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連載小説 サエ子 第7章

猫、ねこ・ネットワーク

日曜日は、昼前に出発した。花で一杯の猫達の棺桶を積んでいるから、なるべくゆっくりと寺へ向かう、ペットにお墓は必要無いと言うことで、3匹の首輪を形見に貰って、火葬と供養をお願いした。全てが終わると住職が、

「猫達は、俺達2人が、山本と一戦交えて、怪我をしたり、罪になることが無いように、最後の力で最大限の制裁を下して逝ってくれたのだから、悔しいだろうが、彼のことは放っておきなさい」と言う言葉に頷いた。

寺を後にすると、もう夕方だ。ファミレスで、本日初めての食事をする。腹減ったー、 満腹になると「お寺さんの言う通りだけどさ、行くだけ、行って見るだけ、ねえ武史、行こう」もちろん、俺もそのつもりだ。「よし、行こう」

ネコカメラに写っていたマンションは、すぐ見つかった。途中で出会った例の、ハチワレの大猫が、まるで道案内でもするように導いてくれたから、

車をパーキングに入れて、マンション前で立ち話をしている人達の方へ行く、足元にハチワレが来たので、ンショ!と抱き上げた。すると中年の女性が、「あら、ハッチャンが大人しく抱っこされて、優しい方なのねえ」とニッコリし、他の奥様方も微笑んでくれる。ハッチャンは、トンッと地面に降りると、尻尾をピンと立て、モデル歩きで去っていった。サエ子が「何か、あったんですか?」と聞くと、

奥様A「そーなのよ〜、凄いことがあったの」 奥様B「ここの中年男がね、2・3日前から3匹の猫チャンを虐待してね」 奥様C「そうなの、鉄パイプなんか振り回して、トンデモナイ奴なのよ」 奥様A「結局、ここらの地域猫達の逆襲にあって、大怪我しちゃったのよ、管理人が救急車を呼んだけど、左目はダメだと思うって言ってたのよ」近くの塀の上から、ハッチャンが静かにこちらを見ていた。俺達はこの時、ハチワレを甘く見ていたのだ。

帰りの車中で俺が、ドキドキしながら平静を装い「もう、あのボロアパート引き払って俺ん家来いよ、結婚しよう」サエ子は急に無言で泣き出した。びっくりして、「ゴメン、アハハ今のは忘れてくれ」と言い出すと彼女は被りを振って、「違うの、嬉しくて、ありがとう・・・こちらこそお願いします。ありがとう」色々あったからなぁ、俺も少し泣いてしまった。ハチワレに、お礼のつもりで、持参したチュールあげ損ねたね、なんて話していると、霧のような雨が降り出した。早く帰って温かいもの飲もうねと、アパートで下車すると、扉の前で何やら蠢くものがある。先に降りたサエ子が、「武史、大変だよ、赤ちゃんネコ3匹居る」俺も走って行くと、子猫は小糠雨でビショ濡れだ。部屋に入り、乾いたタオルで拭いてやるが、ミルクは・哺乳瓶は? サエ子が、老猫を見てくれた獣医に電話をすると、すぐ連れて来い、と言うので、リュックから使わなかったスリコギを出した。サエ子もトートバックから、肉叩きを出す。

俺達って、ヤツを潰す気マンマンだったんだなぁ、顔を見合わせて笑った。肉叩き!・・彼女には逆らわないことにしよう、再び乗り込んだ車中で、俺が

「プロポーズはしたよね!」と言うと、サエ子は、「フフ、オッケーもしたからね」子猫はタオルの中で、ウニョウニョと暴れ回る。

幸いネコ風邪も無く、皆元気だった。必要なものも買い揃えた。獣医さんがポロリと言った。うーん3匹が君たちのノルマってことかな、手配師はハッチャンだろうね、知ってる? 猫、ねこ・ネットワーク 俺達は納得した。

つづく


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