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海岸線

交通事故にあった。

小学生2年生。

私と私のすれ違い。

養女に来てからの記憶。

お母さんお父さんが死んで、私はこの家に来た。

死んだ記憶。

遺伝子の記憶装置機。

複雑ではあるが記憶のコピーペーストみたいなんてのもあるみたいで死んだ瞬間の記憶もある。

まぁ、元気に私は暮らしている。



ナナは田舎育ちな事もあって、いつも兄ユウと遊んでいる。
今日はユウはいない。ユウは友達の家に遊びに行っている様だ。
暇はナナは絵を書いていた。すると玄関でチャイムが鳴った。
「こんにちはー。ナナちゃんいる?」
従姉妹のスミレとユリの声だ。
玄関先で母と何か話をしている。ナナに気付くと従姉妹の妹、ユリが
「ナナちゃん!久しぶり。おっきくなったね。」
と大きな声で挨拶をした。
「ユリちゃん!久しぶり。今日何しに来たの?」
とナナが聞くと
「今日海に行こうかと思って。ナナちゃん行こうよ!」
と2人はナナを誘った。
「お母さん行ってもいい?」
ナナは母に聞くと母は
「行ってらっしゃい」と答えた。
スミレが車を玄関までもってくるとユリとナナは車に乗り込んだ。
「いってきまーす。」
「いってらっしゃい。」
母と別れを告げるとスミレの運転で3人は海に向かった。
カーステレオからはMadonnaが流れていた。


街路樹を抜け、古い学生街アパートを横目に、更に進むと海が見えてきた。
流れる景色にナナはワクワクしている。
「わー、海が見えてきた」
ナナは眩しそうに海を指さした。
「うん。もうすぐ海に着くよ。」
スミレが言う。

窓から初夏の潮風が車内に吹きぬけていった。



車を降り、3人は海岸沿いを歩いた。
横並びになって歩いていると後ろから車がきた。

海を見ながら無邪気にはしゃいでいたナナ。

ドン。

と音がした。

ナナが後ろからきた車に跳ねられひかれたのだ。

車はしばらく前進してから止まった。

「大丈夫?!」
スミレとゆりは叫んだ。
ナナに歩み寄るとナナはおでこに血が滲んでいた。
「…痛いよ、痛い。助けて…。」
ナナは虚ろな目で助けを求めた。

その後いっきに人だかりができた。

ナナは死んだ。
病院に行く途中に息を引き取った。

そんな記憶が私にはある。

私はこんな時代の養女だ。

死んだ彼女の代役だ。

そして養女だって事を忘れた。

私は喧嘩したり笑い転げたり山本家にすっかり馴染んでいた。

自動的にいい子になったり悪い子になったり謎な波が私をゆらしていた。まるで新しい家族にどんな風に代役を勤めればいいか聞いているかのように。

20歳になった頃からか取っかえ引っ変え彼氏や友達と遊び朝帰りが多く、昼間はOLをしていて家には寝に帰っているだけだった。

ご飯もたまにしか食べずに痩せていた。

ある日、兄が言った。
「男ばっかりかよ。」
ナナはびっくりした。だまっていると
「俺、やってやろうか?」
といきなりナナを押し倒した。

ナナのスカートをめくったユウの顔は怖かった。

「やめて!キモい!」
ナナは抵抗した。掴まれた腕が痛かった。

「これ以上男の所にいくなよ!犯されてからじゃ遅いだろっ!」

ユウは捨て台詞を吐くようにどなって出ていった。

スカートは白い液体で汚れていた。



ナナは山本家に来てから初めて泣いた。

怖くて胸が潰れそうになった。



ナナの中の何かが音を立てて崩れていった。





おわり


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