技術力と使命感が不可能を可能にする〜 プロジェクトXに見たメーカーの原点

技術力と使命感 思い起こせ~プロジェクトXに見た、ものづくりの原点

 大手自動車メーカーの認証不正が世間を騒がせ、日本のものづくりの信頼は大きく傷つきました。日本を代表するトヨタ自動車などの本社を、国交省が立ち入り検査するという、信じられない光景。情けなさと失望にさいなまれた私の心は、6月8日夜のNHK番組「プロジェクトX」に少し救われました。

【中小ニットメーカーの挑戦】

番組が取り上げたのは、優れた伸縮性を持ち、再手術が要らない心臓血管パッチの開発物語です。先天的な血管の穴を塞ぐため、手術を受けた子どもの心臓の成長に合わせ、縦横に2倍伸びるパッチを作るという困難なプロジェクト。ほぼ不可能と思われた素材を生み出したのは、福井県の小さなニット生地メーカー、フクイタテアミです。その諦めない精神と技術者魂に、驚きと歓喜が胸に広がり、涙が止まりませんでした。

不可能を可能にする世界トップレベルの技術力は、まだこの国にしっかりと息づいている。メイドインジャパンが死後になって久しいが、日本も捨てたもんじゃない。

【子どもの心臓手術を社員が見学。使命感が突き動かす】
 心をわしづかみにしたのは、心臓病に苦しむ子どもたちのために難題に挑み、わずかな可能性にかけたフクイタテアミの精神です。

 フクイタテアミは従業員90人ほどの小さな会社です。そんな町工場を東京の心臓外科医が訪れ、前代未聞の新素材の開発を提案します。成功すれば、子どもと親は心臓の再手術という重い負担から解放されます。しかし、心臓の血管に貼ったパッチが心臓の成長の過程で万が一にも破れれば、血液が漏れ、子どもは命を落としかねません。極めてリスクが高いプロジェクトだけに、大手企業は軒並み断りました。この提案を、町工場は引き受けます。社長や社員が心臓手術の現場に立ち会い、懸命に生きようとする子どもたちの姿を目の当たりにしたからです。

 社長は決断の理由をこう振り返ります。「手術中はメスを入れるのに心臓を止めるんですよ。それも知らなかった。手術が終わるとき、心臓は再び鼓動を始める。懸命に生きようとする子どもたちの姿に涙しかありませんでした」

医療とは無縁の中小メーカーが、子どもの命のためにリスクを負い、持てる技術力の全てを注ぎ込むとは。失敗すれば企業の存続にかかわる命がけの挑戦に、心が震えました。

【色あせた使命感と情熱】
それに引き比べ、昨今の自動車メーカーの型式指定の認証申請にまつわる不正はなんとも情けない。日本の自動車メーカーが失ったものは、ものづくりにかける情熱と使命感なのではないでしょうか。 自動車メーカーも人命を預かる仕事です。客に真摯に向き合い、法令を守り、国の基準に適合した安全な車を造る。原点を見つめ直し、交通社会を支える本来の姿に立ち戻ってほしいものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?