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小説/ヨロズ承り社 その7

祭りの始まり

上東風蔵村に関する記述

『急に起こった大規模な地滑りで、徐々に村人は減っていき、ついに村移転した』

これは、全く間違いだった。正しくは、

敗戦/終戦という現実から、降りかかる最悪の事態を構想し、純粋に、国を家族を守ろうとした男達が、凄い力を発動してしまった。村は、その痕跡であった。街に戻り、女房の手配で録音してもらった、玉音放送を聞き土下座して泣いた。だから移転ではなく、解散であった。理由あって出兵出来なかった男達の最後の戦いは、散開され、振り上げた拳は行き場を失い、主に女房の柔らかい手で受け止められ、その拳を恥じて黙って復興に励んだ。と言う顛末であった。

俺と康平が、ここまで話すと清が、「俺も山育ちだけど、点在する深井戸は沢山あったよ、しかも山では井戸水は使わない、使用水はもっぱら湧き水だ。深井戸には、全て横穴があって、其々深くて、いつか調べてみようと思っていたよ。あれは、そう云う理由もあったのかも、と言った。きっと各村々で同様のことがあったのかもしれない。復興の勢いに消された男達の最後の戦い準備の痕跡。

測量班の隆一が、崖の下で拾った錆びた銃弾を一つ出して、永野さんから貰った、お土産の銃弾の横に立てて並べた。ピッタリ同じサイズだ。

ここを村として機能させるためには、個別に湧水などの水道を引き、キッチンも整備しなければならない、それも含む見積をイワさんの知り合いにお願いすることにした。

企画書を送付し、大体の見積の手配も済んで、最後の1週間、俺達は連日ゴミに塗れていた。山道の奥、西側に大きく抉られた空間、そこに大量に投げ込まれた産廃物の山があり、業者と一緒になって穿り返し、本物の引き取り業者に渡すというミッションだ。

村の方は、箱庭のある建物を仮の役場にすることが決まり、既に広報の人達が到着している。新しく寺と神社を建立することにもなり、隆一が奔走している。

ゴミ撤去のミッションもそろそろ終わろうと言う頃、この巨大な空洞の正体が分かった、武器工場だ。小ぶりな高炉と、吹子、金型の一部、急いで埋めたのであろう、床の下から出て来たレシーバの山は見えていた。まだ一丁も完成していないのだ。命がけで作った空間は、必要とされる事もなく、大自然によって閉じられ消えていってしまうのか、イワさんは作りかけとはいえ一応武器なので、警察に処理を頼もうかと言っていたが、俺は、永野鐡夫さんに連絡してはどうかと、持ちかけた、イワさん達が、それが良いと膝を打つので、電話したところ、彼はその日のうちにやって来た。山道の細い道路が立派な二車線になったお陰だ。

鐡一さん達の、作りかけの武器を溶かして、寺の梵鐘を造ることになった。高炉の火入れの儀式には、7人揃って参加した。火を扱うと言うのは荘厳なものだなと思った。後で清と康平が、鉄を溶鉱炉に継ぎ足す時、悲鳴みたいな音がするんだねと言っていた。俺が「キャー、イヤァー、こんなはずじゃ無かったのよー!ってか?」と笑ったら、隆一が「大丈夫!お前は武器から平和の鐘に生まれ変わるんだと、俺が引導を渡した」と言った。さすが、あんちゃんだ。

久しぶりに会社に戻ると、俺たちの仕事ぶりに町会長が、大変喜んでくれて、夕食は何と、特上寿司でした! どうして寿司ってこんなに旨いのかな、4人揃って食後のニコニコ緑茶タイムを楽しんでいると、珍しくファクスが届いた、上東風蔵の役場からだ。永野鐡夫さんが、村に定住を決めて、村民1号になったそうです。カッコいなあ鐡夫さん。それと東風蔵広報から、来年八月を目処に、上東風蔵祭りを考えている。命名「東風蔵ゲンコツ祭り」だって、そのことで、よろず社様と打ち合わせしたいので、ご都合の良い日時をお知らせいただきたい。との事でした。立派な道路が出来たので、今では3時間ほどで到着できる。来週からは日帰りしようかと、話していたところだ。

東風蔵ゲンコツ祭りか、楽しみだなあ

なんだか忙しくなりそうだ!!


おしまい

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