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X DAY[怪談]

友人の家に遊びに行った時のことです。
なんの用事だったかは、今でも思い出せないんですが。
古いアパートの一室。その友人はひとり暮らし。
中はまぁ、殺風景というか、生活感が無い、というか。友人、と言いつつも初めて来たものですから。
思わず、「なにもねぇ家だなぁ」なんて口に出してしまって。それを聴いても友人は、笑ってるだけでしたが。

で、友人の自宅でまったりと過ごしてたんです。
六畳ほどの和室。簡素なテーブルを挟んで二人。
他愛も無い話をうだうだと。
その内、段々と、居心地が悪くなってきて。
なんだか、目の前に居る友人が、見たこと無い男に思えて仕方なくなってきたんです。
いや、そこで、我にかえったんですよ。

この男は誰だ?
今、目の前に居る男。
友人でもなんでも無い。
まったく、知らない男。
なんで、こんな知らない男の家に俺は居るんだ?

居心地の悪さが、不安と恐怖に変わっていって。
この男に、この感情を気づかれてはいけない。
そう、何か言葉を言わなければ、話をしなければと思って、部屋を見回すと、壁にカレンダーがかけられているのに気づいたんです。
カレンダーは月めくりのモノで、見ると何日かに「×」と赤い文字で印が記されてました。
それが、とても気になったので、「このバツってのは何かの記念日なの?」とカレンダーを指差して、聞いてみたんです。

男は私から目を離す事なく、「あれは、カケルだよ。バツでもエックスでもない。獲物がかかってくる日。そういう日だよ」と、抑揚のない声で答えました。それがまた、怖くて怖くて…
「…釣りでもやってるの?」声はだいぶ震えていたと思います。男は真顔のまま。
「釣り。まぁ、ある意味これも立派な釣りだなぁ」
男の声は、まるでトンネルの中で聴こえるかのように部屋中を反響していました。
限界だ。そう思った私は思わず立ち上がり、
「用事があるんだ。今日は帰るよ」
そう言い終わらない内にさっさと玄関へと向かっていました。
男は立ち上がる様子も無く、ただ真後ろから、
「気づいたか。残念」
とだけ聴こえて、私はもう玄関から転がるようにして逃げました。

気がつくと、家の前に居ました。
無我夢中で走っていたので、あのアパートがどこにあるのか、アパートからどうやって自宅に帰ってこれたのかはわかりません。

話は以上です。
あれ以来、男を見たとか、変なことが起きたとかはありません。
いったいあの男は何者で、あのままあの部屋に居たら、私はどうなっていたのか、わからないままですが。こんな、変な話を聞いていただいてありがとうございます。

…あれ、あのカレンダー。
今日の日に赤い字で、「×」と書いてありますけど。
何かの記念日なんですか?

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