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失敗の経験をめぐって by 高見邦雄(GEN副代表)

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 新しいことには失敗がつきものです。そして失敗は真剣に向き合うことで多くの教訓をもたらします。ところがいまの日本、失敗を恐れる気持ち、失敗を許さない風潮があまりに強くはないでしょうか。
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 黄土高原の農村での緑化協力で、忘れることのない失敗は大同県徐疃郷で1994年にアンズを植えたときのことです。80haに6万本を植えて、最初の2年はよく育ったんですけど、3年目にほぼ全滅しました。
 
 背後(南)に渾源県との境界となる山があり、前方のなだらかな斜面には無数の浸食谷が刻まれ、その先に桑干河をせき止める冊田ダムが見えます。冊田ダムは北京の水源でもあるんですけど、そこに雨によって浸食された土が流れ込みます。
  日本からくる人たちにも緑化の意味を一目でわかってもらえるでしょう。人口5千人の小さな郷ですから、アンズがお金になれば、短時間で豊かになるでしょう。私たちにとって貴重な成功モデルになるに違いない。そんな欲をだしたんです。
  郷のトップの党書記、李子明さんにほれ込んだこともあります。有能で責任感が強い。アンズを植えるとき、それ以前もそれ以後も経験したことのないくらい真剣で丁寧でした。
 
 それなのに、なぜ失敗したのでしょう。冬から春先にかけてノウサギが出没してアンズの苗をかじりました。ぐるりと形成層をかじられると枯れるしかありません。そこまでいかなくても弱ってしまう。そこにアブラムシが大発生して、痛めつけられた。
 


 しかしそれは引き金で、ほかに大きな問題があったのです。アンズは4年目から実がなり、やがてアワ・キビ・トウモロコシなどの雑穀に比べ、面積あたり5~10倍、うまくすると20倍もの収入をもたらします。
  でもそれまでの数年間、肥料・農薬などお金も手間もかかるのに収入はありません。アンズのあいだに作物を植えるけど、面積も収量も減ります。その時期を耐えて成功にたどり着くには、しっかりしたリーダーが必要です。
  李子明さんは適任でしたが、公務員ですので人事異動でこの郷を去ってしまいました。あとを継いだ人物が果樹栽培を重視しませんでした。そのスキをウサギやアブラムシに突かれてしまった。

  ほんとにショックでした。原因を突き止め、今後に生かすために、真剣に議論しました。第一に、経験もないのに規模が大きすぎた。ノウサギの食害に気づいても、6万本もあったら対応できない。小さく始めて、経験と自信をえてから広げることにしました。
  それからできるだけ農民の畑を使わないで、荒れ地の開墾、耕作放棄地などの利用を追求しました。将来の利益を見通せても、目先の不利益は誰しも歓迎しませんので。
 
 人の要素、とりわけリーダーが大事ですけど、それも政府の役人だけでなく、地元の村に人がいるかどうかを重視することにしました。
  それらの認識をカウンターパートと共有できたことが最大の成果でした。その後の前進はこの失敗のおかげだと言っても過言ではありません。
 
 ところで、あのような取り組みがいまでも可能か自分に問うと、イエスというのにためらいがあります。なにかに取り組むと、とりわけ新しいことに取り組むと、失敗の恐れがあり、それは避けられません。ところがいまの日本では、失敗を恐れる気持ちがとても強く、私も例外ではありません。失敗を許さない風潮が社会に充満しています。
 
 「失われた30年」という表現をよくみかけます。たくさんの要因があり、簡単にまとめることはできないでしょう。でも私は、その筆頭に、この失敗を恐れる、失敗を許さない社会のあり方をあげたいと思うのです。誰しも失敗したいと思う人はいないのです。若い人たちが闊達に挑戦し、失敗にも寛容な社会であってほしいものです。

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