訳もなく涙が…映画パーフェクトデイズ鑑賞記

【最初は期待薄】

トイレ掃除夫の日常を描いた映画「パーフェクトデイズ」を
4月29日に見に行ってきました。
チケット代が4割安くなるメンズデイ。
カンヌで賞を取ったという話題作というぐらいしか情報がなく、正直、
あまり期待していませんでした.。

【見終えると涙が。。。】

スクリーンに流れるのは、役所浩司さん演じる掃除夫の淡々とした日常と心模様。
なのに、ラストシーンを見ながら、
訳もなく涙が次から次へとあふれてきました。
何がどうという明確な理屈はありません。
それなのに、じんわりと温かな感動の波が胸に打ち寄せる。
こんな映画は初めてでした。

【名もなき人の日常】

この社会を生きる名もなき誰もが、
小さな物語を紡ぎながら日々を生きている。
ありふれた日常や、出合う人々がいかに
愛おしいものか。この映画はそこはかとなく教えてくれます。
掃除夫の温かなまなざしや優しさが、
スクリーンからにじみ出てくるのです。
男は多くを語らず、時折見せる人生の影も見え隠れします。
仕事が忙しく、凝り固まった私の心は、ほぐれて溶け出し、
それが涙になって流れ出たような気がしました。

【丁寧に日々を生きる尊さ】

とにかく日々を丁寧に生きる。
パーフェクトデイズは、そんなトイレ掃除の初老の男の
日常を描いています。
丁寧に生きるとはどういうことなんだろう。
木漏れ日のように垣間見える人の心模様や自然に、
優しい眼差しを向け、寄り添うことなんでしょうね。
それが日々の幸せを織りなしていく。
そんな思いが胸に広がりました。

【時代に流されない】

東京・渋谷のど真ん中で、主人公のトイレ掃除の男、
平山は、ウォシュレットのノズルに至るまで、丁寧に磨きます。
その生き方は、時代の流行り廃りに流されることはありません。
朝、古びた軽のワンボックスのハンドルを握り、70年代のお気に入りのアメリカンロックを
収めたカセットテープを聴きながら仕事場に向かいます。
ランチは神社境内でサンドイッチとパック牛乳。
そこで、木漏れ日をつくってくれる木々を仰ぎ見ては成長を喜び、
手に馴染んだフィルムカメラを向ける。
家では境内から持ち帰った木の苗に毎朝、霧吹きで水をやる。
公園では母とはぐれ泣いている男の子の手をつなぎ、連れて行く。

【人生の陰影】 

どんな過去を生きて掃除夫になったのかはなかなか明かされず、気になります。
規則正しい生活リズムは、平山が何らかの過去と決別し、やりきれない心情にフタをして、
無用な隙をつくらないように編み出したルーチンにも映るのですが―。
過去や、思いを寄せる人を巡る小さな事件がパーフェクトな日常の形を
少しずつ崩し、そこに男のやるせなさがしみ出していく。
役所さんが表情のみで語る秀逸の演技が、
男の人生の陰影と見事に重なり、胸を打たれます。
日々を生きることの素晴らしさ、尊さを感じられると思います。

【日本が置き忘れたもの】

スマホが普及し、タイパがもてはやされる令和の時代。
日常を効率という物差しで測るようになった日本人に、
何か置き忘れていたものを思い出させてくれる。
小津安二郎監督を信奉するドイツ人監督の思いも感じ取ることができます。

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