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植物を育てる(8)by立花吉茂

造林と自然復元
 いままで自然復元のための「種子を蒔く→苗を育てる→苗を植える」順序を書いてきた。世間では森林を造るための植林を「造林」と言っている。「造林」は読んで字のごとく「林を造る」ことだが、人類がやっている「造林」は最終的には樹木を収穫物とする「単一栽培」にすぎない。これを私たちは「林業」と呼んできた。昔から「農業は1年ごと」「林業は100年ごと」と言われたりした。100倍も年数が違っていても「育てる」という点では同じである。日本では自然林を切り開いてスギやヒノキが植えられている。草本を育てる農業も木本を育てる林業も「単一栽培」に変わりはない。たくさんの種類の自然林がたった1種類の樹木にとって変わったら、それは「自然破壊」ではないのだろうか。もしそうだとすれば、造林ではなく「自然復元植林」が必要になる。
 スギの植林伐採後にスギを植えてその伐採後にまたスギを植える、とすれば300年近くかかってしまう。だから日本にはまだ「連作の害」のデータは集積されていない。おそらく、土壌中の微生物類は減少しているだろう。それが将来どうなるか? まだはっきりしたことは言えないが、環境に良くないことは言えるだろう。
 
経済林、保安林と社寺林
 単一栽培の森林を経済林と呼ぶ。これに対して複雑な自然林を「環境林」と呼ぶ。また別に日本には保安林がたくさんある(表1)。

 その多くは多数の自然の樹種の入り混じったものであり、天然林に近い形のものである。この面積が森林全体の35.5%で、スギ、ヒノキなどの経済林が約40%を占めている。残りの24.5%のうち大部分が二次林(里山を含む)である。では人が植えた複雑な森林が存在するだろうか?
 日本には2、3の例がある。ひとつは東京の明治神宮の森である。1915年から5年間かかって造園技術の粋をつくして造成された。ここには関東以西にあった照葉樹林を模してシイノキやカシノキなどの常緑樹が繁っており、下生えにツバキやアオキなどがある。しかし、日本にある600種もの樹種があるわけではない。もうひとつは戦後(1950年)にスタートした大阪府交野市にある大阪市立大学付属植物園である。ここには日本の南北端のふたつの樹林型を除いた12型の森林が造成され、450種も植えられているが、まだ完成していない。自然林を保護して復元を図っている場所はあるが、100種類以上の自然復元の完全な人工の森林はこのふたつだけだろう。この他に戦時中に神社の周りに造成された人工森林が各地にあるが、樹種も少なく、自然を考えず、同時に植えられただけのものなので、樹高がそろい、林床は暗くて何も生えず、単層構造の林になってしまっている(近江神宮、橿原神宮、伊勢神宮など)。しかし、このような森林でも、あちこちから動物たちが種子を運び、少しずつ種類数が増加中である。
(緑の地球75号 2000年9月)

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