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京町家との格闘をお話ししてみなさんと一緒に考えます

その16町家をつくり守ってきた職人の技―6・表具

表具について
 洋紙(現在普及の)の寿命は100年、デジタル保存といってもDVDは10年―長寿命のものもあるが温湿度管理が必須―。和紙は後段に3千年とあるが、日本での実績は千三百数十年です。技術の進歩っていったい何だろうと思ってしまいます。その和紙の仕事を担うのが表具師です。
 実は町家の職掌のなかで表具師はちょっと存在感が薄いのです。たしかに祇園祭が屏風祭りといわれますし、床の間の掛け軸は不可欠な要素です。しかしそれらは調度と呼ぶにふさわしく、建築の構成部材としては襖や明り障子があるものの、明り障子の張替は市井では住み手の仕事であって、表具師が表に出ることは少ないと思います。そうすると襖だけになりそうです。そして最近でこそ町家に襖は見かけますが、襖のない町家が圧倒的に多いのです。それは紙が貴重で高価であったかったからです。
 戦前までの職人の手間賃は現代の価値で5千円(江戸時代)から1万円弱で、現代の半分以下であり、昔は材料が高く今は手間が高いといわれるゆえんです。相対的に和紙の価格の高さは手が届きにくくなります。それでも富裕な商家では襖をたてています―特に仕切ったり繋げたりする座敷と前の間の仕切り―。戦後は機械漉やパルプ紙が普及し襖が増えますが、今度は好景気時代以降の住まいの洋風化で需要が減ってきました。
 襖は屏風から発展して生まれた日本独自の建具です。屏風は書いて字の通り風の屛(と)じる衝立です。枕屏風がその典型です。沖縄の伝統の住まいの塀を開けた正面にある壁をヒンプン(屏風)といいます。石敢當やシーサーと同じで魔除けとされますが、本来の役割は風よけです。
 さてその襖は屏風から大躍進を遂げました。風、視線、勝手な侵入を遮り、断熱性があり、和紙の肌触りが柔らかな雰囲気を演出し、軽くて開け閉てと片付けが容易です。また少々の破れは修理ができ張替えも容易です。作法に従って作られたものは漆縁や桑縁、和紙のしろ唐紙であれ貴重なものです。少々傷んでも取り替えるのではなく修理して使い続けるようにして、新しいものを入れるときは変形せず長持ちして、本来の襖の機能を継承した容易に張替えができるものを採用したいものです。

1. 仕上りと特徴
1)仕上り(完成品)
・  襖:本襖、長崎襖、源氏襖、腰襖、小襖。戸襖(建具)。仏間の軸廻し、他
・  屏風
・  表装
・  障子紙、腰張
 
2) 特 徴
日本建築は木と土と紙でできているといわれるが、表具師はそのなかの紙を扱う職種である。襖紙、障子紙、屏風、腰張、掛け軸の表装など、紙をあつかう幅広い分野を受け持つ。高級な和紙は「絹千年、和紙三千年」とも言われる通り、非常に丈夫で長持ちする。湿度の変化により伸縮するので扱いが難しいが、襖や障子など建具につかうと軽く、風を遮り、光を通しあるいは遮り、部分の補修が可能で貼替も容易である。建具を多用する日本の伝統建築にはなくてはならない職種である。関西では表具師、関東では経師(きょうじ)という。

1. あゆみ―表具師の誕生
 表具の技術は仏教とともに中国から伝わってきたとされる。仏教の経本の巻物の製作、仏画の表装、屏風の製作等の技術が奈良から平安時代にかけて京都を中心に受け継がれてきた。その後日本独特の「床の間」を飾るための掛け軸が広まり、また、引き戸に襖や障子が使われるようになり、特に江戸時代になると和紙を扱う表具師の仕事が盛んに行われるようになった。ただし、紙は元々高級なもので、紙障子が一般に普及したのは江戸の末期といわれている。

主な道具

1. 道具と材料
道 具
1)刷 毛
・糊刷毛:裏打ちや上張りの広い面積に糊を塗る刷毛
・付廻し刷毛:細い部分や細かな部分に糊付けする刷毛
・打ち刷毛:糊付けした紙の上から打つように使う。紙の表面がももけるので、最後に撫で刷毛でももけたところを掃除する
・撫で刷毛:糊付けした紙の上から撫でる刷毛
・水刷毛:適量の水分を均一に与えたり、しわを伸ばすときに使う刷毛
 刷毛に使う毛の素材は、昔はたぬきが一番良いとされたが、今は様々な種類が使われている。
2) 包丁、カッター、木工道具
・現在はカッターを使うこともあるが、掛け軸などは現在でも包丁を使う。使うのは片刃の裁ち包丁である。
3)定木、箆、数珠など
・木の定規や竹の箆やをつかう。
材 料
1)糊
・澱粉糊:澱粉からつくる。昔は古米から作った。長府糊、硝府糊として流  
 通している。
・古糊(ふるのり):澱粉糊を寝かせたもの。10年のものが最上。
・合成糊:最近は乾きの早い合成糊を使うことが多い。不液糊として流通し 
 ている。素材は様々。京都の表具組合では京表のりとして製品化してい 
 る。腐らず、湿らせると剥がれやすいのが利点。
 
 糊の濃さは、障子を貼るときは薄くし、水をつければ剥がれるように貼る。破れにくい紙は濃い糊を使う。腰張りのときはすこし濃くする。
 
2)紙
種 類
・本鳥の子:原料に雁皮を100%使い、主に越前で漉かれた手漉きの雁皮 
 紙。淡い黄色をした紙の色が鶏卵の殻の色に似ているところから鳥の子と
 言われる。機械漉きのものと区別し本鳥の子という。本鳥の子は原料が雁
 皮100%の特号紙から別の原料を混ぜた1~4号紙までの区分がある。
 特号紙は一万円札に使う最上級の鳥の子で、値段は襖一枚分で3万円ほ
 ど。地柄を入れるときは漉くときに入れる。
・鳥の子、上新、新鳥の子:機械漉きで安価。鳥の子は機械漉きの中では上
 物で、上新は鳥の子に近い風合いで、一般の住宅に使われることが多い。
 新鳥の子は量産タイプの安価な製品。
・奉書紙:厚手で強い、高級な和紙。お茶室の坊主襖に透かし貼りとして使
 う。
・和紙:一般の襖紙に使う。厚みがあるのが特徴。
・湊紙(みなとがみ):腰貼りに使う。元和泉国堺の湊村で漉かれた。茶室
 では客座に貼り、手前座には旧水戸藩西ノ内地方で漉かれた白い西ノ内紙  
 を1段に貼り高さは27㎝。
・奈良、桜井の和紙:掛け軸の裏打ちや仕上げ用の紙を漉いている。
 
規格寸法
・障子紙の幅は9寸が規格寸法。
・2尺×3尺の紙を23(にさん)版という。
・半紙:横25センチ、縦35センチ程度の和紙。B4用紙(257×364)は
 半紙のサイズ。
・美濃紙:92~99センチ×63センチ
 
使い方と特徴
・紙には裏表があり、表を見せる。洋紙の場合は、表はツヤがあり、あえて
 裏を使うこともある。
・ミツマタが一番強く、雁皮がそれに次ぎ、楮(こうぞ)はやや弱い。
 
※襖を作るのに、表具師が「地あわせ」をする。
※織物や布を腰貼りに使う場合は、表具師が裏打ち用の和紙を裏貼りしてか
 ら貼る。
 
3)縁
 襖の周囲に廻す細い枠材を縁(ふち)といい、竪縁、上縁、下縁がある。縁は襖紙の貼り替えのために取り外し可能としている。竪縁と襖本体とは取り外しできるように専用の特殊な釘を使って留める。竪縁と上下の縁は仕口をはめ、見込み面から釘でとめる。縁の上等な仕上げでは、下端にサクラを埋めたものもある。
 
・塗り縁:漆、その他の塗料で仕上げた縁。上花塗、中入塗、蝋色塗、溜塗
 (遊郭などでは朱色)がある。漆以外では、カシュー塗りなどがある。
・木地縁(きじぶち):木の素地を生かし、そのまま見せる縁。汚れを防ぐ
 ため、拭き漆で塗装することが多い。材料には杉の柾目材が最も多く、高
 級品には秋田スギの赤柾材やヒノキの上物が使われる。桑が最上。女桑、
 女代(杉に色を付けて桑の代用とする)などがある。
 
4)下地骨
 本襖の下地となる木製の格子組。骨師(骨屋)と呼ばれる専門職があったが、今は建具職がつくることが多い。一般に杉の白太をよく乾燥させて用いる。その他、狂いの少ないモミ、高級な襖にはヒノキ・サワラ・キリなどが用いられる。下地骨は組子(付子、中子)縁、中の組子を中子(中組子)、竪のものを竪子(竪組子)、横のものを横子(横組子)、力骨を力子(平骨)などと呼んでいる。中骨は縦3本に横11本が普通で、上物は横を13本とする。特に力を負担する中骨を力子(力骨、平骨ともいう)といい、見付けを中骨の倍とする。
 近年は、骨組み全体に厚い和紙を貼って補強することが多い。また、ハニカム形式の下地もある。ダンブスマといい、段ボールを厚く貼りかさねたものもあるが、紙を貼ると反りやすく、2回までは貼替がきくが、それ以上は捻れてくる。スタイロフォームを下地とした襖は安価であるが、貼替えできず、使い捨てとなる。
 
5)引き手
 木製と金属製、陶製がある。木製は杉の玉杢などが使われる。金属は真鍮、銅など様々で、仕上げも漆塗り、宣徳、燻べ、メッキ、七宝などがあり、縁と襖紙との調和を図る。飾り金物の一種である。茶席などで用いられる太鼓襖はチリ落しとすることが多い。

4.技と作法

屏風の仕方

1)屏 風
 室内に立てて風を除け、人目を遮り、空間を仕切る。中国や韓国の屏風は各面を紐で繋ぎ、面ごとに絵が独立し、8枚までであるのに対し、日本の屏風は各面が紙丁番で繋がれ、絵が連続し、表にも裏にも折ることができる。6曲(6枚でひとつの屏風)までが基準。それ以上はあまりない。
 風よけとして、障子の内側に平らに開いて立てておくこともある。その場合は、長押に固定する道具(屏風落し)をつかう。古く貴重な屏風が傷んだ場合、糊を剥がせば直すことができる。
屏風の高さは本間(ほんけん)屏風が高さ5尺7~8寸前後、1枚の幅は2尺3寸。中屏風は高さ4尺、小屏風は高さ3尺である。このほか、枕屏風は高さ2尺8寸、巾3尺を2枚。玄関屏風に使える利休の使った屏風は高さ5尺2~3寸、巾2尺6~7寸を2枚。茶席で使う風炉先屏風は高さ2尺4寸、巾3尺5分、縁5分角、鳥の子白張、蝋色縁のものを基本とする。

主な屏風と仕方

2)掛け軸
 仏画や書、絵画など、和紙の作品を裏打ちし、美しく見せると同時に長持ちさせる。各部の素材、色、柄などの組み合わせ、取り合わせが難しい。
 掛け軸を作り直すことを着せ替えという。古くなった掛け軸は糊をはがして着せ替えをすることができる。汚れた紙は洗うことで白くなる。ぬる湯にアンモニアを入れたものに浸け、そっと洗う。(重曹、カマン酸を使うこともある。)墨で書いた字や絵は落ちない。また、和紙は繊維が切れにくいので、虫に食われても復元出来る。巻いたままの巻物を開くとポロポロと割れてしまう場合、水に湿らせて少しづつ開いていく。着せ替えには多くの工程があり、糊付け、乾燥を繰り返し、最低でも3~4ヶ月、良い物では1年ほどかかる。
 
※中国の掛け軸には風鎮をかけるが、日本の掛け軸には風鎮をかけないこと
 が多い。軸に錘を入れる。
※金箔:仏壇などに貼る場合はニカワで貼るが、ニカワは硬くなるので、掛
 け軸、襖、屏風の場合にはドウサで貼る。ドウサ(ニカワとミョウバンを
 水で溶いた物)を紙に塗って、その上に金箔を篩って押す。
※和紙は1枚を薄く2枚に剥がすことで、1枚の絵を2枚にすることができ
 る。

主な襖と仕方

3)襖紙の張り方
・骨縛り(ほねしばり):組子に糊を付けて、西の内・仙花紙などの強い和
 紙を紙障子のように貼る。変形を防ぐ。
・胴貼り:色紙を使う。透けを防ぐ(遮光)
・蓑貼り(みのばり):紙の上部にだけ糊を付けて蓑のように貼る。重ね貼
 りともいい3枚から8枚重ねまである。昔は大福帳などの反故紙を使った。
 共鳴(太鼓現象)による音の透過を防ぐ。
・蓑縛り:紙の全面に糊を付けて貼る。締め貼り、太鼓貼りともいう。
・袋貼り:半紙または薄手の美濃紙の周囲にだけ細く糊を付けて袋状に貼
 る。上張りの補強と上張りの保存性を高めるとともに湿度変化による伸縮
 を防ぐ。うけ貼りともいう。
・仕上げ貼り:全面に薄い糊をひき、四周の端に濃い糊を付け、しわのでき
 ないように刷毛で強く貼り締める。
 上貼りの紙が厚い場合に、上貼りの下地として、全面に薄い糊をひき、襖全面に貼る清貼りする。
 上貼り以外を下貼りといい、普通の程度は骨縛り1回、胴貼り1回、蓑貼り1回、清貼り1回、袋貼り1回の五遍仕上げとし、上級の物は回数が多く十遍貼り仕上げとする。
 張替の場合は両面を同時に貼り替えないと反りやすい。また、裏表に違う種類の紙を貼ると反りやすい。

※襖障子を入れるのは畳が入ってから。最後に入れる。
※戸襖は仕上げ1枚で貼る。ただし、裏打ちしておく。

4)腰貼り
 土壁を保護するために壁の下部に和紙などを貼ること。高さ9寸を基本とするが、6~7寸で貼ることもある。紙が傷んだ場合に少し上に貼り重ねるが、その場合でも高くなりすぎないようにするため。茶室の客側などでは帯が壁に当たりやすいので9寸を二段貼りとすることもある。その場合は下段を全部貼ってから上段を貼る。茶室では客側は茄子紺の湊紙とし、手前側は白の西の内紙とすることが多い。湊紙は壁に馴染みやすい。普通の襖紙は強くて収縮が大きいため壁を引っ張り、壁になじみにくい。腰紙は壁土が良く乾いてから、糊は紙にだけ塗り、左から順に貼る。紙を貼ると土壁のコテムラが目立つので注意する。いずれも張替えが頻繁なため、剥しやすい布海苔を使う。京町家では、人の立ち入らない床の間には腰貼りはしない。
 
○床の間の紙貼り
 床の間全面に紙を貼り、絵を描くこともある。その場合、周囲だけのり付けし、真ん中は浮かしておくことで、紙の呼吸を妨げず、風通しを良くする。周囲は黒漆塗りの四分一で押さえる。
 
○土壁全面に紙を貼る場合
 土壁に和紙を貼る一例として、美濃紙を貼る場合、1枚で貼らず、3、4等分して貼る。周囲にのみ糊を付けて貼る。のり付けを周囲のみとすると、数十年後に張替ができるが、全面にのり付けすると張替できない。3枚重ねて貼るとよい。
 
5)障子紙の貼り方
 障子紙はピンと貼りすぎず、やや緩んでいるくらいに貼ると良い。雨の日は湿度が高すぎて貼るのによくない。糊はできるだけ薄いものを使うと、貼り替えのときにはがしやすい。剥がすときは、刷毛で水を濡らしてゆっくり剥がす。
  
6)修 理
・屏風の紙丁番の補強には昔の大福帳、傘紙などの反古をつかう。
・襖が破れたときは、裏にハガキを差し込んで補修するとよい。

1. 伝えたいこと
1.和紙は洋紙(現在の)と違い、繊維を長いまま生かしているため、非常に 
  丈夫で長持ちします。表具職は紙の性質を最大限に生かす仕事です。
2.薄い澱粉糊で貼った和紙は、湿らすことで容易に剥がすことができま
  す。剥がすことで補修ができます。襖や障子は古くなれば貼り直し、掛
  け軸は着せ替えることで貴重な書画をいつまでも保存し、楽しむことが
  できます。
3.襖は、光と風を遮り、軽くて丈夫で長持ちし、紙の温かみと柔らかさ、 
  美しさを兼ね備え、しかも補修が用意であるなど、あらゆる機能を兼ね
  備えた他に代えがたい性能の高い建具です。それを改めて見直してほし
  いです。
 
語り手:若林荘造(表具師)、小野澤光紀(表具師)、荒木正亘(大工)
参考文献:
『表具のしおり』山本元著、芸艸堂1996年
『表具-和の文化的遺伝子-』岡本義隆、三晃社2007





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