小説 ジョニー
ジョニーは、あるとき父が自転車でふらふらしているとどこからか付いてきて、追い払っても追い払っても後を追ってきて、とうとう家に居着いてしまった。
娘にとって初代の飼い犬である。
「犬殺し」のあった時代。
野犬は狂犬病が疑われた。
三番目の叔父は、外を歩いているときに野犬に足を噛まれ、血を押し出しておきなさい、という呑気な祖母をよそに、父がすぐに病院に連れて行って注射をしたので助かったという。叔父からでも父からでもなく、祖母からよくその話しを聞いた。息子の命取りとなるところだった事態に、ぼんやりしていた自分をおかしそうに笑った。
「あのときマスミがいなかったらどうなってたか、わたしったら」
野犬狩りのような野蛮な仕事を請け負わされていたのは、どのようなひとたちだったのだろう、保健所の職員か日雇いの作業員か。
まるい針金で作った輪を野犬の首にひっかけて犬を引っ張って、何頭も車に積みこむ。
キャンキャンいう犬の悲鳴と唸り声、そして作業着を着た男たちの怒声がそれを上回る異様な騒がしさに路上が一変した。
雨が降っていたのか、水しぶきが濛々と煙るなか、濡れた作業員と野犬たちの光景。
ねずみいろ一色の。
ジョニーは、いつのまにかやってきて、いつのまにかいなくなった。
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