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山高/海深(やまたか/うみふか)第六章/最終章

夢の跡、未来

青い水蒸気を纏(まと)い、木立を縫って登る龍は、山頂手前で、まるでそこに頭部を描く様に先端に塊が出来、次の瞬間そこが大きく旋回した。龍は振り向いたのだ。さらに、竜の頭は、下界に向かって2つに裂けた、それはまるで、大きく口を開けて、咆哮する様であった。やがてフワーッと雲散霧消した。祭りの開始を待つ村人は、それさえも「おおー!景気が良い!」子供達は「わー! カッコイイ!」、

前日までの長雨、強く匂った土の香り、自然界の警告は、全て吉兆と解釈されてしまった。俺達は大丈夫!人はいつも そう思う

全てのブンゼン燈に明かりが灯り、屋台は開店した。海沿いの屋台も、花火を待ちつつ今年は、ガメラも居るので盛況である。寺なので神輿は無いが、それでもいつもの盆踊り、祭り囃子が流れれば、子供達は浴衣を着せてもらい、金魚の帯をひらひらさせながら、参道の屋台へ向かうのだ。山寺の方では、安全祈願を済ませた花火職人達が、出発した。その頃、先に出ていた米永さんから連絡が来た。「村道沿いの崖に穿っている竹筒から、尋常でない水が出ている。幾つもの水道の蛇口が全開しているみたいだ。村道が川になりそうだ」

晴れ上がった星空に月も明るい、でも水を含みすぎた大地は静かに破裂した。祭囃子は緊急放送に変わり、避難が始まると同時に低い地鳴りも始まった。寺の裏手、毛生え地蔵の上から大地は動き始め、同時に川の向こう側の山が下へ向かって動き始めた、目の前で山が半分 塊でズレ落ちて行った。

長い月日が経ち、村は、切り立った崖と清流を持つ観光名所になっていた。ここのリンゴ飴を食べると幸運に恵まれるそうだ。


山津波で、出口を失ってしまったギドラの洞窟だが、地下の温水湖は少し大きくなり、黄金色のギドラは閉鎖空間の中でヌクヌクと眠っていた。10年後か、100年後かまた何処かの入り口が開いたなら、きっと青龍となって山を登ることだろう。

ガメラは土石流に押し流され、村の湾の底深くで、海底から山頂を睨む形でメガネ岩に封じられていた。五行山に閉じ込められた孫悟空の様に、これも10年後か100年後? 浮かび上がる日を待っている。その時はグラスファイバーも溶けて、実態を持ったガメラとして海面を渡って来るかもしれない

おしまい


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