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植物を育てる(16)by立花吉茂

種の多様性
 単純に「多様性」といえば「単一」の反対語であるから、いろいろあるということになるが、「森林の多様性」では樹木や草本のいろいろの種類が多いということになる。植物の種類が多ければそれを当てにする動物相も増えることになる。だが重要なのはもっと細かく眺めて、ひとつの種類の中に「いろいろな個体」があることがより重要なことになる。その点で人間の作り出す「クローン生物」は多様性のまったくない生物である。それはそろっていて進化がない。生物はそろうことは滅びることと知っていて常に変化を求めている。
 先号で植物多様性の仕組みについてのうち、おもに細胞分裂(減数分裂)時点で多様性が計られているのを述べた。ここではその次の段階で受粉・授粉→受精で計られている自然の巧妙さについての先輩たちの研究をご紹介しよう。
 
雌雄異熟
 植物には雌雄そろった花が多いが、雌・雄別々の花もある。また人間のように雌・雄別々の株(個体)もある。雌雄そろった花を完全花というが、多様性を計るためには決して完全ではない。それは自花(家)授粉を起こしやすいからである。自花(家)授粉よりも他花(家)授粉の方がより変異に富んだ子孫を生む種子ができるからである。さらに、他の系統や別種までを授粉されると雑種が生まれ、より変異に富んだ子孫が生じることになる。
 そこでオシベが先に熟したり、メシベが花弁から飛び出したりして「自花(家)授粉」を避ける仕組みをもつ植物がある。ツバキの中には蕾のうちにメシベが飛び出しているのがある。「メシベ先熟」の例である。
 
異型蘂
 完全花の中で、花によってはメシベが長く、オシベが短いものとか、その反対になったものがある(図参照)。


 また昆虫たちに他花(家)授粉を助けてもらうために、餌として食べてもらうのが目的の花粉をもつものがある(サルスベリ)。これらはみな植物の生き残り作戦のひとつなのである。
(『緑の地球』85号 2002年5月掲載)


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