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雪だるまに関する考察[怪談]

久しぶりに雪の積もった朝。
公園の隅に雪だるまがこしらえてあった。
子供が作ったにしては、よくできてある。
親の手を借りたのだろう。
上下に積まれた白く美しい丸ふたつを見て、男は思う。

例えば。
あの雪だるまを崩したとして、中から何が出てきたら怖いだろうか。

まずは定番だが、遺体。
雪だるまの顔の辺りを削ぐと、中から人間の瞳孔がこちらを睨みつけるように現れたら、さぞ恐ろしいことだろう。
遺体を雪の中に隠すという行為に、利己的な計画性を感じる。
犬や猫などはどうか。
これは悲惨だ。なぜなら、雪の中に隠す必然性が感じられない。雪が溶けて現れるソレを見て慄く人々の様子を、草場の陰で笑っている人間がいるのだ。
恐ろしい。まったく共感のできないことが、怖いことなのかもしれない。

あとは、例えば。
宗教的なモノが出てくるとか。
石碑や仏像などどうだろう。
まず、神聖なモノを雪で埋めたという、あまりにもバチアタリな行為が怖い。
そしておそらくは、込められた怒りの矛先は、第一発見者に向けられるのだ。理不尽なことに。
理不尽も、恐怖には不可欠な気がする。

あとは、何があるだろう。
例えば。
ぬいぐるみや人形。
人間の思いがこもりやすいといわれているなら、雪に埋れれば不快に感じることも容易に想像できる。それが怒りに変わっていくことも。
見つけた時の衝撃も強い。
掘り出した中にマネキンの頭が出てきたら、遺体だと勘違いしてしまうだろう。
これらは見た目にインパクトがある。

しかし、一見何の変哲もないモノが出てきたら、それもそれで気味が悪い。
例えば。
封筒。ご丁寧にビニールで舗装されたモノなんてどうだろう。中のモノが破損しないように。
封筒の中身は、手紙やDVD、いやビデオテープの方が怖いか。それらを読んだり見たりした者に悪意をわかりやすく理解させるような、内容のモノ。不幸の手紙、あるいは呪いのビデオといえばわかりやすいか。
その生みの親が人間でもソレ以外でも、共通するのは自身に害を与えようとする悪意。悪意があるモノは怖い。

ここまで想像を膨らませて、男は雪だるまへと近づく。
さて、この中には、いったい…

男は振り返り、公園を出た。
まさか本当に、あの雪だるまの中に怪異が潜んでいたとして、ソレをわざわざ確かめるような無邪気さはない。
まず、そもそも雪だるまに何かが埋もれている方が稀なのだ。
それに、親子が一生懸命作ったのであろう幸せの結晶を、崩してしまう行為そのモノが怖い。

結局、雪だるまの中には何かがあったのか。
少なくとも、男は知ることは無くなった。
何故ならこの数時間後、
例の雪だるまの中から、
当人の遺体が発見されるのだから。

怪異は結局、
人間の想像を超えた形で現れる。
どれだけ思いを巡らしても、
無駄なのかもしれない。



怪談朗読V Tuber榊原夢様主催
「第六回 集まれ!怪談作家」応募作品。
#ドリーム怪談

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