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令和5年度司法試験答案例速報(刑訴法)

引き続き、刑事訴訟法の答案例です。

参考程度に閲覧してください。

第1 設問1について

 1 捜査➀について

 捜査➀は、領置(刑事訴訟法(以下、法名省略)221条)として、適法か。

(1)まず、甲が捨てたごみ袋(以下、「本件ごみ袋」とする。)が、「遺留した物」といえるか。

ア そもそも、同条における遺留物の領置が無令状で許容される趣旨は、その占有の取得仮定に強制の要素が認められない点にある。そこで、「遺留した物」とは、強制的に排除すべき占有のない物をいい、自己の意思によって占有を放棄し、占有を離脱させた物も含むと解する。

イ これを本件についてみると、本件ごみ袋は、甲のアパートの敷地内にあるごみ置き場に捨てられており、同アパートでは、大家によって、居住者に対し、ごみを同ごみ置き場に捨てるように指示しており、実際に、甲は本件ごみ袋を、それに従って投棄したものといえる。

ウ したがって、本件ごみ袋には、強制的に排除すべき甲の占有はなく、「遺留した物」に当たる。もっとも、後述する本件ごみ袋の取り扱いの運用から、一時的に大家の占有物となり、「保管者が任意に提出した物」に当たる。

(2)そうであるとしても、任意処分でも非処分者の権利利益を害することがあり得るところ、任意処分としての限界を超えないか。

ア この点、捜査比例の原則(197条1項本文)より、捜査の必要性、捜査の必要性と被侵害利益の程度を衡量して相当性が認められる場合には、任意処分として適法であると解する。

イ これを本件についてみると、本件事件は、死刑又は無期懲役等もあり得る強盗殺人未遂(刑法243条、240条後段)被疑事件である可能性があり、事件は重大である。そして、被疑者は、逃走しており、被害現場であるV方からは、廊下に足跡があるにすぎず、Vから供述も得られていない状況であり、犯人の特定につながる証拠を見つけられていなかった。かかる状況の中、V方付近の防犯カメラ映像から、Vの110番通報で言及された犯人の着衣や背格好に酷似した人物が犯行時刻直後、長い棒状の物を手に持って北西方向に走っている様子が見受けられ、北西にあるガソリンスタンドの防犯カメラ映像では、同特徴を有する人物が、向かいにあるアパートに入っていく様子が映っており、甲である可能性が高かった。そのため、犯行を行った者が甲である可能性が浮上し、捜査が難航している中で、犯人と甲の同一性にかかる証拠を収集するため、犯行後に証拠隠滅として犯行に使用した物は即座に捨てると考えられるため、本件ごみ袋を領置する必要性が高かったといえる。

  他方、本件ごみ袋は、ごみとして投棄された物であるし、大家によれば、大家が同ごみ置き場のごみの分別を確認し、公道上にある地域のごみ集積所に、ごみ回収日の午前8時に回収することにつき予め住人から了承を得ていたのだから、本件ごみ袋を甲が投棄した以上、甲の本件ごみ袋に対する権利利益は放棄したものといえ、ごみ回収日でもあったことも併せると、甲のプライバシー侵害の程度も極めて低い。そして、大家に対しても、上記のような運用になっていたが、了承を得て任意に提出を受けているため、権利利益の侵害はない。そのため、上記の必要性に比し、権利利益侵害の程度が低いため、相当性も認められる。

ウ 以上より、任意捜査としての限界を超えない。

(3)よって、捜査➀は、領置として適法である。

2 捜査➁について

  捜査➁は、領置として適法か。

(1)まず、「遺留した物」に当たるか、前記同様の基準で判断するに、甲が捨てた容器(以下、「本件容器」とする。)も、甲が公道上に捨てており、強制的に排除すべき甲の占有は認められず、「遺留した物」に当たるといえる。

(2)次に、任意処分の限界を超えないかを、前記同様の基準で判断するに、まず、上記の通り、捜査の必要性がある。また、加えて、捜査➀では、スニーカーを押収できたものの、現場の足跡と矛盾はしないが、大手ディスカウントショップで大量に販売されており、流通量が多かったため、決定的な証拠とはならず、なお甲が犯人である証拠が必要な状況であった。かかる状況の中、植え込みからゴルフクラブと黒マスクを発見し、これらに付着した血痕のDNA型が、Vのそれと一致したため、犯行時に用いられた物であると考えられる。同マスクの内側にも血痕が付着していたところ、これは犯人の血液である可能性が高かった。そうだとすると、甲のDNAを採取し、これと照合する必要があった。DNAを採取するためには、甲が口にした物や触れた物などを回収して鑑定することが最も便宜であるため、本件容器を回収して鑑定に回す必要があったといえ、その程度も高かったといえる。

 他方で、確かに、捜査➀とは異なり、捜査➁では、DNAというプライバシーの根本ともいえる情報を採取している。しかし、例えば血液を採取したりするなど、体内への侵襲を伴って回収したわけではないし、食事をした際には、不可避的にその容器にDNAは付着してしまうものであるため、そのような態様で付着したDNAについては、これを捨てた時点で、それに対する権利利益は放棄していると見れるし、その処分も任せていると考えることはできる。そうだとすると、DNAを採取したのは、捜査➀に比してプライバシー侵害の程度が相対的に高いものの、上記必要性に比して、さほどの権利利益の侵害は認められないため、均衡がなおとれており、相当性がある。

(3)以上より、捜査➁も、領置として適法である。

第2 設問2

 1 実況見分調書➀(以下、「調書➀」とする。)について

(1)まず、調書➀は、伝聞証拠(320条1項)に当たり、証拠能力が否定されないか。

ア そもそも、供述証拠は、知覚・記憶・叙述の各過程に誤りが入る危険があるのに、公判廷外における原供述については、反対尋問(憲法37条2項前段)等により内容の真実性を担保できない。そこで、伝聞証拠とは、➀公判廷外の原供述を内容とする証拠であり、➁要証事実との関係でその内容の真実性が問題となる証拠をいうと解する。

イ これを本件についてみる。

(ア)まず、調書➀全体部分については、➀公判廷外のQの原供述であり、➁その内容の真実性が問題となるため、伝聞証拠に当たる。

(イ)次に、写真部分につき、写真それ自体は非供述証拠であるが、その中身に着目すると、甲がピッキングを使って解錠する状況を再現しており、これは、甲の動作による供述とみることができる。かかる供述は、➀甲の公判廷外における原供述といえる。そして、立証趣旨は、「甲がV方の施錠された玄関ドアの錠を開けることが可能であったこと」であり、まさに、甲と犯人の同一性を立証しようとしているため、要証事実は、かかる立証趣旨と一致する。かかる要証事実との関係では、甲がV方の錠を解錠できたかどうかという➁内容の真実性が問題となるため、伝聞証拠に当たる。

(ウ)また、「被疑者は『このように・・・解錠できます』と説明した」というQによる録取部分は、➀公判廷外の甲の原供述といえる。この説明についても、上記写真と併せて、甲が解錠技術を有し、解錠方法を認識していたため、V方の錠と同様の物を解錠していることから、甲が解錠できたかどうかという➁内容の真実性が問題となり、伝聞証拠に当たる。

(エ)他方「被疑者は、『このように解錠できました。』と説明した。」との録取部分は、➀甲の公判廷外の原供述ではあるが、解錠した状況を単に説明するものであり、実況見分の流れを示すものにすぎないため、➁上記要証事実との関係では、その内容の真実性は問題とならない。そのため、伝聞証拠に当たらない。

ウ 以上より、(ア)(イ)(ウ)部分が伝聞証拠に当たり、同意(326条)なき本件では、原則として証拠能力は否定される。

(2)では、伝聞例外規定を満たさないか。

ア まず、(ア)全体部分について、321条3項は検証の書面を想定しているが、実況見分は、その専門知識をもって行われる点では検証と同様であり、実況見分調書は同項の「書面」に含まれると解するため、真正作成供述を行えば足りる。

イ 次に、(イ)(ウ)部分は、322条1項の要件を充足する必要がある。(イ)(ウ)は、「被告人の供述を録取した書面」に当たり、本件はV方に侵入していることから、V方と同様の錠を解錠する様子、これを説明していることは、甲の犯人性を推認させるため、「被告人に不利益な事実の承認」といえる。そして、かかる供述の録取、再現に当たり、不任意であると認められる事情はないため、「任意にされたものでない疑がある」(同項但書)とはいえない。もっとも、これらには、「署名若しくは押印」がない。署名・押印が要求されるのは、その録取過程の正確性を担保して録取者の伝聞性を問題なきものにするところにあるが、(イ)写真については、機械的に録取されるため、誤りが介在する余地が極めて低く、署名押印は不要と解する。他方、(ウ)部分については必要であるが、これがない。

  したがって、(イ)部分については、伝聞例外規定を充足する。

ウ 以上より、(ア)は公判廷で真正作成供述をすればよく、(ア)(イ)は伝聞例外規定を充足するため、証拠能力が認められる。

 2 実況見分調書➁(以下、「調書➁」とする。)について

(1)まず、伝聞証拠に当たらないか。前記同様の基準で判断する。

ア まず、調書➁全体部分については、➀公判廷外のRの原供述であり、➁その内容の真実性が問題となるため、伝聞証拠に当たる。

イ 次に、調書➁のSが再現した写真部分については、写真それ自体は非供述証拠であるものの、その中身に着目すると、犯行を再現しているため、動作による供述が含まれているといえる。そして、かかる再現は、V立会いの下、Vが被害状況を説明しつつ、それに従ってS、Vが再現しているため、実質的には、SはVの道具であり、Vの供述であると考えられる。

  かかる供述は、➀Vの公判廷外の原供述である。本件では、立証趣旨は、「犯行再現情況」とだけ記載されているが、Vがどのような態様で、どのように甲から殴られたのかということを顕出することで、甲の実行行為、Vの被害結果という罪体や、行為態様、結果の重大性という情状を立証しようとしていると考えられるため、要証事実は、「甲がVに対し、再現写真の通りに暴行を加えたこと」であると考えられる。かかる要証事実との関係では、➁上記動作供述の内容の真実性が問題となるため、伝聞証拠に当たる。

ウ 「このようにして・・・殴りました」という供述部分についても、➀Vの公判廷外の原供述であり、要証事実は、上記イと同様と考えられるため、➁その内容の真実性が問題となる。そのため、伝聞証拠に当たる。

エ 以上より、アイウ部分は伝聞証拠に当たり、同意なき本件では、原則として証拠能力は否定される。

 (2)では、伝聞例外規定を充足しないか。

ア まず、ア調書➁の全体部分については、前記同様、321条3項が適用され、真正作成供述をすれば足りる。

イ 次に、イ写真部分については、Vの供述であるため、321条1項2号の要件を充足する必要があるところ、Vは「死亡」している。同号但書は、相対的特信情況を指すところ、これがかかるのは、同号本文後段の場合であり、本文前段の場合は、かからないため、不要である。写真については、「署名若しくは押印」は不要であることは前記の通りである。

 したがって、伝聞例外規定を満たす。

  ウ そして、ウ甲の供述部分について、これは、甲が自ら記載した文言であると考えられるため、甲の「供述書」(321条1項柱書前段)と考えられ、署名・押印は不要である。また、上記の通り、321条1項2号の要件を充足する。

   したがって、伝聞例外規定を満たす。

エ 以上より、ア部分は、公判廷において真正作成供述をすれば足り、アイウ部分は、それぞれ伝聞例外規定を充足するため、本件調書➁は、証拠能力が認められる。

以上







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