デカい悲しみ

「お客様、大変申し訳ございません」

カウンターのグランドスタッフがバツの悪そうな顔をしながら告げた。

「お客様のお手荷物は、機内持ち込みサイズをオーバーしております」

男は当惑した。

「なんですって」
「誠に申し訳ございません。重量の方もオーバーしておりまして…」
「そんな…」
「残念ながらお客様の悲しみは、機内にお持ち込みいただけません」
「参ったな、今までこんなことなかったのに」
「ですが、預け手荷物としてお預かりすることは可能です」
「本当ですか? ぜひお願いしたい」
「よろしければ、当港で廃棄も承っておりますが」
「いえ、向こうまで持っていきます」
「かしこまりました。ではお預かりいたします」

―――

飛行機は雨の空港に降り立った。
ボーディングブリッジを渡った先の空気は少し生温い。だだっ広い空港のターミナルを突っ切って、エスカレーターを下る。

人垣に囲まれたバゲージ・クレームのベルトコンベアーが気だるそうに回転を始める。すると間もなく、スーツケースやゴルフバッグの群れに混じって、ひときわ大きな悲しみが流れてくるのが見えた。男は悲しみを手に取った。ひんやりと冷たい。
そこかしこに傷がつき、剥がれかけのシールが貼ってあるそれは、紛れもなく男の悲しみだった。


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