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世界の森林と日本の森林(その5)by 立花吉茂

照葉樹林帯の樹木の種子発芽
 日本にある喬木(高木)は約600種もあり、照葉樹林帯にある樹木はその過半数を占める。いまから20年ほど前に、その種子の発芽に関してどれくらい調査研究されているのか、調べてみて驚いたことにほとんどゼロに近かったのである。種子発芽に関する研究は、その大部分がスギ、ヒノキ、果樹類、クワ、ウルシ、ハゼ、街路樹などの有用植物に限られており、ドングリやクスノキなどの2~3の樹種に例外があるだけであった。このことに気づいてから、遅まきながら実験をはじめたが、簡単な調査であるにもかかわらず意外に年数がかかり、約50種ほど調査したときにはもう定年、退官の年齢になっていた。
 種子の発芽の特性を知ることは、単に学問的に重要なだけでなく、森林再生の基礎知識として必須のものである。種子の発芽は繁殖の第一歩だからでもある。また、日本人が日本の植物のことを知らないのでは、あまりにも恥ずかしいことではないだろうか。以下にいままでに判った点をまとめてみよう。

ドングリ類の発芽の特性
 ドングリはシイノキやカシノキの仲間の種子である。穀斗(コクト)と言われるもので、お皿の上にのったような形をしている。しかし、シイノキでは全体に皮を被っており、ドングリではなく本物のクリはイガに包まれている。おなじブナ科に属するが、ブナは三角形に近い変わった形をしている。ブナは照葉樹林帯の植物ではないので実験には加えていない。ドングリおよびドングリ類似の植物は分類学上次の4属21種である。これらの発芽の状態を調べた結果①ドングリが乾燥したら発芽しない、②最善の条件で蓄えても2年以上は生きていない。この2点がはっきりした。極端な場合はドングリが成熟して母木から落ちて1週間日向にさらされたらもう発芽能力がなくな
っているのである。もし、ドングリを発芽させて苗を作ろうと思うのであれば、毎日木の下で待ち受けて、集めたドングリはビニール袋に入れて湿気を保つ必要がある。昔の人たちはドングリを木箱に砂と共にいれて、庭に埋めて湿気を保たせ、春になったら取り出して苗畑に植えたと記録されている。先人の生活の知恵である。こんなことから発芽の実験には種子集めとその保存に随分と苦労した。結局のところ、一番早く熟するマテバシイが9月はじめころなので、9月から12月までの間、採ったらすぐに準備しておいたプランターに蒔く、という方法で「自然状態」での発芽の特性を調べた。その結果が下の図である。


ブナ科
コナラ属……16種(常緑8、落葉7種)
シイノキ属……2種(常緑)
マテバシイ属……2種(常緑)
クリ属……1種(落葉)
冷蔵庫に貯蔵したり、温度のちがう場所に保存したり、つぎつぎ実験を繰り返してドングリの発芽の特性のあらましがわかったのである。
(緑の地球51号1996年11月掲載分)


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