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黄土高原の作物と料理(1/2 イネ科作物編) by 前中久行(GEN代表)

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黄土高原の景色は季節によって全く変わります。冬はまさに黄土色の世界ですが春以後は季節とともに変化して夏の農地はほぼ全面作物で緑に覆われます。栽培される作物とその食べ方および食味についての個人的感想です。二回に分けて、今回はイネ科の作物です。 
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 山西省大同市や河北省蔚県の農業は春~秋の一毛作です。よく栽培されるのはトウモロコシ(玉米)、アワ(粟)、キビ(黍)、コウリャン(高粱)、ハダカエンバク(莜麦以下エンバク)です。トウモロコシ以外は今の日本では栽培をみることが稀な作物です。アワは雑草のエノコログサの大親分といった感じです(写真)。両者は交雑して雑種ができます。キビは穂が垂れる様子がイネと似ていて陸稲(オカボ)ですかと質問されることがよくあります。


 現在では現地の都市部の人が食べている穀物は主にコムギです。しかしこの地域は春の雨量が少なくコムギ栽培に適さないので生産は他所にお任せです。コメの栽培をみたのは一カ所の数枚の田んぼだけです。盆地の底部はトウモロコシとコウリャンの栽培が多く、丘陵地ではアワ、キビが多くなり、山地ではエンバクもあります。エンバク畑は色彩が青白色で遠方からわかります。農村部ではアワ、キビ、エンバク等を多く食べており、それが好きなのだそうです。

 トウモロコシの栽培面積は2010年頃から急増しました。生活レベルが向上し、豚肉の需要拡大→豚の飼料不足→買上価格上昇→栽培面積増加と繋がったようです。デンプンを蓄えるデントコーン品種が栽培され、日本で野菜としているスイートコーンではありません。葉や茎は家畜の飼料、時には燃料として重要なので大型高茎の品種が栽培されます。

 コウリャンは蒸留酒の主原料です(コウリャン以外も使われています)。高級酒の「汾酒」や大衆酒「二鍋頭」になります。

 イネ科穀物は粉をこねて整形、加熱して食べます。類型としては麵、饅頭、包子(パオヅ)、餅(ピン)、糕(ガオ)です。中国でいう麵には糸紐状だけでなく大小の平面型も含まれます。名前が面白いものとしてはコムギを指先でひねって猫の耳形にした「猫耳朵」という麵があります。こねて発酵させて蒸したものが饅頭です。丸いものだけでなくて帯状にして巻いたもの(花巻)もあります。中まで粉だけです。中に各種の具が入っているのが包子です。最近は発酵剤もありますが作った生地を残しておいて「面肥」として再利用する方法があります。独特の香味があって、それが好きな人が多いそうです。

 薄くのばして焼いたものが餅(ピン)、漢字は同じですがお餅とは別物です。こねて蒸したものが糕です。

 アワは小米粥として食べます。日本のお粥とは大いに異なります。アワ粒が底に沈んでいて食べ物というより飲み物です。ゆで卵、包子、豆乳とともにホテルの朝食の基本アイテムです(写真)。


 キビ餅「油糕」は農村のごちそうです。こねて丸めて中に餡を入れて油で揚げたものです。形が丸いのは甘い豆餡入り、長いのは野菜の具入りです(写真)。ソバガキ状にしたものが「黄米糕」(写真)。とても粘りの強い食感です。かまずに飲み込むそうです。江戸っ子が蕎麦を噛まないで食べるのと似ていますね。私は飲み込みに苦労します。

 エンバクもソバガキ状で、あるいは手延後加熱して食べます。蜂の巣状の麵「莜面窝窝」(写真)もあります。粉には大小の粒が混ざっていて大粒が砂のように感じられます。

 キビやエンバクの料理は消化が悪く、腹持ちがよいことが昔は長所だったのでしょう。今では昔を懐かしむ嗜好食品というところでしょうか。

 美味しいものはもちろん、食べ慣れないものでも、植物と人間生活の関係について様々な思いが湧きます。植樹ツアーは一面で現地の食べ物を愉しむ食事ツアーでもあります。早く再開したいものです。

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