「赤と死神のクロ」4話
脚本形式で書いた者の続きです。以前書いた下手くそな小説形式の物ですが、脚本形式が中途半端なところで終わっているので一応きりのよい所まで切り取って載せておこうと思います。
続きって書いて載せた方が良いのだろうか。
(俺の人生は、いたって普通だった。
物心ついた当たりで戦争が終わったので、戦争に関しての記憶はあまり覚えていない。
うちの家族は貧しかった。
私は7人兄弟の4番目。家族みんなで昼間は畑を耕し、夜は少ない米をみんなで分け合うひもじい生活をしていた。
7人兄弟といったが、実は他にも兄弟がいる。長男は昔徴兵されてそれっきりだったようだ。
そして、俺の初めてできた妹は、病に侵され、みるみるやせ細って死んでいった。
他にも助からなかった人がたくさんいた。
様々なことはありつつも、貧しい家庭でも幸せな日々を送っていた。
私が16歳の時だ。テレビの向こうには私が今まで見てきたものとは別次元の景色が広がっていた。
どこまでも高くそびえたつビルが並び立ち、キラキラした街並みの中を様々な色の車が走っていて、まさに活気にあふれていた。3男である私は家を告げないため、その街で働くことを決めた。
しかし、その街は私が思い描いていたような所ではなかった。当たり前だった。短期間でこれほどの電造物を立て続けているのだ。労働者の待遇は正直厳しい。
いやな上司に毎日怒鳴られながらも、朝から夜遅くまで必死になって働いた。
少ない給料を少しづつ稼ぎながら、いつか必ず車を買って彼女とデートをするなんてことを夢見ながら。
その夢はかない、20代後半後頃、とある会社に就職して落ち着いていた俺は、その会社の年の近い女性と恋に落ち、そして結婚した。
30代前半。子供を授かった。愛する人との子。ありきたりかもしれないが、俺はこの子の為なら何でもできると、本気で思った。
まだ赤ちゃんだったのに休みの日に妻と娘を連れてって一緒にパンダを見に行ったっけ。
娘が成長していく姿を見て、嬉しいような。ちょっぴり寂しいような。
だが、反抗期の娘にお父さん臭いからそばに来ないでと言われたときは三日ほど寝込みたい気分になった。
そんなおてんばだった娘も、あっという間に立派な大人いなって俺のもとから離れていった。
妻と一緒に花嫁姿の娘を見ながら、今までの娘との思い出を語り合った。もう俺たちと一緒じゃないと思うとやっぱり寂しかった。
だが、娘が立派に成長してくれた喜びの方が大きい。
きっと、これまで娘が成長するたびに感じていた寂しさは、今日この日にめいっぱい喜ぶために、少しづつ時間をかけて準備していたのだろう。
孫が生まれた。これがまた可愛い。目に入れても痛くないと本当に思えてしまうとは。
娘と違って内気な性格だが、時々娘と一緒に家に遊びに来てくれる時は本当にうれしい。
些細なことで喧嘩をしていても、あっという間に妻と俺が仲直りをして笑顔があふれるレベルだ。
そんな妻が、4年前に旅立った。
棺の中で穏やかに眠る妻の顔を見てもなお、いなくなったことが信じられない。だが、悲しみよりも、今まで一緒に過ごしてきた感謝が沸き上がってきた。
俺は涙を流しながら、棺の中で眠る彼女に礼を言った。ありがとうと・・・あの時の俺は、一体どんな顔で泣いていたんだろう)
あかね祖父は、涙を必死にこらえて笑顔を作るあかね母の顔を見て思う。
(ああ、こんな顔をしていたのか。そんなにも俺を思っていてくれたのか)
「あ・・・りが・・・と・・・う・・ね」
走馬灯はそこで終わった。僕はおじいさんの体から鎌をゆっくりと引き抜いた。
何故だろう、涙が止まらない。この、心の底から暖かくなるような優しい感情。
これは、なんという感情なのだろうか。
おじいさんから生まれた未練は、人間サイズだった。
「あ・・・が・・・ね・・・」
しかし、甲高い声でそう呟くと、以前の未練とは比べ物にならない程のスピードで僕との間合いを詰めてくると、僕はそのまま何度も何度も殴られた。
黒い血を吐血し、あばらは砕け、内臓がつぶれる。
首を絞められ、呼吸ができなくなる。
意識が遠のく中、僕は自分の中に湧き上がるどす黒い何かが沸き上がってくるのを感じた。
その感情を・・・その温かくて、優しい感情を・・・
「僕にもよこせーーーーーーーー!!!!」
その瞬間、僕の背中から真っ黒で巨大な腕が生えてくると、首を絞続ける未練の腕を殴って切断した。
未練は腕が取れた衝撃であああああああrrrrっと叫び取り乱している。
そのすきに僕は背中から生えた腕でもう片方の未練の腕を引きちぎり、無防備になった未練の胸に鎌を突き刺した。
「・・・あ・・・が・・・ね・・・」
胸を突き刺された未練は、苦しそうに家族写真の置いてある棚に手を伸ばしながら形状崩壊し、液体となって消えていった。
流れてきた液体が僕の足元から収され、ボロボロだった僕の体も元に戻って行く。
しかし、僕の心は元には戻らなかった。老人の走馬灯から、孫が今病院に向かっているということを知った。僕がもう少し待っていれば、最後の別れの言葉を言えたはずなのに・・・
だが、僕が今声を出して泣いている理由は、罪悪感によるものではなく。後悔だった。おじいさんを殺したことに対しては、自分で選んだこと。
後悔はないはずなのに。
何故か、悔しくて、悔しくて、僕は病院の一室でずっと泣き続けていた。
それから1、2時間くらいたったころ。おじいさんの遺体はすでに霊安室運ばれていった。
僕の涙もとっくに枯れて、病院の窓の外からぼーっと外の夜景を眺めていた時。
ガラガラっと勢いよく扉を開けて、一人の女子高生が入ってきた。音にびくっとした僕は、そっちの方に目をやると、その女子高生は僕の方を凝視して呟いた。
「死……神?」
信じられない……という風に思っているのだろう。
何せ目の前に真っ黒で大きな翼をはやした痛い変人が大きな鎌をもって自分の祖父の病室の前で突っ立っているのだ。
僕がそんな状況に出くわしたら恐怖で腰を抜かしで2、3日はここにいる羽目になるだろう。
同様と恐怖、両方が混じったひきつった表情を彼女は僕に向けた。
そんな顔を向けられてショックだった。
しかし、この状況が信じられないのは僕も同じだった。
「え・・・今、死神って・・・」
「し・・・死神なんでしょう?この間も駅のホームに飛び込んだ人が電車に突き飛ばされる前に鎌で殺してたし・・・」
どうやら本当に僕のことが見えているらしい。死神が見える人間なんて聞いたことがない。
だが、神話だとか他にも様々な類で死神が取り上げられていることを考えれば、これまでにも死神が見える人間がいた可能性はある。
もしかしたら悪魔だとか、天使だとかも死神から連想された者なのかもしれない。
彼女はしばらく動揺していたが、死神である僕がここにいることが何を意味するかを徐々に理解していった。
「・・・おじいちゃんは・・・おじいちゃんはどこですか?・・・」
恐怖で震えていたその声は、僕に対してではなく祖父の安否に対して向けられていた。
「・・・ごめん・・・」
「え?」
言わなければ・・・僕が、彼女が来る前に、彼女の祖父を殺してしまったと。
申し訳なかったと。
僕は悔しさと無力さを思いっきり噛み締めて言う。
「ごめん・・・おじいさんの寿命が来て・・・僕が・・・殺したんだ」
彼女は僕の方をきょとんと見つめた。その眼からは涙が徐々にこぼれていった。
「・・・・・・」
彼女は泣き顔を見られないよう顔を手で覆った。
おおわれた手の向こうで、歯を食いしばりながら震えた声で彼女は呟く。
「もうちょっと・・・待っててくれても良かったじゃん・・・おじいちゃん」
彼女の言葉は、子供ゆえの我儘のようなものだったのだろう。彼女が来ることを知らなかった僕にはどうすることもできなかったのだから。
だが、その発言を聞いた僕はとてつもなくつらい気持ちになった。それは僕もまた子供だからなのだろう。
だから分かる。ほんの小さな希望くらい、叶えてくれよというその気持ちが。
「・・・ごめん・・・なさい・・・」
これしか、言うことができない。これしかない。言えることが、思いつかない。
しかし彼女から帰ってきた言葉に、僕は救われることになる。
「・・・いや、ごめん・・・」
彼女は涙でぬれた顔をハンカチで拭う。
そして、
無理やり笑顔を作ってこう言った。
「ありがとう」
「え・・・何で・・・」
彼女がそういった理由が理解できなかった。
彼女の祖父殺した僕に言う言葉がありがとう。こういう状況ではお前が死んでしまえばいいのになんて言葉が妥当のはずだ。
言ってしまえば僕は彼女の祖父の仇なのだから。
「な・・・なんで・・・」
「だって、電車にはねられる前にあの男の人を殺したのは、きっと死ぬ時苦しまないようにするためなんでしょ?」
図星だった。そして、僕が忘れかけていた、この仕事を誇る行為。
「・・・・・・」
「あなたが怪物にボロボロにされてるのも見てた。きっと、おじいちゃんの事も、そうやって身を粉にして楽にしてくれたんだよね・・・」
「・・・・・・」
「だから・・・ありがとう・・・」
その言葉を聞いた瞬間、僕の内側に、またあの暖かくて優しい感情が巡った。そしてその感情は僕の眼がしらの方まで巡ってくる。
僕はまた、泣いていた。声に出して泣いていた。
彼女が歯を食いしばって声を出すのをこらえていたのに、思いっきり大声で、赤ちゃんみたいに泣いていた。
でも、しょうがないじゃないか。
だって僕は、その言葉に、
救われたのだから。
だから僕も、この暖かい感情を、言葉で返そう。
「・・・ありがとう・・・」
「え?」
「ごめん・・・君の・・・その言葉が・・・嬉しくて・・・」
「いや・・・私なんか・・・私なんか・・・」
彼女の顔は一瞬曇った。しかし、その曇った表情は涙でゆがんで僕にはよく見えなかった。
「・・・ずっと、死神なんて・・・人を殺して自分も傷つく最低な仕事だと思ってた・・・でも、そうじゃないかもって、初めて・・・思えた・・・ごめん・・・ごめん・・・」
今沸き起こる感情を、言葉にしてちゃんと返すことができた。
「ありがとう・・・」
そう言いながらうつむいて泣き続ける僕の目に、彼女は優しい眼差しを向けて僕の名前を聞いてくれた。
「死神さんさ、名前なんて言うの?私はあかね」
「・・・クロ・・・です・・・」
「クロ君・・・また・・・会おうね」
きっと、この言葉を言われた時の僕の顔は、恥ずかしいくらい良い笑顔だったのだろう。
人にそんなことを言われるなんて、思いもしなかったから。
「・・・うん!本当に・・・会えるといいね・・・」
彼女はその言葉を聞いて、ふっと微笑んだ。
・・・惚れそうだ。
「それじゃあ、私、おじいちゃんにお別れ行ってくるから・・・」
「・・・うん・・・」
彼女は階段の方え向き直ると、もう一度病室のドアから顔をのぞかせる。
「あ、明日・・・中央公園に、朝6時に来てくれない?」
「・・・え、何で・・・」
「また会おうって言ったでしょ?」
僕はまた、恥ずかしいくらいの笑顔で返した。
「・・・うん!」
僕の返事を聞くと、彼女は足早に階段を駆け下りていった。
病院の窓から僕も外に出て、死神界におじいさんの魂を届けようとした時だった。
「・・・!?」
僕の足元には、美しいカラフルな明りが、ぽつぽつと隊列を組んでどこまでもどこまでも、この真っ暗な闇の中を美しく照らしていた。
こんな、素晴らしい景色を特等席で見ることができるのなら、この明かりの中にいる一人一人の、思いに報いることができるのなら。
死神も・・・悪くないのかな・・・
僕はなんだか嬉しくて、今思った率直な感想を声に出していってみた。
「良い景色だなぁ・・・」
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