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東南アジアの家族形態──鹿島茂のN'importe Quoi!「前回のおさらい」

連日こんにちは、ゲンロンスタッフの野口です。最近、人に昔読んだ本を紹介をしたのをきっかけに、その本が懐かしくなって読み返しています。かつて読んだときには気がつかなかったことに気づいたり、こんな話まで書いてたっけ??という発見があったり。
いろいろを経て、また同じところ(=本)に戻ってくると、新たな分け方ができるようになって、違う発見があったりする。そんな気づきとも共通するようなお話もあった7月26日放送の「東南アジアの家族形態【家族人類学入門──トッド理論の汎用性・第7講】」を本日はおさらいしましょう。

1.第一理論における東南アジアの分類

まずは本番組でトッド第一理論と呼んでいる、『第三惑星』に著された時点での家族分類から振り返っていきましょう。
このとき、東南アジアは「アノミー家族」という分類でした。「アノミー」とは、フランス語。規範や規則がない状態を指す言葉です。つまり、第一理論の分類の基軸であった「親夫婦と子供夫婦が同居するか別居するか」においても、「遺産相続において兄弟は平等か否か」においても、どちらも規則性が見つからない、という状況でした。
もちろん、当初からこの第一理論ですべての地域が分類できたわけではありません。トッドはヨーロッパ以外の地域もふくめて適用できる分け方を探り、もう一つ、「近親婚の有無」という軸でも分類を行っています(外婚制共同体家族と内婚制共同体家族)。しかし、東南アジアを中心とするこのエリアでは、この軸にも規則性を見つけることができませんでした。

さらに第一理論においては、家族分類とイデオロギーの関係に焦点をおいていました。その中で、アノミー家族の中でも過去に大虐殺がおこった国としてカンボジアやインドネシアを分類するために「アモック理論」という説明を持ち出すなど、「ちょっと苦しいなぁー」と言わざるを得ないような、そんな説明になっているそうです。

実際、第二理論となる『家族システムの起源』が発表になる以前からこの理論を取り扱っていた鹿島先生は、アノミー家族に分類されてたミャンマー出身の学生さんが「どうも納得がいかない!」と議論していたのをよく覚えているといいます。

2.「分け方を考えよう!」

さて、このように一部ではピタッと当てはまった分類・分け方が当てはまらない部分が出てきたときにどうするか。一部だけの例外……とするのではなく、分け方を考え直すことが肝要であると鹿島さんは言います。

なにか物事を分類するときに、縦軸・横軸のマトリクスを作るのは、ビジネス書などでもよくある話。そこからさらにもう1軸加えることはある意味で立体化して考えることであり、往々にしてこの3番目の軸をどう加えるかが難しい。
トッドは前述の近親婚の有無だけではなく、識字率などのアイデアも持ち出しますが、どうもうまくいきません。そこで最終的に行き着いたのが、レヴィ・ストロースによる構造人類学以前のアメリカ人類学。きっかけに言語学者のロラン・サガールによる「周縁部の保守性原則」との類似性についての指摘があったことは、この講義で何度もご説明いただいた通りです。

ちなみに、トッドがアメリカ人類学と出会ったパリの人類学博物館=Musée de l'Homme。こちらは1937年、第二次世界大戦前の、最後の博覧会となったパリ万博の際に設立されました。このときのパリ万博はモダニズム建築が立ち並び、ドイツ館とソ連館が向かい合う……といったもので、非常に独特の雰囲気があったのだとか……。ヨーロッパによる植民地支配が続いていたこの時代に作られた人類学博物館には、世界中のあらゆる地域の品々やエスノグラフィーが集められていました(そしてこの人類学博物館は今も現役です!)。

3.母方居住という特徴

このアメリカ人類学との出会いを通して見つかった「居住原則」という新たな基軸を加え、東南アジアの家族形態にも適用できる、本講でトッド第二理論と呼ぶところの新たな分類を打ち立てます。

居住原則で分類されるのは「父方居住」「母方居住」「双処居住」の3つ。そして東南アジアには「母方居住」が多くみられる、という特徴がありました(ヨーロッパ圏ではあまり見られない、という発見もありました)。歴史や地理と照らし合わせて見えてくるポイントを解説いただきながら講義は進んでいきます。

父系的な要素の強い直系家族や共同体家族の家族形態でありながら母方居住の原則を持っている地域があったり、一部の父方原理・直系原理を持った集団が支配層になって、母系原理を持つ集団を被支配者層とした政権を作ったときに見られる特徴であったりと、この「分け方」を用いたさまざまな考察の詳しい内容は、ぜひ実際の講義をアーカイブでご視聴いただければと思います!

4.次回は中東!

さて、次回の「家族人類学入門──トッド理論の汎用性」の講義は明日、8月23日(火)の19時からを予定しています。今回のテーマは中東。古代文明からイスラムを経て、どんな変化や変遷があったのでしょうか。どうぞお楽しみに!


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