怪談セックス

第10話「自身の話〜白い獣〜」(終)

高いところから物を取ろうとしたとき、フミちゃんは足を滑らせてそのまま窓に頭を突っ込んだという。即死だった。
俺とリエチは、ショックが大きすぎてお葬式に参加しても事態を飲み込めなかった。泣くことも、何も出来なかった。フミちゃんのお父さんとお母さんは、ただただ「ありがとうね...」と俺たちの頭を涙でいっぱいにした顔で撫でてくれた。このとき親戚の人たちが「これじゃ誰があの家を継ぐのか」などの声がちらほら聞こえた。一瞬気に掛かったが、俺に抱きついて泣き続けるリエチをただ抱きしめるしか出来なかった。
一月が終わり、二月を迎えた頃、フミちゃんのおばあちゃんが俺を呼び止めた。

「ソウちゃん...済まなかったね」

かける言葉のない俺におばあちゃんは、自身の家の事を話してくれた。
フミちゃんの一族は地元の旧家で、代々祭事を執り行ってきた家だったそうだ。特に女性が生まれると十五歳までに子供を作り、家を継ぐ準備をするという。ただ、適当に相手を選ぶのではなく最初から決められている。アヤくんの家は、フミちゃんの家と繋がる予定だったそうだ。しかしアヤくんは失踪してしまった...わけではなかった。父親に暴行され、寝たきりにされていた。
アヤくんは、本来フミちゃんと夫婦になるべく選ばれていた。それを良いことにアヤくんの父親は、フミちゃんの家に莫大な金銭をせびっていた。当初は婿になるという話からフミちゃんたち家族は了承したが、その全てをギャンブルや浮気に使っていた。アヤくんのお母さんへのDVが発覚し、さらにはそれを庇ったアヤくんを寝たきりになるほど暴行した。アヤくんは、フミちゃん家族に地方の病院を紹介され父親には知らせず姿を消したという顛末だった。アヤくんは生きていた。それだけでも俺には救いだった。早くリエチにもと思ったが口止めされてしまった。消えたことにしてやって欲しいとおばあちゃんに懇願された。
そしてフミちゃんのこと。前述の通り、アヤくんが候補から外れたため別の婿をという話になった。フミちゃんはすべての意見を押し切って、俺の子供を産みたいと言ったそうだ。本来、自身の家に一番近しい家柄を選ぶのに、遠すぎる俺では...と両親もおばあちゃんも反対したという。おばあちゃんはフミちゃんから言われたという。

「一番好きな人はソウちゃん。アヤくんじゃない」

もう泣くしか出来なかった。すると白い犬が擦り寄ってきた。おばあちゃんはそれが見えるようで

「あんたは凄い家の子供だったんだね...」

と言った。しかし意味は分からなかった。おばあちゃんは、涙を拭いて続けた。フミちゃんのお腹の中には俺の子供が宿っていたという。子供が出来たことを知らせるのは年始だという決まりがあるらしい。だから秋から冬にかけて子作りを行うのが慣わしらしくフミちゃんと俺は、それを確実に出来たわけだった。だけど不幸な事故でフミちゃんと赤ちゃんは死んでしまった。
結局、失ったものは大きすぎた。

新年度を迎えて、中学へ上がった俺は別の県へ引っ越していた。辛い思い出だらけのあの町にいたくなかった。リエチには何も言わずに引っ越した。怒ってるかな...なんて思っていて席へ座ると、どことなくフミちゃんに似た女子生徒が笑顔でこっちを見ていた。聞くと彼女はアキノ(仮名)と言い、フミちゃんの親戚に当たる子だった。アキノは俺をお葬式で見て覚えており、まさか俺がこっちへ越して来ていて驚いたらしい。一瞬、幽霊かと思ってマジで身震いした。紆余曲折あったけど、今でもアキノとは一緒だ。お腹を撫でる姿はフミちゃんそっくりだ。

フミちゃんと体を重ねた日から妙な感覚があった。念みたいなものを感じすぎたり、幽霊を見たり、傍には白い犬がいたり。それは、おばあちゃん曰く婿になる男が背負うモノらしい。それまでは娘だけがそれを引き継ぐ。男は娘と体を重ねることで少しずつそれらを引き継ぐらしい。逆に男から子種を得ることで娘は強くなり、家族を支えるということだった。フミちゃんがくれた霊感とも何とも言えない感じる力は今でも俺を苦しめるし、トラブルへと巻き込んでくれる。良いのか悪いのかわからない。神社の神主をしている友人いわく、取り払えない何からしい。そう言えばフミちゃんは感の鋭い子だったなと思い出す。同時にこんな苦悩も背負っていたんだなと感じて今でも泣きそうになる。
あと白い犬に関して。これは、どうやら俺の守り神のようなヤツでフミちゃん家族には昔から見えていたらしい。ただし犬ではなく、狼とのこと。大学へ行ってから知るんだがうちは、山岳信仰をしていた先祖がいたそうで猟師として生計を立てながらも、ニホンオオカミは山の神様のお使いといって敬っていたそうだ。コイツにも散々世話になっている。いつでも俺の部屋の暗がりで寝息を立てている。ただ狼のおかげで俺は無事に生きて来れたとのこと。最近はアキノのお腹周りの匂いを嗅いでいる。やはり子供がいるのがわかるのだろうか。どうもアキノには見えないらしいが。。

いろいろとある人生だけど、俺は今日も生きていてこれを書いています。

『怪談セックス』...完

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