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死と向き合うということ。僕と横浜とノルウェイの森

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Hey! What's up people~!? 鎌田です。何でもない風景が一生忘れることのない風景になることもあることはありませんか?

今回は日本を代表する作家、村上春樹さん代表作の一つ「ノルウェイの森」です。すでにこれまで多くの方に愛されてきたであろう本作です。

私はこの本を読んでいた時、もう30年前以上前になりますか…ちょうど横浜の山下公園付近のカフェにいて窓から海辺の風景をみていたんですが、なぜか今もこの時の記憶が鮮明に残っていて人生で忘れることのないワンシーンとなっています。

店内では偶然にもビートルズの「ノルウェイの森」が流れていて外はしとしと雨が降っていて静かな時間が流れていました。

なにか事故に遭ったとか、大きなトラブルって逆に記憶から消してしまいたくて鮮明に覚えてなかったりしますよね。やはり幸せだった風景というのは残っているシーンが多いものです。

例えば子供の出産に立ち会っていた風景とか、人生傷だらけの私からのプロポーズを受けて受けてくれた奇跡の瞬間とか(もちろん現在の妻)。

だけど読書した瞬間の風景で残っているのは、この「ノルウェイの森」ただ一冊だけです。

脳梗塞になって、死を身近に感じて自分の記憶を頼りに小説を書き始めました。この時に意識したのは本書だったのです。

本書の主人公は37歳で、飛行機のBGMに偶然ビートルズの「ノルウェイの森」を耳にします。その瞬間に主人公は18年前に直子が、「いつまでも私のことを忘れないでいてくれる?」 と言った言葉を思い出すんです。

そして主人公は彼女との約束を守るために、文章を書き始めるわけです。

舞台は1968年の5月ということで年代も季節感も全然違いますが、1989年から東京の大学に通い始めた私も偶然、ある女性と再会することになりました。

ノルウェイの森の彼女(直子)は、高校時代の親友キズキの恋人で、高校時代、主人公とキズキ、そして直子の3人は、多くの時間を一緒に過ごしていました。

しかし、キズキが突然に自殺という道を選んだことから、その関係は他愛もなく終わってしまうのです。

人生を送っているうちに人は誰しも大切に想っている人を、突然の死によって奪われてしまうことがあります。その死は思っている以上に、あたなの人生に長い影を落とすことになります。

大切な人の死を、「残された人はどのように受け止め、どのように生きていけばよいのか」それが「ノルウェイの森」のテーマではないでしょうか。

物語では18年前に偶然にも再会をしたふたりは、毎週デートをするようになるわけです。最初はキズキのいない関係に戸惑いながらも二人は徐々にその距離を縮めていきます。そして直子の20歳の誕生日に二人は初めて身体を許し合う関係になります。しかし、直子は姿を消してしまうのです。死という永遠の別れを持って…

ビートルズの「ノルウェイの森」を聴くことで、18年前に死んだ直子との風景が浮かんだ主人公の心情を察するに、直子を失った悲しみが今もなお癒えていないことを意味しているのではないでしょうか。

そして直子との記憶が突然よみがえったのは、18年の時を経てようやく、直子との記憶を正面から見つめ直す心の準備が、主人公にできたということなんだと思うのです。

直子が死んでしまった本当の理由なんて今さら知ることはできません。しかし、悲しみを乗り越えるために必要なのは、理由を知ることではないはずです。

自分なりのやり方でその死を受け入れて納得すること以外にないのです。

そのために本書は対照的な女性を描いています。直子と緑という二人の女性から生と死の意味を考えてみたいと思います。

直子は、物静かで内向的な女性です。キズキの死という心の闇を抱えたままの彼女は、常に死の世界に片足を突っ込んでいるわけです。

主人公は彼女を心に抱えた闇から解放してあげたいと思いながらも同時に、その闇の世界に自分自身が飲み込まれようとしているわけです。

一方で緑は生の世界に生きる、明るく活動的な女性です、ちょっとシニカルなユーモアを持ちあわせており、彼女には辛いことがあっても、それを乗り越えようとするバイタリティというものがあるのです。

心の闇に取り込まれてしまいそうな主人公を導いて、現実に向かわせようとしてくれる彼女は、主人公に生きる目的を与えてくれる存在なのです。

こうして主人公は文章を書くという形で、直子が亡くなったという事実に向き合うことになりますが、その行為の本質というのは、死者との記憶を偽ることなく、その思いを胸にこれからの人生をどう歩んでいくか考えることに他ならないのだろうと感じました。

名作というのは何度も読んでも心に訴えかけてくるものがありますね。

それではまたお会いしましょう!

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