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令和5年度司法試験答案例速報(民法)

こんばんは。
久々の投稿になります。

早いもので、自分が司法試験を受験して合格してから約1年が経とうとしており、令和5年度の司法試験が始まっています。

受験生の皆様に、元気を与えるべく、自分も司法試験を解いてみました。

解答は、調べたりしたものではなく、あくまで解いてみたという程度のものにすぎませんので、あまり一喜一憂しないようにしてくださいね。

すこしずつ、ノートを分けて今後アップしていきたいと思っています。

第1 設問1小問(1)について

 1 まず、Bは、Dに対し、共有持分権に基づく甲建物明渡請求(請求1)をしているところ、かかる請求が認められるには、➀Bが共有していること、➁Dが占有していることが必要である。

Aは死亡し(民法(以下法名省略)882条)、B・CはAの子であり(887条1項)、DはAの配偶者である(890条1項)ところ、甲建物は不可分であり、遺産分割も未了であるため、➀甲建物は、B、C、Dの共有状態にある(B・C各1/4、D1/2の持分)。そして、現在、➁甲建物はDが占有している。

(1)これに対し、Dは、㋐の主張、すなわち、占有権原の抗弁として、配偶者短期居住権(1037条)を主張して、かかる請求を拒むことができるか。

ア まず、上述の通り、DはAの再婚者であるから、「配偶者」であり、甲建  物は、Aの所有であったため、「被相続人の財産に属した建物」に当たる。      
 次に、Dは、かかる建物に無償で居住していたため、「相続開始の時に無償で居住していた」といえる。
 そして、「配偶者居住権を取得」したり、「891条の規定に該当し」たり、「廃除によってその相続権を失った」ともいえない(1037条1項但書)。

よって、配偶者短期居住権が発生し、Dの上記反論は認められるとも思える。

イ しかし、Dは、「善良な管理者の注意をもって」使用する必要があるところ(1038条1項)、勝手に1階部分を惣菜店に改築して惣菜店を始めている。かかる行為は、共有物の変更行為(251条1項)に当たり、B・Cの同意は得ていないため、同義務に違反したといえる。そして、Bは、令和5年8月10日、Dに対し、「直ちに出ていくように」と伝えており、これは、1038条3項、1037条3項の意思表示と考えられる。

ウ したがって、配偶者短期居住権は消滅する。

(2)よって、Dは、上記抗弁によっては、請求1を拒むことはできない。

2 Bは、Dに対し、不法行為に基づく損害賠償請求(709条、1041条、600条1項)(請求2)をしていると考えらえる。

(1)これに対し、Dは、上記配偶者短期居住権を主張し、これを拒むことができるか。

この点、上記より、配偶者短期居住権は、令和5年8月10日より、消滅していると考えられる。そうだとすると、Dの占有は、同日以降、不法占有となると考えられる。そして、かかる侵害行為により、賃料相当額である月額20万円の1/4に相当する月額5万円の損害が発生している(Bの持分と一致)。また、少なくとも同日以降の占有については、過失があると考えられる。

(2)以上より、Dは、請求2も上記反論によって拒むことはできない。

第2 設問1小問(2)

 1 BはDに対し、上記の通り請求1を請求しているところ、Bは、㋑の主張をして、これを拒むことができるか。

(1)この点、共有者は、自己の持分に基づいて共有物を占有する権原を有する(249条)ため、自己の持分への侵害に対しては、妨害排除を求めることができる。もっとも、妨害している共有者でも、その持分については、利用権を有するため、これを侵害することはできない。そこで、他の共有者であっても、自己の持分に基づいて現に共有物を占有する共有者に対しては、当然には共有物の明渡しを請求することはできないと解する。

(2)したがって、本件でも、上記の通り、Dは1/2の持分を有するため、Bは共有物の明渡しを求めることはできない。

(3)よって、Dは、上記反論により、甲建物の明渡を拒むことはできる。

2 他方、Bの請求2に対し、㋑の主張をもって拒むことができるか。

確かに、共有物の明渡自体拒めるのであれば、金銭の請求についても拒めるとも思える。しかし、かかる結論になるのは、建物が不可分であるがゆえに、明渡を認めると、不可避的に他の共有者の持分を害するためである。上述の通り、他の共有者は、それぞれの持分について甲建物を利用する権原を有するのだから、金銭という可分な物であれば、その持分に従って受領できるとするのが公平にかなう。

したがってDは、Bの持分1/4分の額については、これを拒むことはできない。

第3 設問2

 1 小問(1)について

(1)Eの主張の根拠

本件コイは、乙池で飼育されている100匹すべてが売買契約(555条)の対象であり、特定物に当たる(401条2項)。

かかる場合、弁済の提供には、「債権者の行為を要する」(493条但書)ところ、Eは、Fに対し、令和5年10月2日、前日に受け取りに来なかったため、早急に本件コイを受取りに来てほしい旨口頭の提供をしており、弁済の提供がある。

しかし、Fは、その後も本件コイを受領しに来ることはなく、2週間が経過した。

したがって、Fは受領遅滞の状態にあり、Eは、受領遅滞を理由として、契約➀を解除しようとしていると考えられる。

(2)Eの主張の当否

 では、かかるEの主張が認められるか。

ア まず、受領遅滞によって解除権が発生するか。

(ア)そもそも、債権者が権利を行使するか否かは本人の自由であり、特約のない限り、債権者に受領義務は認められず、受領遅滞を理由とする解除は原則としてできない。

しかし、当事者の公平の観点から、債権者が予定通りに引き取らなければ債務者に不利益が生ずることが契約当事者双方にとり明白であるような場合には、債権者に信義則(1条2項)上の引取義務が発生し、その遅滞により解除権が発生すると解する。

(イ)これを本件についてみると、確かに、コイは比較的長生きをし、直ちに受領しなかったとしても、死亡等による損害が生じうるわけではない。しかし、本件では、令和4年10月2日に、本件コイを受取りに来てもらいたい旨を伝えているし、同月16日には、解除する旨、乙池は同年11月上旬に釣堀営業のために使用する予定があり、同年10月末日までにいったん空にしなければならないことを伝えている。10月末日までに本件コイが受領されない場合、乙池が使えず、釣堀営業も行えなくなることから、Eに相当の損害が生じうることになるが、Fは、かかる伝達によって、このことを認識できたといえる。また、本件コイ自体の市場価格も下落してきており、そのこともFは認識していた。

そうだとすると、債権者が予定通りに引き取らなければ債務者に不利益が生ずることが契約当事者双方にとり明白であったといえる。

(ウ)したがって、受領遅滞により、解除権が発生している。

イ 次に、手続要件につき、上述の通り、令和4年10月16日、EはFに対し、受領の催告をするとともに、停止期限付解除の意思表示をしており、催告で定められた同月30日は経過しているため、手続要件も充足する。

ウ 以上より、Eの㋐の主張は、正当である。

2 小問(2)について

 Eは、Fに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求(415条1項)をしていると考えられる。

(1)まず、上記のように、Fに受領遅滞があり、「債務の本旨に従った履行をしない」といえる。

(2)では、「これによって生じた」「損害」はいくらか。

ア そもそも、416条の趣旨は、損害の公平な分担にある。そこで、同条1項は相当因果関係の原則を規定し、同条2項は、その基礎とすべき特別の事情の範囲を示したものと解する。

イ これを本件についてみると、本件コイについては、令和4年9月以降に錦鯉の相場が下落しており、かかる相場の下落による損害は、特別損害と考えられる。

特別損害については、その損害を予見すべきであったかどうかが判断基準となるところ、このような価値の下落は、予見すべきであったとはいえないとも思える。しかし、Fは、少なくとも令和4年9月以降の錦鯉の相場が下落しつつあることは認識しており、今後相場が下落していくことも、予見すべきであったといえる。そのため、このような価値の下落も、賠償範囲決定の基礎事情に含められる。

したがって、Fが明確に受領拒否をしたと考えられる令和4年10月30日ではなく、かかる事情を予見し始めた時期である同年9月時点での損害を賠償すべきである。したがって、本件コイについては、80万円の損害が相当因果関係が認められるといえる。

他方、営業利益については、Eが釣堀営業の存在を伝えている上、これを認識した上で受領遅滞に陥っているため、通常損害と考えられる。

ウ したがって、債務不履行「によって生じた」「損害」は、計90万円である。

(3)そして、受領遅滞につき、Fは何ら合理的な理由はなく、免責事由(415条1項但書)も認められない。

(4)以上より、EのFに対する上記請求は、90万円の限度で認められる。

第4 設問3

 1 Hは、LのKに対する賃料債権に対し、物上代位(372条・304条1項)できるか。

(1)まず、本件は、当初の契約➁が契約➂、➃に変更され、あたかも転貸借関係にあるような構図となっているところ、このようなLのKに対する債権が、「賃貸・・・によって債務者が受けるべき金銭」に当たるか。

ア この点、304条1項を抵当権に準用する際には、「債務者」は当該不動産の所有者と読み替えることになるが、これに転貸人を含ませるのには無理があるし、転貸賃料債権が物上代位の対象となると、正常な取引により成立した転貸借関係の転借人の地位を害し、妥当でない。そこで、転貸賃料債権については、物上代位を原則として行えないと解する。

 しかし、転貸借契約成立の経緯などから、その転貸賃料債権を賃料債権と同視し得るような特段の事情がある場合には、例外的に上記文言に当たると解する。

イ これを本件についてみると、確かに、形式上、契約内容のみを見れば、GがLに賃貸し、LがKに転貸するという転貸借関係が出来上がっている。しかし、G・L間では、契約上は月額賃料3万円と定められているものの、実際には賃料を受取らないとされており、使用貸借契約に近い状態にある(593条)。そして、契約➂、➃を締結した経緯は、L、G、K間で合意されており、かかる三者はこの契約内容を認識している。このような三者の合意によって、Lの債権の回収を優先的に行えるようにしたことも考えられ、実質的に見れば、Gは賃料債権にかかる担保の影響を免れている。また、L・K間で定められた月額賃料は、当初の契約➁と同じ月額25万円であり、一致する。したがって、本件は、GとLは別主体ではあるが、実質的にみれば、抵当不動産所有者が利益を取得するに等しいため、L・K間の債権は、賃料債権と同視できる特段の事情があるといえる。

ウ よって、「賃貸・・・によって債務者が受けるべき金銭」に当たる。

(2)したがって、Hは、「差押え」をし、物上代位権を行使することができる。

2 では、物上代位できる部分はどのように考えられるか。

(1)まず、令和5年5月分については、当然に物上代位できると考えられる。

(2)次に、同年6月分「以降」についてはどうか。

ア まず、同年6月分については、すでにLのKに対する賃料債権は生じているが、契約上、賃料は、末日払いであるため、同年6月20日時点では、未だ弁済期は到来しておらず、L自身、かかる賃料債権を行使できる段階にはない。

かかる状態の債権に物上代位して回収できるかが問題となるも、抵当権は、目的物の交換価値を把握する権利であり、物上代位は、抵当目的物の売却等によって債務者が受けるべき金銭等に抵当権を行使して担保の目的を実現する制度であるから、権利が発生している以上は、これに対して物上代位権を行使できると解する。

そのため、6月分以降についても、物上代位できる。

イ もっとも、物上代位も、被担保債権の存在を前提とする抵当権により認められる権利であるから、被担保債権以上の額については、代位できないと解する。したがって、令和12年1月分以降の賃料債権に対しては、物上代位できない。

以上

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