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BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子について解説。

BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子とは、乳がんや卵巣がんなどの発症リスクを高める遺伝子です。これらの遺伝子は、正常に機能すると、DNAの損傷を修復する役割を果たしますが、病的な変異(バリアント)を持つと、DNAの修復ができなくなり、がんの発生や進行につながります。
BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子は、遺伝性乳がんや卵巣がんの原因遺伝子として知られており、これらの遺伝子にバリアントを持つ人は、乳がんや卵巣がんを若年で発症する可能性が高くなります。また、これらの遺伝子にバリアントを持つがん患者には、PARP阻害剤という分子標的治療薬の効果が高いことがわかっています。

BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に関する最新の研究成果の一つは、日本人集団における14種のがんについて、10万人以上を対象としたがん種横断的ゲノム解析を行ったものです。
この研究では、バイオバンク・ジャパンが保有するがん患者とその対照群のゲノムデータを用いて、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に病的バリアントを持つ人の割合や、がんの発症リスクの上昇度を調べました。
その結果、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子は、既に関連が知られている乳がん卵巣がん前立腺がん膵がんの4がん種に加えて、東アジアに多い胃がん食道がん胆道がんの3がん種の疾患リスクも高めることが明らかになりました。
この発見は、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子にバリアントを持つ患者に対して、既知の4がん種だけでなく新たに同定した3がん種についても、早期発見スクリーニングの実施や、PARP阻害剤の治療効果が期待できることを示しています。
この研究は、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子のゲノム情報を用いた個別化医療がより幅広い形で進展することが期待できると考えられます。

BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に関する最新の研究成果のもう一つは、日本人に特有のBRCA2遺伝子のバリアントを発見し、その病的意義を機能解析実験により実証したものです。
この研究では、BRCA2遺伝子のc.7847C>T (p.Ser2616Phe)というバリアントを持つ日本人の乳がん・卵巣がん患者を7家系10名同定しました。このバリアントは日本人にのみ存在し、海外の一般集団データベースには登録されておらず、その病的意義は不明でした。
各種のシミュレーション解析の結果、本バリアントは高い確率で病原性を持つことが示唆され、また本バリアント保持者の臨床的特徴は、遺伝性乳がん卵巣がんの特徴と一致していました。
さらに、MANO-B法およびABCDテストと呼ばれる機能解析手法により、このバリアントが病原性をもつことが分子遺伝学的に証明されました。
したがって、このBRCA2遺伝子のバリアントc.7847C>T (p.Ser2616Phe)は、乳がん・卵巣がんの発症確率を高める日本人集団に特有の病的バリアントであると結論づけました。
この研究成果は、当該バリアント保有者の乳がん・卵巣がんに対するサーベイランスやリスク低減手術、分子標的治療薬の使用につながり、ゲノム検査の結果に基づき患者一人一人にあった治療を行う個別化医療の実践に貢献することが期待されます。

以上のように、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に関する最新の研究成果は、がんの発症リスクや治療効果に関する重要な知見を提供しています。今後の研究によって、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子のバリアントの検出や評価の精度や効率をさらに向上させることや、他のがん種との関連性や機能的メカニズムを明らかにすることが期待されます。

遺伝性乳癌卵巣癌の原因遺伝子であるBRCA2遺伝子の日本人に特有の病的バリアントを発見|国立がん研究センター (ncc.go.jp)

10万人以上を対象としたBRCA1/2遺伝子の14がん種を横断的解析|国立がん研究センター (ncc.go.jp)

10万人以上を対象としたBRCA1/2遺伝子の14がん種を横断的解析―東アジアに多い3がん種へのゲノム医療の可能性― | 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 (amed.go.jp)

10万人以上を対象としたBRCA1/2遺伝子の14がん種を横断的解析 | 理化学研究所 (riken.jp)

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