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動物病院で遭遇したある光景

一昨日はナビの定期検診の日だった。

予約は11時30分からで、午前中の最後の枠だ。10分ほど前に病院に到着し、受付を済ませて、順番が来るのを待っていた。病院内には5、6組ほどの患畜の飼い主さんがいて、おそらく半分はすでに受診済みで会計待ちだと思われる状況だった。

この病院には診察室が4室あり、私たちはその中の一番奥にある4番診察室の前のソファーに座っていた。4番診察室だけが大型犬用の診察台があるので、ナビはいつもそこで受診していたのだ。

しばらくすると、目の前の4番診察室の引き戸が開けられ、中からナビの主治医の女医さんが出てきた。そして、「〇〇さん、〇〇さん!!」と大声でソファーに座っている患畜さんたちに向かって名前を呼んだ。

しかし、誰からも反応がない。小走りで奥の方まで探しに行ったが、探している飼い主さんはいないようだ。院内にはいないとわかると、看護師さんも加わり、あわてて二人で駐車場に向かって走って行った。

この動物病院には長くお世話になっているが、このような事態は初めてである。いや、他の動物病院を含めても経験したことはない。何か尋常ではない状況になっているようだ。

しばらくすると、40代と思われる女性が獣医師、看護師と一緒に院内に入ってきた。そしてそのまま、獣医師が出てきた4番診察室に入って行った。3人とも険しい表情だ。

それからしばらくすると、男性と子供が慌てた様子で院内に入ってきた。そして、どうしたらいいのかわからない様子で受付付近に立っている。男性はがたいの良い、気の強そうなタイプだった。

それほど間を開けずに、4番診察室から先ほどの飼い主と思われる女性が顔を出し、男性の名前を呼んだ。男性はそれに気づき、子供と二人で4番診察室に向かったが、途中で子供には車で待つように指示をして、自分だけが女性と一緒に診察室に入って行った。

そのうちに診察室の奥の部屋から院長が現れるのが、ガラス越しに見えた。患畜の飼い主と思われる男女と主治医を含めた4人で何か話をしている様子だ。

先ほどからの状況、そして院長まで現れるということは患畜に何かあったのだろうと容易に想像できた。

どれくらいの時間が過ぎたのかはっきり覚えてはいないが、おそらく12時は過ぎていただろう。先ほどとは別の看護師が私たちのところにやってきた。「今、主治医が緊急の処置を行なっていますので、ナビちゃんをお預かりして、できるだけの処置をさせてもらいます」とのこと。

ナビを預けてさらに待っていると、やがて診察室の扉が開いて、男性が患畜の犬を抱いて出てきた。一見したところでは、高齢犬には見えない。犬種はおそらくボストンテリアだろう。全く動かず、ぐったりしていた。

そして男性は泣いていた。

男性の後を追うように、女性が歩き、さらに院長と主治医が一緒に外に出て行った。駐車場まで患畜とその家族を見送ったのだろう。しばらくすると院長と主治医の二人は鎮痛な表情で戻ってきた。

私たちが見た光景は以上だ。

一体何があったのかはわからないが、少なくともはっきりしているのは、病院に運ばれたボストンテリアが、何らかの理由で病院を出る時には飼い主の涙を伴う結果になったということだ。

病院側と患畜の飼い主との間で揉める様子は一切なかったので、双方が納得せざるを得ない、どうしようもない事態の結果だったのだろう。

想像はいくらでもできるが、大の大人が人前で涙を流すような結果になったことに、それを目撃した私たちもとても悲しい気持ちになった。

結局、ナビの診察が終わって、会計を済ませて動物病院を出たのは1時半を過ぎていた。

改めて今、大病をしたナビが再発もなく元気でいてくれることに深く感謝した。そして、共にこうして一緒に過ごす1分1秒を大切にしないといけないと痛感した。

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