砂上の東証最高値

数字に熱量と期待感を感じない。空疎とすら思える。AIブームと半導体が生み出した蜃気楼に見えて仕方がない。


東京証券取引所で22日、日経平均株価の終値が史上最高値の3万9098円を付けた。バブル経済期に記録した「天井」を突き破ったと、メディアは軒並み大きく取り上げた。


しかし到底、手放しで喜べる状況ではなく、砂上の最高値に映る。
あくまで、複数の外部要因が重なって生まれた産物であり、日本経済の実力を過大に上回る数字でしかない。冷静に分析すれば、日本企業の株を買っているのは海外の投資家だ。円安で日本株を買いやすくなっている事情もある。


しかも、今後の拡大が見込まれるAI市場と、それに伴う半導体産業への期待値に過ぎない。半導体そのものでは、日本で先端半導体を量産するのはTSMCや米マイクロンテクノロジーといった海外勢。日本には世界に渡り合えるメーカーがない。

恩恵を受ける業種は半導体以外に広がりを欠き、株高がもたらす経済効果は極めて限定的と言わざるを得ない。半導体は技術や機器が専門的で、関連する企業が少ないからだ。日本経済の屋台骨を支える自動車と比べると裾野が極めて狭い。日本企業の99%を占める中小企業の中で潤うのは、ほんの一握りだろう。


日銀の金融緩和政策が株価を押し上げている面も大きい。日米の金利差に伴う歴史的な円安傾向が、輸出産業の追い風になっているからだ。
裏を返せば通貨としての円の力は落ちており、
日本経済の凋落ぶりを表している。


マイナス金利政策が今春に解除されれば、金利が上昇し景気に水を差す。企業の投資も減速するだろう。日経平均は過熱気味の株高から一転、急落が見込まれる。


何よりも深刻なのは日本のGDPがドイツに抜かれ、世界4位に転落したことだ。
今の日本に足りないのは、世界で売れる製品やサービスの乏しさだろう。
規格外のとんがった発想やチャレンジ精神は色あせ、世界をリードする大志や気概も弱まっている。失われた30年の間に、限界という名の天井を突き破るパワーも意欲もアイデアも失われてしまったかのようだ。


ホンダを興した本田宗一郎氏は著書「俺の考え」でこう記す。

「私たちがやる仕事は、そこに需要があるからつくるのではない。私たちが需要をつくり出したのである。これが企業というものでなくてはならんと思う」

常識を覆し、時代を変えるような異端の経営者が出てくるような土壌をつくり出さなければならない。


戦後の高度成長期の成功体験から抜け出せずにガラパゴス化したニッポン。脱炭素やデジタルという世界の潮流に乗り遅れたニッポン。
人口減少と高齢化も成長のブレーキになる。
企業のみならず、政治も教育も含めて基礎から国をつくりなおさなければ、ますます時代の奔流の中に沈んでいくだろう。

超高齢化と人口減のなかで、生産性を大幅に高める。
そのためにはAIとDXを浸透させるとともに、
働き過ぎの温床になっているムダなサービスをとことんやめる。
量産品でなくともキラリと光る製品やサービスを生み、世界に売る。


史上最高値などに浮かれている暇は一瞬たりともないのである。


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