旅人の行方を問うな

「シェーン」(1953年パラマウント)


今更説明不要。西部劇映画の傑作です。


旅人のその後を詮索する野暮。


この話はある程度事実に基づいています。
Wikipediaによると、この映画 の
元になった史実というのが、
ワイオミング州市ジョンソン郡での
牧場主と開拓農民の諍いだそうです。

南北戦争後、だから日本だと明治の初め。

牧場を経営するために広大な土地を私有し
馬を放牧していた牧場に、ごく僅かな金で
耕した土地を自分のものにできるという
政府の新政策で農民が大挙押し寄せます。

自分達がネイティブ・アメリカンを
追い払って居座ったのは棚に上げて、
牧場主は自分の土地を勝手に開墾し
そこを自分のものにしてしまう農民に
さんざん嫌がらせをし、それに農民も
対抗し、騒動になりかけたところで
政府が介入してなんとか治めたそうな。。。

広大な平原と、グランドティートン山
(これが主題曲のタイトルでもある
はるかなる山ですね)
の雄大な姿が、本当に美しい。

額に汗して働く父。優しい賢明な母。
ジョーイ少年、思い切り羨ましい。
こんな境遇で育ったなら、
そりゃあ真っ直ぐで真面目で
実直な子になりますって。
歪みようがないわ。

貧乏なことには間違いないけど
それは周囲の開拓農民は皆同じ。
集まりになれば、ハーモニカを
吹くもの、フィドルを奏でるもの
昔馴染みのアイリッシュ民謡で
踊ったりもします。

シェーンは口数が少なく
拳銃の早撃ちは相当の腕前ですが
自分の過去はほとんど語りません。
流れ者である自分の素性を
どこか恥じて隠しているようです。

牧場主のライカーも、映画では
結構荒い一家に見えますが、
まあ当時の中西部ならこんなもの。
格別に悪逆という感じでもないけど
まあまあ感じは悪いです。
何せ映画の視点は農民側。

町でライカー一家に絡まれ
酒を飲まないのを馬鹿にされる
シェーンですが、そこは堪えます。

殴り合いになりますが、この時
シェーンは右のアップライトに
構えて、ステップもしています。
喧嘩慣れしているようです。

主演でシェーン役の俳優
アラン・ラッドは俳優にしては
小柄だったそうで、実際この
喧嘩のシーンでも相手よりかなり
小柄に見えます。
動きは機敏でパンチも相手より
一発一発が威力がある感じです。
(訓練を受けた動きですね)

シェーンの正体は明かされませんが
南郡の敗残兵ではないかとの推測も
あるようです。

ライカーの嫌がらせもエスカレート
黒づくめの不気味な用心棒も雇う。

世話になっている一家の主人が
ライカーと相打ち覚悟で話をつけに
行こうとするのを殴り合いで止め、
代わりに、もう戻らない決意で
シェーンが決闘に出向きます。

この辺りの筋だて、高倉健の
任侠映画と同じですね。
正しくあるものが辛抱すること
しかし一旦決意し覚悟したら
容赦ない戦いをすることなどは
案外世の東西を問わず人々が
支持する所なのでしょう。

最終的に、少年ジョーイの眼前で
シェーン対ライカー一家の決闘は
ほんの一瞬でシェーンの圧勝に
終わります。

シェーンは最早ここに用はないと
無表情に立ち去ろうとします。
その時ジョーイが一緒に帰ろうと
懇願します。

父とは全く違うガンマン
ジョーイはシェーンに
ひどくなついて、慕っています。

シェーンはジョーイの制止を
振り切り、優しく宥め、諭します。
「もう心配ない。強い子になるんだ
お父さんお母さんを大事にな。」
そういって自分は元来た山に
ゆっくりと去っていきます。

シェーンはこの時、決闘で
負傷しています。

で、その生死が気になる人も
おられるようでして。。。

はあ、やっとここまで来た。

そんなんどうでもいい。

本当にどっちでもいい。

この映画に続編はないし
作られることもないでしょう。

銃がものを言った時代は終わり。

シェーン自身が、
ガンマンである自分が
もはや時代遅れであると
百も承知なのです。

一度人を殺したものは
元には戻れない。
そういうレッテルは
もう一生外れないんだ。。。

シェーンは旅人として
この地に辿り着き
しばしの滞在ののち
別れを告げ、旅立った。
村を救った旅人話の典型で
ありまして、お約束としては
その後は言わないのです。
割とエグい話になるのでね。

彼の死は、この地の歴史には
書かれることはなかった。
どこかで死んだのだけど、
それがこの決闘の結果なのか
別のことなのか、どこでの
ことなのかは、わかりません。

わからないまま、余韻を残す

そういう終わり方に風情を
感じます。

主題曲と相まって、
雄大な中に、どこか寂しさを
感じさせるリリシズムがあり
それは僕には、シェーンの
最後は、もうほっといてやれよ、
野暮だなあ。と思えるのです。


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