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ショート ギミック

私は年に2回、ビジネスホテルを利用する。期間は1週間、私のマンションを姪に明け渡すのだ。姪は、小さい頃から絵を描くのが好きで、そして上手でした。中学生になると漫画を描き始め、見せてくれるのが楽しみでした。最近では、続きが読みたかったら、買ってくれ! と言われています。

姪は、中学1年生の時、友達にコミケ(コミックマーケット)に連れて行かれ、そこで魅了され。以来夢中で漫画を描き始め、コミケに出店している人にお願いして1点並べてもらったそうです。50円で2冊売れた。それが、相当嬉しかったらしくて、以来のめり込んでいったのです。高校生になってからは、2人の親友と、コミケで出会った先輩2名の5人で、コミケに出店する様になったのです。私のマンションが都内にあるので、最終工程を、私の部屋でギリギリまでやって、会場に持ち込むのです。初めは、私も在宅したのですが、必死に作業する彼女等の邪魔になってしまうし、その姿勢に感動していた。 私は、自身の人生の中で、こんなに一心不乱になったことなんてなかったなあ! なんてネ!

直ぐにコピー機・パソコンその他の使用方法を教えて、マンションを明け渡しました。5人は、凄く頑張って、年に2回その成果を販売する。まるで夏と冬のコミック甲子園の様に、そして一冊でも売れれば、金メダルを取った様に喜ぶ。

姪達は羨ましいほど輝いています。私は、在宅ワーク八割、出社二割で仕事していますが、職場では俗に言うお局です。姪達の一生懸命な姿に、何だか生き甲斐を感じてしまうのです。

猛暑の中、3人の女子高生は、巨大な荷物をひっ担いで、やって来ました。「おばさーん! いつもすみません、」と言いながら、荷物の中から親に言付かった、お土産を引っ張り出して、潰れた饅頭を渡してくれます。 姪が「アー! エプソンの複合機だぁ! おばさん、これ使って良いの?」と歓声を上げる。「良いとも!何でも好きなだけ使ってくれぃ、食事と風呂も忘れんなよ!」なんて言って、邪魔者は退散する。同時に大阪からコミケの先輩2名も着いて、「いつもすみません、」「これどうぞ」と、阪急うめだ本店でしか買えない、グランドカルビーポテチ(私の大好物)を渡してくれる。しかも巨大な荷物の上に乗せて来る。と言う大人な対応、良い娘さんだなあと、いつも思っているよ、潰れた饅頭共々、職場の皆んなで美味しくいただいた。

コミケが始まって二日目に、同僚と3人で、漫画を買いに行った。姪達の店は盛況で、ファン?に囲まれて、汗をかいて笑う姪が、何だか眩しくて、遠くへ行ってしまった様な気がする。ファン1号は私なんだけどもネ!

仕事も一段落しているし、明日は日曜日だし、コミケに同行した同僚2人と、ビールを買い込みビジホに集まって、チビ宴会をしていると、スマホが鳴る。姪が電話してきた。オープンにして3人で聞いた。「もしもし、ユカリちゃん どうしたの?」「おばちゃん。マリさん(コミケの先輩女子のペンネーム)がトイレで泣いてて、私達には何も言ってくれなくて、どうしたら良い?」「うーん、多分言いたくないんじゃないかな、明日は最終日だし、トイレ以外で泣いてないなら、そっとしておきなさい、明日はいつもの様に夜8時にバンで迎えに行くから、その時におばちゃんからそれとなく聞いてみるよ、それより、今季の最終日、力一杯楽しんできなさい」「はーい」こんな電話の後、同僚の弘子は「マリちゃんそろそろコミケ卒業の年齢なんじゃない?」敦子は「エッ、年齢制限あるの? 会場には老若男女居たじゃないの!」「でも私、姪が参加しているから、コミケのこと色々調べたのよ、どうやら30歳を過ぎる頃になると、自発的に卒業しちゃうみたいなのよ、コミュニティを覗いたら、みんな家族に、良い加減に止めておけと言われるみたい、」と言うと、弘子が「何それ! もったいない、あの勢いで参加していながら、年齢で去るっての?」と言うと、敦子も「何人かは、プロにピックアップされることもあるらしいよね、効率の悪いドラフト? せっかく、あれだけ頑張っているのに、何とか将来的な進展って、無いのかなあ、(やめたくない! 続けたい)って言う人が大半だと思うけどな」私も、姪が、漫画家になれるとは思っていない、でも描き続けてほしいし、本気で応援している。姪も時が来たら、コミケを卒業するのだろうか? だって、趣味でやれるほど甘くはない、そばで見ていたからこそ、それがわかる。それとも長く続けて適当に仕事しながら描くのだろうか? 切り替えの時期は苦しむだろうな、そんなことを呟いていたら、弘子が「やっぱり、もったいないよ!あんなに多くの支持を集めるコミックマーケットだよ!探ってみようよ、きっとコミケオービーは此処だ!みたいな何かが、きっとある。」と言う、さらに「無ければ造ろう、サーバ立ち上げに、どれくらい費用がいるかなあ」敦子も「私ね!物理的な場所も絶対必要だと思うのよ、時代的にデータだけで売ると言うのもありだけどね、出かけて行って手に取る、所謂たなごころみたいな? コミケには、それがあるのよね。」と力説する。結局3人で徹夜で話し込んでしまった。私たち動き出すかも知れない、3人とも金はある。結婚の予定は 無い!

翌日夕方まで寝ていた三婆は、約束より少し早めに会場に着いた。

5人はすでに荷物をまとめて待っていた。何と5人揃って新本完売であった。これは凄い、と言うことで、荷物をバンに詰め込み、どこかチョットお高めのレストランで打ち上げをしようと出発した。

結局人数が人数なので、ファミレスに落ち着いた。今日は三婆の奢りだと言うと、アッという間にテーブル一杯に美味しそうなものが並んだ。5人とも昼を食べる時間も無かったそうで、これもアッと言う間に完食である。

食後の飲み物を前にして、何故かシンと静まり返る姪達。どこかでマリちゃんと2人になって、話を聞こうと思っていたら、マリちゃんが「あの」と切り出した。

「あの、おばさん、お世話にってすみませんが、私達 次のコミケが終わったら、活動止めようと思ってます。それと、次回のコミケは大阪から直接来るので、泊めていただくのは、今回が最後です。ありがとうございました。」涙を止めることもできず、最後は嗚咽になっていた。姪達も、昨夜聞いたのだろう、静かに泣いている。色々聞いたら、マリちゃんの家は、既婚者の兄がいて1人子供がいる。それが2人目ができて、実家で同居が決まった。それに伴い、マリちゃんは卒業したら就職して、実家を出ることになったと、マリちゃんの部屋では、サエちゃん(コミケでの相棒、ペンネーム)も一緒に漫画を描いていたから、彼女の漫画執筆も終わりになる。2人とも帰ったらすぐ、求職活動をすると言うのだ。

家においで! 家きなさい! 私のとこにきなさい! 弘子、敦子、私の3人が同時に言っていた。弘子「私のところは、マンションじゃないよ! 一戸建! 私が建てたの 2階の部屋を全部使ったら良い、描きながらゆっくり就職とか考えたら良いよ、アッ因みに、私は独身で結婚の予定なし! 場所も此処から30分と近い!どうかな?」 続く敦子も「私ん家は、マンション4部屋あるから、ふた部屋使っていいよ、あとは弘子おばさんと同文だ」私も負けちゃいない「今のまんま、家に居なさい、あとは以下同文で」エエッ良いのー?と20代前半の反応は至って明るい! 良いとも面倒なことは、お局三婆に任せろい! 
ギャイギャイ騒いでいると、店員にキッと睨まれ、小声になる。帰りの車中から、弘子やマリちゃんの、怪気炎は止まらない。マリちゃんの部屋に溢れる漫画用の機材は全て弘子の家に、着払いで送ることになったようだ。部屋に着いても、8人の未来会議は止ることを知らないのだ。ハイテンションの敦子が「ビルを借りるのよ。デッカいビル!そこで年2回、展示即売会をする。ネーミングは、コミケの全員をその先に誘導して、新戦略方向へ、で! 

ギミックマーケット! どう?

ギミック=からくり、仕掛け、特殊効果 それ良い!と決定!

姪達が、ベランダに並び立ち、3人揃ってジュース片手に、割り箸一本を、魔法の杖よろしく掲げて、「みんな付いてくるんだ。見よ!あれが、ギミックマーケットの入り口だ!」と、指し示す先を、見れば、紅灯の海の先に、さっきまで見えなかった星が、見えてる。あれは、こと座のペガだ。何だ 星も ちゃんと居たんだね、と弘子が笑う、 


おしまい


冒険に旅立つ人にエールを送る!

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