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令和5年度司法試験答案例速報(憲法)

こんばんは。

本日は、憲法の答案をアップ致します。
久々の生存権からの出題でしたね。

この問題も非常に難しく、考えさせられることが多いのですが、あくまで問題から離れない、点を取る、現実的な答案を書くというスタンスで割り切って書いてみました。

参考程度に閲覧してください。

第1 設問1について

1 まず、骨子第3の1、2は、配偶者が遺族年金を受給する権利を侵害し、違憲である。

(1)そもそも、生存権(憲法(以下、法名省略。)25条1項)の内容は抽象的・相対的である。そこで、具体化された法律により初めて具体的権利となる抽象的権利であると解する。本件では、国民年金や厚生年金については、国民年金法や、厚生年金保険法があり、一般には、生活保護法なども存在するため、年金を受給する権利については、生存権として、具体化されているといえる。

そして、上記権利についても、このような年金受給権の一内容であるから、25条1項で保障されている。

(2)そして、以下の通り、骨子第3の1、2は、健康で文化的な最低限度の生活の確保には不十分であり、制定に当たっての判断に、正当性はない。

ア すなわち、骨子第3の1、2は、次の2点で、差別を行う規定である。すなわち、妻と夫という性別の差別、年齢による受給権制限という年齢の差別である。

この点、生存権にかかわる立法であっても、平等原則(14条1項)は機能すると考えられる。「法の下」とは、法適用及び法内容の平等を指し、「平等」とは、相対的平等を指すため、合理的な区別でない場合には、同原則に反する。

 本件では、夫、妻、すなわち男性、女性という性別による差別であり、民主主義社会において許されない区別を列挙した14条1項後段列挙事由に当たる。年齢は、同項後段列挙事由ではないものの、本人らの努力ではいかんともしがたい事由であって、さらに、骨子による上記差別は、生存権という重要な権利についての差別であり、許容できない。

 そこで、目的がやむにやまれぬものであり、手段が必要不可欠であり、必要最小限度である場合でなければ、違憲となると考える。

イ これを本件についてみると、まず、骨子第3の1、2を規定する目的は、被保険者の死亡後の遺族の生活を守るという遺族年金の趣旨を踏まえつつ、遺族が就労によって自ら収入を確保することを促進することが目的である。

 手段の必要不可欠性について、現行制度では遺族年金を受給できた配偶者であっても、骨子第3の1、2は、妻については40歳、夫については55歳の年齢制限を定め、これを満たさない者は一律に遺族年金を受給できなくなる。被相続人が死亡するのは偶然に左右され、本人の努力で解決できる範疇を超えている。このような条件を付したとしても、必ずしも就労に結びつくとはいえないため、必要不可欠でない。

 手段の必要最小限度性について、これによって、子どもがいる場合には、子育ての負担もあり、年齢が若くても十分な収入のある職を得ることは容易でなく、シングルファーザー・シングルマザーは、健康で文化的な生活を営めなくなる。そのため、被る不利益は多大であり、必要最小限度とはいえない。

ウ したがって、このような不利益の大きい制度の構築は、25条1項、14条1項に反し、違憲である。

2 次に、骨子第5の制定は、配偶者の上記生存権を侵害し、違憲である。

(1)まず、上述の通り、生存権として、25条1項で保障されている。

(2)次に、以下の通り、骨子第5の制定は、裁量権の逸脱・濫用として違憲となる。

ア 本件は、遺族年金を受給している者であっても、新遺族年金の受給要件を満たさない者については、受給資格を喪失する取り扱いとなっており、既得権の侵害であると同時に、制度後退が生じている。給付を起点に、すでになされている給付を打ち切ることの合理性を判断することは、白紙から制度を創設するよりも容易であり、このような改定は、最低限度の生活水準を下回らせ、財産権(29条1項)等を侵害し得る。そのため、判断権者の裁量は狭い。そこで、厳格に、その判断が裁量権の逸脱・濫用といえるかどうかを審査すべきと考える。

イ これを本件についてみると、現在受給している遺族年金が受給できなくなることで、場合によっては、月数十万円の収入がなくなることになってしまい、不利益が大きい。上記のように、子の養育をしなければならない者については、相当な痛手となる。

 このような不利益の大きい制度の構築は、裁量権の逸脱・濫用として、違憲である。

ウ したがって、骨子第5の制定は、25条1項に反し、違憲である。

第2 設問2(骨子第3の1、2)について

 骨子第3の1、2は、配偶者の上記権利を侵害し、違憲となるか。

 1 まず、Xの意見の通り、生存権は抽象的権利であり、本件では具体化されており、配偶者の上記権利も、25条1項で保障される。

 2 次に、骨子第3の1、2の制定は、正当化されるか。

(1)まず、審査基準の定立につき、立法裁量が認められ、基準は緩やかに考えるべきであるとの反論が考えられる。

この点、確かに、生存権は、抽象的・相対的な概念であり、これは、時々における多数の不確定的要素を総合考慮して初めて決定できるものであるから、反論のように、立法裁量は一定程度認められる。

 もっとも、Xの意見のように、生存権の問題であっても、平等原則は適用されるべきである。Xの意見の通り、性別という14条1項後段列挙事由に関する差別、年齢という本人の努力では如何ともしがたく、偶然に左右される要素による差別であり、生存権という重要な権利に関する差別でもあるため、厳格に審査すべき側面もある。

そこで、目的が重要であり、手段が効果的で過度でない場合に、上記規定の制定が正当化されると考える。

(2)これを本件についてみる。

ア まず、目的は、Xの意見にある通りであるところ、遺族年金を受領することで、遺族の生活が守られ、自己の努力による就労によって収入を得ることを促進することで、自立と今後の生活の安泰に資するため、目的は重要である。

イ 次に、手段の必要不可欠性について、確かに、年齢、性別によって受給要件に差異を設けることにつき、男女の就労状況、収入の実情に大きな格差がある。具体的には、男性と女性の平均年収に2倍の差があり、女性が正規雇用職を得ることが困難であることもある。そのため、このような状況から、性別、年齢に差異を設けて規定することは、一定の年齢までは、就労をし、職を得にくい年齢以降は遺族年金の受給可能性を認めることで、就労を促進しつつ遺族年金の趣旨を全うできるため、手段は効果的との反論が考えられる。

 しかし、現在では、男女共同参画の動きが進み、状況も変化している。現状を踏まえて受給資格において男女で年齢差を設けると、むしろ女性の就労促進に資さず、現状を固定化するおそれがあり、逆効果である。また、Xの意見の通り、就労意欲を促進するのであれば別の手段も考えられる一方で、年齢、性別という本人には如何ともしがたく、偶然に左右される要素で受給要件を定めても、自己のキャリアプランや生計等に不明瞭な部分が残り、必ずしも就労に結びつくとはいえない。そのため、手段は効果的でない。

 また、手段が過度でないかにつき、確かに、現在では、保育園や学童保育が充実化しており、シングルマザー等が就労するための障壁が取り除かれている。また、骨子第7より、子一人いる夫又は妻が遺族年金を受給できたとしたら、家庭全体で見れば、1か月あたり2万円の差異しか生じず、不利益は大きくないため、手段は過度でないとの反論が考えられる。

 しかし、子は病気等の不測の事態によってかかる金銭は異なるし、子それぞれの個性によって、一概に幾らであれば足りるということも言えないため、月2万円の差異も軽視できないはずである。また、生活保護も、資産要件を確認されるため、いよいよとなれば生活保護を受けられるとも限らず、これに頼れるため不利益性が低いともいえない。そのため、手段はなお過度であるといえる。

ウ したがって、上記規定の制定は正当化されない。

(3)以上より、骨子第3の1、2は、25条1項、14条1項に反し、違憲である。

第3 設問2(骨子第5)について

 骨子第5は、配偶者の上記権利を侵害し、違憲とならないか。

 1 まず、生存権として保障されていることは、上記同様である。

 2 では、かかる規定の制定は、裁量権の逸脱・濫用として違憲となるか。

(1)まず、審査基準の定立につき、制度の後退も向上も、立法者の裁量に任されているため、過去の判断者に、現在の判断者は拘束されないというべきであるから、なお裁量は広く、ゆえに緩やかに判断されるべきという反論が考えられる。

 しかし、民主的多数派は、自らが享受する様々の所得控除等は固守しつつも、切り捨てやすい弱者への給付を容易に切り捨てがちであり、このような場面にこそ、25条の法意は発揮されるべきである。また、拘束されないからといって、まったく考慮せずにいかなる制度も構築できるとするべきではない。そのため、なお裁量はやや狭いといえる。

 そこで、やや厳格に、裁量権の逸脱・濫用があったかどうかを審査すべきである。

(2)これを本件についてみる。

ア まず、骨子第5による仕組みは、新旧遺族年金制度の下での公平性を担保するという目的で規定されていると反論することが考えられる。確かに、今まで遺族年金を受領できていた者で、新遺族年金制度の要件を充足する者は、引き続き遺族年金を受給でき、公平性は保たれるとも思える。しかし、そもそも、旧遺族年金制度では、20歳以上65歳未満のすべての者が被保険者とされ、かかる幅の者であれば、遺族年金を受給し得たのに、新遺族年金制度では、受給要件が厳格になり、旧遺族年金であれば受給できていた者も受給できなくなるおそれがあり、必ずしも公平性が保たれるとはいえない。

 また、確かに、本件では、経過措置が採られ、遺族年金の受給資格を喪失した者も、5年間は従前の遺族年金を受給でき、不利益は小さいという反論が考えられる。

 しかし、経過措置で不利益は軽減されているとしても、3年目からは半額にまで給付額が引き下げられており、5年を超えれば、受給できなくなってしまう。5年間あるいは全額を受給できる実質2年間で新たに就労する等自活できるかは大いに疑問が残るし、かかる引き下げは、生活に多大な不利益をもたらす。全額の2年及び半額の3年間の合計額で、旧遺族年金を受給できていた場合の本来受給できていたとすれば受けられたであろう利益、避けられたであろう不利益までは到底賄うことはできないといえる。

 イ したがって、骨子第5の制定は、裁量権を逸脱・濫用しているといえる。

(3)以上より、骨子第5の制定は、25条1項に反し、違憲である。

以上



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