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泥棒さんのおかげです by 高見邦雄(GEN副代表)

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 蔚県の名所・飛狐峪、歴史の重みからいって舞台に不足はありません。そこで演じられた一幕のお芝居! 俗にいう「瓢箪から駒が出る」ってこういうことかしらん?
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 緑の地球ネットワークが2017年から緑化協力をつづける河北省張家口市蔚県に飛狐峪という名所があります。狭いところはわずか十数メートルの谷底に、両側から100mを超えるほぼ垂直の崖が迫り、それが延々と20kmもつづきます。かつてはここが南の農耕地帯と北の遊牧地帯をむすぶ太行山中の要路でした。名所ですので自然が保護され、植物種が豊富です。

 多様性の確保は私たちの緑化の関心事です。大同では南天門自然植物園や実験林場カササギの森を20年かけて建設しました。蔚県では規模は小さいけれど、樹木見本園を構想しました。でも、地元の青年になかなか本気になってもらえない。

 責任者の李志剛さんといっしょに飛狐峪を訪れました。北のほうは両側の崖が急で登れないけど、南のほうに斜面がゆるやかなところがあり、樹木をみたくて私も登ってみました。
 そこに地上部を短く切った樹木の根株が置いてありました。なんのことかわからないまま両手にそれをさげて道路まで戻りました。しばらくして二人の男が同じように根株をもって下りてきて、乗用車のトランクに積み込みました。
 これもあなたたちのものでしょ、といって私は根株をさしだしました。それで親近感をもってくれたのでしょう、私の中国語能力でもなんとか会話がなりたち、彼らの樹木にたいする知識が深いことがわかりました。どの株がなんの木だとよく知っています。どんな仕事をしているんですか?とききました。D県の林業局で働いている、とのこと。同じ河北省の、ちょっと南の県です。
 どうするんですか?ときくと、庭に植えて育てるとの答え。この地方の樹木がとてもたくましく、これくらいの根株でちゃんと育つことを私も知っています。

 ここまで書いて思いだしたことがあります。大同の私たちの苗圃で、広葉樹の苗を乱暴に掘りあげ、根はほとんどない状態で出荷するんですけど、それがちゃんと着く。で、私が立花吉茂先生に「先生、大事なのは根ではなく、幹が力をもっているかどうかなんですね?」ときいたら、「きみはよくそのことに気がついたね」といってほめていただきました。
 その二人の男は車に乗って南の方に帰っていきました。そしたら李志剛さんが「彼らは小盗児(泥棒)じゃないか!」と言い出しました。時や遅し。彼らが泥棒だとすると、私はその手下。
 そこからとんとん拍子に話が進んだんです。自然保護区の樹木を盗むのは犯罪でしょう、そのことを十二分に知っている林業局の人間があえてそれをやる、相当の意義があるはずだと思ったんでしょう、それから存外簡単に樹木種を集めることもできる、とも。
 李志剛さんは蔚県の一人の幹部を伴ってきました。蔚県市政局(市政公共事業管理局)の副局長で趙志軍という人です。彼らはしばらく前から、県内に自生する樹種を緑化に利用できないかと考えて、小五台山などから苗木を集めて、苗圃の一角で試験的に育てていたのです。
 それが蔚県壷流河国家湿地公園の一角に建設中の蔚県郷土樹木園へと結実しました。彼らにとって、私たちの提案は渡りに船ですし、私たちにとっても彼らの存在は渡りに船です。経団連自然保護基金の助成をいただきました。


 それがまた野鳥保護へと新たな分野への足がかりになりました。泥棒さんがいい橋渡しをしてくれたんです。今回の話、できすぎてるよ、作り話だろう、と思われるかもしれませんけど、証人がおられます。立教大学の上田信先生で、そのときごいっしょしていました。


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