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白鯨(メルヴィル) 文献抄

白鯨のストーリーが始まる前に、文献が列挙されます。思慮に富んだその鯨にまつわる多くの文献を、画像を含めて紹介します。

(某副・副司書の提供にかかる)
読者はこれらの引用にあらわれた鯨関係のたわごとが、たといいかばかり
真実まことしやかでも、その中の一個条たりとも正統正経の鯨学文献として受け取ってはならぬ。
まったく出鱈目でたらめもいいところだ。ただここに出てくる古典の著書たち、ならびに詩人たちに関して一言すれば、
以下の抜粋はもっぱら現代およびわが国人をも含めての諸国民、諸時代が、巨鯨レヴィアタンについていかに多趣多様な言説、
思惟しい妄想もうぞう詠嘆をなしたったかの鳥瞰図ちょうかんずを与える点に、かろうじて価値と興味とを認め得ようか。

聖書より

おほいなるうを創造つくりたまへり


創世記

レビヤタン己があとに光る道をのこせばふち白髪しらがをいただけるかと疑はる

ヨブ記

さてエホバすでにおほいなるうをを備へおきてヨナを呑ましめたまへり

ヨナ書

かしこにおほいなるひろき海あり、・・・・・・船そのうへをはしりなんぢのつくりたまへるレビヤタンそのうちにあそびたはぶる

詩篇

その日エホバは硬くおほいなるつよきつるぎをもて、疾走とくはしるへびレビヤタン曲りうねる蛇レビヤタンを罰し、また海にあるわにをころし給ふべし

イザヤ書

プルタルコス『道徳論集』

プルタルコス 倫理論集

さればこの巨怪の無明のあぎとに入りきたるその他のものは、獣にもあれ、舟にもあれ、岩石にもあれ、悉皆しっかいえらぶところなくかの汚らはしき彼奴きやつが食堂の大暗渠おおどぶちてゆきて、底ひも知れぬ胃袋の深淵おおわだのうちに朽ち果つる

プルタルコス 倫理論集

プリニウスの博物誌

インド洋には魚族中の最大最偉なるもの棲息せいそくす。なかにも、鯨およびバレエネとよばるる大魚は、躯幹くかんの長さ、土地四エーカーないし数アルパンに匹敵せり

ホランド訳プリニウス

ルキアノス実録談

ルキアノス短編集

海にうかびていまだ両三日をでざるに、とある暁、数多あまたのっ鯨、その他さまざまの海の怪ども現はれたり。鯨のうち、げにおそるべき大いさの一頭あり。・・・・・・巨口おほぐちひらき、八方になみあらだて、おのが行手の海面うなづら白泡しらあわわきたたせつつ、こなたをめがけ襲ひきたれり

ルキアノス「実録談」

紀元890年 アルフレド大王


アルフレッド大王の鋳造した銀のコイン

かれがこの国を訪れしは一つには馬鯨うまくじらなるものを漁せんがためにして、馬鯨の骨は、その歯によりて極めて貴き値あり、すなはちかれ、若干そこばくの歯をば国王に献ず。・・・・・・最上の鯨はかれが故国において漁せられ、ときに四十八ヤード、またときに五十ヤードの長さのものもありしとぞ。かれいはく、われは二日のうちに六十頭をほふれる六人の漁師の一人なりと

オサ一名オクサの口述談話録

モンテーニュ

エセー

しこうしてこの怪物(鯨)の怖るべきあぎとの淵に堕ち入つたその他の一切のもの、そは獣にまれ船にまれ、たちどころに影も形もなくみこまれるが常なのに、これらの小魚どもは極めて安楽に、その口内に身をひそめて眠つてしまう

その他

それ、逃げろ、逃げろ!これがもしあの貴い預言者モーセの記した辛抱づよいヨブの伝にかいてあるレヴィアタンでないとすれば、いよいよ悪魔めがおれを捕えにきたぞ

ラブレエ

この鯨の肝臓は荷車二台分のかさがあった

ストウ「年代記」

かの大海をばたぎりたつ大鍋おほなべのごとく泡沫あわだたしむるおほいなる巨鯨レヴイアタン

ベイコン卿訳による旧約「詩篇」

この鯨、またの名怪魚オークの絶大なる躯幹に関しては、吾人ごじんはいまだ何ら確たる知識を有せず。その著しく肥満せることは、一頭の鯨よりしぼりうる油脂の量の莫大ばくだいなるにより察せらる

同上「生死の歴史」

深傷ふかでに効く最高の妙薬は鯨の脳味噌のうみそから取れる鯨蝋げいろうまさる物無しとか・・・・・・

ヘンリィ四世

おお鯨そっくりで

ハムレット

ちぬられしこの痛手、いかなる妙薬もてさらせばとて、
微塵みぢんあとを消しうべきや、手段てだては一つ、この傷を
われに与へし痴者しれものうらみ報ゆるほかはあらじ。
げにも卑陋ひろうのだまし討ちに、わが胸にうづいてやまぬ傷ゆゑに、
荒海くぐり一散に岸に逃るる手負ひ鯨とは成り果てたれ

フェアリー・クイーン
邦題は妖精の女王

その巨体ひとたび動けば、ぎ静もれる大海も沸きたつばかり騒がすてふ鯨のごときすさまじさ

サァ・トマス・ブラウン『抹香油および抹香鯨につきて』迷信論

スペンサァが鉄人タルスの連枷からざをもかくやとばかり
かれその重き尾もて破滅を教ふ。
 * * *
鯨捕いさなとりが打ち込む投槍やり脇腹はらにまとひ
また背にはほこの林ぞあらはるる

ウォラァ「サマァ島のたたかひ」

ホッブズ リヴァイアサン

かの国民共同体コモンウエルスまたは国家(ラテン語にいわゆるキヴィタス)と称する巨大なるリヴァイアザンは人間の技術により造られるーーそは一個の人工人間にほかならぬ

ホブズ『リヴァイアザン』冒頭
ホッブズ リヴァイアサン

あたかも鯨のあぎとに入った小鰮こいわしででもあるかのように、愚かなるマンソウル(人間の霊)は、それをばみもせずにみこんでしもうた

ピルグリムズ・プログレス

失楽園

かの海の野獣
レヴィアタン、神の創造つくりたまひし
いと魁偉おほいなるもの、大海のうしほに遊び

失楽園

かしこにぞ、レヴィアタン、
生きとし生けるもののうちいと魁偉おほいなる身を、
岬角みさきのごとくながながと海原に横たへて、
かつ眠り、かつ泳ぎ、はた動く島かと見まがはれ、
大海をえらもて呑みて吐く息に潮と噴きあぐ

失楽園
失楽園 ミルトン

水の海にその身を泳がせ、身内には流るる油の海を抱く巨鯨の群

フラァ「世俗国家と神聖国家」

岬の陰にひたと寄り、身を横たへて、
獲物やきたると巨くじらレヴィアタン、あぎとを開き
待てば逃るるすべもなき小魚の生命いのち
みちをあやまり我からにやみに呑まるる

ドライデン『妖異の年アンヌス・ミラビリス

航海記

鯨がまだ船の後方に漂うているあいだに、ひとびとはその頭をりとり、これをボートでいてゆくが、きっと十二フィートか十三フィートの深さでにのりあげてしまう

パーカス『旅行記集成』所録 トマス・エッジ『シュピッツベルゲンへの十航海』

途中、かれらは多くの鯨どもが海原に遊びたわむれ、造化がその方に位置せしめた管、排気孔から、海水をばおもしろおかしく霧吹いているのを見た

ハリス「航海記集成」所録 サァ・T・ハーバード「アジア・アフリカ紀行」

ここにかれらは鯨の大群に出会うたので、群中に船を乗り入れては一大事と、容易ならぬ警戒のもとに船脚をすすめることを余儀なくされた

スコウテン「第六次世界周航記」

エルベ島より出航、風は北東、船名は「鯨に呑まれたヨナ」号という・・・
鯨は口を開くことができぬと言う者あり、されどこれは訛伝かでんである。・・・・・・
水夫らは暇さえあれば鯨はみえぬかとマストにのぼって見ている、最初に発見した者は駄賃としてデュカット一枚もらえるからである。・・・・・・
 余はシェットランド近海で捕った鯨の話を聞いた、一バレル以上ものにしんがその腹中にいたそうな。・・・・・・
 銛打もりうちの一人が余に話して聞かせたところでは、かつてシュピッツベルゲンで、全身真っ白な鯨を捕ったことがあるとのことだ

ハリス「航海記集成」所録 1671年『グリーンランド航海記』

そこばくの鯨がこの沿岸ファイフまで来たことがある。紀元一六五二年、鯨骨の長さ八十フィートあるもの一頭を捕えたが、(聞書ききがきのままを記せば)莫大なる油脂あぶらのほかに五百ポンドの鯨鬚げいしゅがとれた。この鯨の顎は、ピトファランのそのの門の代りに立てられてある

シボールド「ファイフおよびキンロス」
クジラのヒゲ

余はこの抹香鯨を、わが手で料理し、殺すことができるかいなか、試してみてもよいと答えた。この種に属する鯨の兇猛きょうもうにして逃げ足はやきことは定評があり、いまだかつて何人もこれを屠ったという話を聞かぬからである

一六六八年イギリス学士院「学術年報」所録
リチャード・ストラフォード「バミューダ通信」

海の鯨も
神の声きく

ニュー・イングランド初等読本

われらはまた極めて多数の巨鯨を見た。南海においては、わが国よりも北のほうの海に比すれば百倍にものぼると言ってもさしつかえないであろう

一七二九年、船長カウリィ「世界一周航海記」

その他2

・・・・・・また鯨の吐く息というものは、しばしば、頭が変になりそうな気のするほど、はなはだ感心せぬ悪臭をともなうものだ

ウロア「南アメリカ」

艶色えんめいその名を得たる美姫びき、国中をすぐって五十人。
最後の楯と頼むはこれぞ、「下袴ペテイコート」。
七重のフープかきとなし、長鯨のあばら拱壁きょうへきとなすも、
いづくんぞ防ぐに難きことを知らざらんや

ホープ 「捲毛まきげ盗み」
アレキサンダー・ポープ(1688-1744)のパブによる「髪盗人」から8番目のイラストを描いた「ボークスとベルの戦い」

もしその体躯たいくの大いさに関し、陸地の動物をもつてこれら深海を棲家すみかとする者どもと比較するならば、かれらの卑小さはまったくわらうに堪えたものに見えるであろう。まさしく鯨こそは、あらゆる被造物中の最大動物なのである

ゴールドスミス「博物学」

もし貴方あなたが小魚のための寓話ぐうわを書くとしたら、貴方はきっとかれらに大鯨のような口をきかせるでしょう

ゴールドスミスよりジョンスンへ

午後にいたり、われらは岩礁がんしょうのごとく思わるるものを見たが、それはさるアジア土人が屠殺とさつして、まさに岸に曳き上げんとしている鯨の屍骸しがいであることがわかった。漁夫らは、われらに知らるることを避けんとし、鯨の陰に身を隠さんとするもののごとくであった

クック「航海記」

国王の通常歳入の第十項は、君が海上における海賊、強盗の害をいましまもるの徳を敬うの念慮に基づけるものとされ、王室魚、すなわち鯨および蝶鮫ちょうざめに対する権利、これである。さればこの両種の魚が海岸に打ち揚げらるるかまたは岸近くにて捕えられたる際は、国王の所有物となる

ブラックストーン

鯨の大動脈は、その口径において、ロンドン橋の水道の主導管よりも大きく、かの主導管を囂々ごうごうと流るる水も、その激しさと速さとにおいて、鯨の心臓からほとばしり出る血の勢いには及ばぬ

ペイリイ「神学」

鯨は後足のない哺乳ほにゅう動物である

男爵キュヴィエ

突如として、見あげるばかり巨大な塊が水中から現われ、空中に垂直に躍りあがった。それがあの鯨であった。

捕鯨家ミリアム・コフィン伝


おわりに

御覧いただきありがとうございました。
古くから世界中で愛される鯨。これからも限りある水産資源をみんなで守ってゆきましょう。

紹介したものは一部の抜粋です。

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