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人魚姫になる話

呼吸

喘息に特定した幼児ばかりの水泳教室で、お着替えの後 何故か母親がいつも「苦しくなったらシューね!」と言ったことを思い出して 水着の内ポッケに吸入器を押し込んでいた。

5人一列に並んで浅いブールで、先生の笛に合わせて 水中にしゃがむ 出る の練習をしていた。私は一番端で 息を止めて しゃがみながら息を吐いて  立って息を吸う を繰り返していた時 しゃがむ間際 苦しくなり 水中で吸入器を喰わえてシューをした。当然肺の中は水でいっぱいになる。見ていた先生が、慌て抱き上げると 息を吐く様に ピューっと水を吐いて 一寸咳き込んで、無事だった。ママは歩き始めた弟と外に行っていたので、知らせにびっくりして、怒って私の頬を打った。でも私はその時、水中で確かに一回呼吸をした記憶がある。パパにそう説明したら、パパは困った顔をしていた。
弟は、私の咳が止まらないから、一緒に遊部のはダメたっだけれど、いつも離れた場所から、ニコニコと手を振っていて、本当に可愛いです。

吸入器のネクストラップも可愛い紐で、チョットおしゃれに下げる様になっていた。本当は走るのも大好きだけど、喘息が出ちゃって、入院すると、お金がかかってママが大変なんだ。だからいつも静かにしている。
でも今年の夏は、海の学校に参加させてもらった。ハシャギ過ぎたのかな、夜になると発作が少し出た。吸入器でなんとか押えたが、家に帰されるのが嫌で引率の先生にばれない様にしていた。3日目の発作も、殆どトイレに隠れて吸入器でやり過ごした。でも、4日目の朝、発作は強烈になって繰り返す咳に先生も気付いてしまいました。とても叱られ、保健医に手当をしてもらって、比較的症状が軽くなった午後に、車で駅まで送ってもらって、帰宅することになった。
1人で、海岸の横のベンチに荷物を降ろして座り、吸入器のキラキラのストラップを指に巻いては、クルクル解く、(家に帰るとまた独りぼっちだ。どうして読みかけのマンガ、持ってこなかったのかな、すぐ帰ると分かっていたのかな)

その時、凄い事を思いついたので、1人で行ってみようと思った。心配するといけないから、ノートを破って、パパとママにお手紙を書いた。

手紙


ふいに気持のよい冷たさに包まれて、気付くと海の中に入っていた 名前を呼ばれて振り向くと、保険医が両手を上げて怒鳴っている。アッ! 服着たままだ、何か叫んでいる大人がどんどん増えてる、ダメだ!叱られる。咄嗟に水中に身を隠すと、声は聞こえなくなりホッとした ドキドキしたので吸入器を喰わえてシューッと吸い込み、波に身を隠し、もう一度シューッとして 水面を見上げると、キラキラと光の玉がいく筋も見えて、奇麗だなあと思いながら 吸入器の数字を見た。後60回分もあるこれなら安心だ。

目が覚めると白カーテンに囲まれていて白い天井が見えた。カーテンの向こうの話し声が聞こえる

ママ もう本当に手に負えません おかしくなりそうです
先生 お母さん 貴女のお子さんでしょ 助かって良かったじゃないですか
パパ こいつはね先生 小さい頃から親を困らせる事をわざとやるんです。他の事はともかく この溺れた真似だけは 絶対に許せんのです。
先生 そうですね 何時間も水中に居て 肺に水が溜まってないなんて奇跡です。それからご両親!これを読んでみて下さい。お願いします。


ママとパパへ
心配かけてごめんなさい、お金も沢山使わせてごめんなさい、でも、もう大丈夫です。私は人魚姫になることにしましたから、海の中では咳は出ないし、人魚姫になれば、海の底の宝物を持って来てあげます。人魚姫になったら、人間に戻れないかも知れないけれど、それは海の底の魔女のお婆さんに相談してみるね、だから、もう大丈夫だよ、行って来ます。


お部屋が静かで怖い、声を出さないで泣いていたら鼻をかみたくなった。しかたないのでわざと咳き込みティッシュを取って鼻をかんで涙を拭いた。泣いていたら叱られる。途端にカーテンがサッと開き ママが、目が覚めたの!よかったーと泣いたので、びっくりした。ごめんなさい! と言ったら、パパが人魚姫にならないでね、海の魔女のところへ行かないでね、もう1人にしないから、一緒に喘息治そうねと、いって抱っこして泣いた。もう年長さんなのに、泣いたらおかしいのに、ワンワン泣いてしまった。弟まで泣いてしまったよ。

人魚姫になるのは、やめることにしました。

おしまい

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