俺も欠席にマルを付けて、葉書を出した。
出張から帰ると、本当にサエ子は普通に仕事していた。
ボーナスが大幅にカットされた頃、会社はリストラもやった。フロアも、5つから2つに、何とか1年持ちこたえた。俺も頑張って営業をした。
そんな中、暗い雰囲気を払拭したかったのか、社では河川敷大バーベキュー大会を催した。当日は、寿退社した課長の奥様も来ていた。チラッと見た限りでは、サエ子の方が俄然美人に見えた。分けがわからん、
取り敢えず久しぶりの肉だ。思いっきり食ってやる。必死に肉を食っていると、サエ子が川に入っていくのが見えた。服のまま泳ぎ出した。残暑の中とはいえ10月だ。泳ぐ季節ではない! 「何やってんだ!」「戻って来い」ワーワーと騒ぐ皆の叫びをよそに、水面が緑色で崖がそそり立っている対岸の淵まで泳いで行って、くるりとこちらを向いた。彼女は立ち泳ぎをしながら、山本課長の目をじっと見つめ、その視線を外さないまま、鼻まで水中に潜り、水面に目だけ出していた、1分・2分・皆が静まり返る。「ヤメロー! 死んじまうぞ!」叫んだ俺は、靴だけ脱いで飛び込んだ。後数メートルだったが、彼女は水中に没してしまった。濁った淵の水中に彼女の姿は見つから無かった。翌日も、1ヶ月経っても見つからなかったのだ。
でも、俺は見たんだ。濁った淵の水中に、上下する白い足の裏を、
つづく