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木の若芽を食べるチャンチンとその関連樹木 by 前中久行(GEN代表)

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春です。花より団子の季節です。中国や日本では木の若葉若芽を食べる食文化があります。木菜といいます。日本で代表的なものはサンショウです。中国での代表はチャンチンでしょう。黄土高原の人たちは厳しい冬が過ぎてチャンチンの芽が伸びるのを心待ちにしています。チャンチンとその料理およびチャンチンと様々な意味で関係する植物についてお話します。
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 厳しい冬が終わり木の芽がでるのを黄土高原地帯の人々は待ち望んでいます。チャンチンの若芽の季節です。チャンチンは漢字では香椿と書きます。その音はシャンチュンです。同じ漢字でも中国と日本で別の植物を指すことがあります。椿はその代表例です。植物分類的には遠く離れています。葉や花の形もまったく異なります。ツバキの類は中国では山茶といいます。

 木の芽を野菜として食べる習慣が東アジアには共通しています。木菜といいます。貝原益軒の菜譜には木としてウコギ、リョウブ、タラノキ、サンショウ、クコ、チャンチンがあがっています。前4種は日本原産、後2種は中国原産の植物です。食べられるといっても日本ではさほど一般的ではありません。お店で実際に売られているのはサンショウとせいぜいタラの芽程度です。

 チャンチンは中国では広い地域で食べられています。雲南でもみました。元々は大木になる樹木ですが、今では畑に植えて作業がしやすいように低木仕立てで栽培するようです。好む人が多いのですがさほどでもない人もいます。その理由は匂いでしょう。一種独特な匂いで、その表現を私は「ニンニクからネギの匂いを取り去ったような、ある種のチーズあるいは米ぬかの匂いとしていたのですが、数日前にチャンチンの若芽が「木瓜叶」と表現されているのをみつけました。まさしく熟した木瓜つまりパパイヤの匂いです。代表的な料理は「香椿炒鸡蛋」、チャンチン卵炒めです。写真は大同の白登苗圃の食堂で作ってもらったものです。大きなボールに山盛りあってお腹いっぱい食べました。3、4月頃の野菜売り場にチャンチンが山のように並びます(写真)。街中の食堂でもオーダーができます。ただ私が注文するとネギの卵炒めがでてくるのです。他のお客には「香椿炒鶏蛋」がでているのですが。西遊記に美味しそうな料理名が並んでいる一節がありそこに「麵觔椿樹葉」とあります。チャンチンの麵? 食べると孫悟空のように力がモリモリ? 機会があれば一度注文してみようと思います。


 チャンチンにとてもよく似た木があります。臭椿(ニワウルシ)です(写真)。名前に反して私の感覚では匂いはほとんどありません。葉の形では区別が難しいです。大同では至る所でかってに生えてきます。丈夫な木で緑化植物によいと思うのですが、地元の人の同意がえられません。むしろ嫌われている木のようです。理由はわかりません。日本の椿も花首からおちるとして武士に嫌われたとの話もありますが武士の棟梁の徳川秀忠は江戸城に色々な椿を集めて楽しんでいたそうです。

 図書「中国常見樹木」には香椿と臭椿にまつわるお話が載っています。昔々のこと某皇帝が巡行で地方へこられました。農民が香椿炒鶏蛋をさし上げたところ大変気にいられて、どの木の葉かとお聞きになって、香椿を「樹木の王」とお決めになりました。樹木の王と書いた札を作って木に貼って回られました。よく似た臭椿にも間違って貼ったので臭椿は大変喜びましたが、香椿は気分を害して怒って樹肌を縦割れにしてしまったそうです(香椿の幹にも縦筋があります。程度のちがいです)。

 実は臭椿は黄土高原だけでなく日本列島でもあちこちに勝手生えしています。名前はニワウルシあるいはシンジュです。明治初期の渡来でシンジュサンの養蚕にもちいられたともいわれています。種が風で広がり繁殖力が旺盛で、河川、道路脇、市街地内の空地で目立ちます。河川敷では洪水時の水の流れを阻害するので大問題です。環境省の重点対策外来種になっています。臭椿(ニワウルシ)は食べると身体がむくむという情報もあります。チャンチンと似ているからといって食べないでください。

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