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いまさら聞けない生物多様性って何?(1/2) by 藤沼潤一(Tartu大学・GEN世話人)

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「生物多様性」というモヤモヤとした言葉、生活の色々な場面で目にするようになりましたが、具体的にどんなものを指していて、そんなに大切なものなのか、そもそもの部分を取り上げます!
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 これまで、本コラム「お茶の間直送便・新鮮/新鮮だった環境科学ネタ」で書いた、7本の記事を振り返ると、どれも生物多様性が主テーマな話題ばかり。もしも、読者の方々が「そもそも生物多様性って具体的に何なのか?」「なぜ生物多様性が大切なのか?」みたいな状況だったら、けっこうな空回りな記事だったのかも……と反省し始めている次第です。
 
 ということで、今回と次回の2回に分けて、"生物多様性いっつせるふ"にフォーカスして、明快な説明を試みます!
 
【広く使われるようになった「生物多様性」という言葉】
僕自身、自らの研究領域を「生物多様性科学」と表現することもあるくらいなので(説明が面倒臭い時)このテーマにはかなり自信があります(笑)。1990年代以降、爆発的に使われるようになったBiodiversity/Biological diversity(生物多様性)という言葉は、「生き物の多様さ」という元々のモヤモヤでファジーな定義が手伝って、今日ではさまざまな意味で使われています。しかし「生き物の多様さ」という日本語の持つニュアンスと曖昧さは、今日、科学の、特に生態学分野で使われる狭義のBiodiversityをかなり上手に捉えられていると感じます。
 
【「生き物の多様さ」をどう表現する?】
「このグループの方があのグループよりも多様な人が集まったね」と言う場合、どのように多様さを比較するでしょうか。国籍や身長、性別、専門、年齢など連続値(身長・年齢)や非連続値(国籍、性別、専門)の属性にフォーカスして多様さを適当に数値化し、グループ間で比較するかと思います。生態学で言うところのBiodiversityは、生き物の種類(亜種sub-species/種species/属genus/……)にフォーカスして種類の数や、各種類ごとの個体数やサブグループ数の違い(図1)を数値的に表現して「多様さ」とします。さらに、体サイズや特定の形質に着目して、機能的だったり特徴的な多様さを表現したり、種類間の遺伝情報の隔たり(図2)を加味して、遺伝情報レベルで多様さを測ったりもします。

さらに、質的に異なる多様性の尺度をミックスして、総合的な多様性として数値化したりなど、生態学的な意義を見出せる限り、さまざまな特徴に着目してグループごとの多様性を表現します。さらにエスカレートすると、もはや個々の生き物の顔を見ず、環境に散らばっているDNA情報(環境DNA/environmental DNA)から仮想的な種speciesを想定して、その仮想種の多様さを数値的に表現するアプローチも主流化してきました。この手法は、分類体系の整備(生き物の親類関係の理解)が不十分な生き物(微生物とか)にも有効で、何という種speciesなのかという思考はあきらめ(図2の生き物のアイコンを消す)塩基配列がどれほど違うかに基づいて、環境に散らばっているDNAのゴミくずの中に何種species分に相当する遺伝情報が見出せるかという分析を行ない、生き物の多様さを測るわけです。
 
【生物多様性が高い=素晴らしい……?】
(ややこしくなってきたので違う切り口で……)「生物多様性豊かな日本の自然」と聞くと、耳から脳細胞一粒一粒へと、いいイメージが気持ちよく染み渡りますが、厳密なことを考え始めると何を意味しているのか分からなくなります。上で説明したBiodiversityが豊かと言うことですので、何らかの属性に注目した場合の種類が豊富と言うことになるのですが……。例えば、外来種が増える→生き物が多様になる……。湿原を部分的に干拓(水抜き)し森林に変える→多様な生き物が暮らすようになる……。
 
 「生物多様性が高い=素晴らしい」にはあまり違和感をもたない人が多いかと思いますが、意外と根拠の乏しい信念かもしれません。
 
 次回「お茶の間直送便・新鮮/新鮮だった環境科学ネタ」では、なぜ生物多様性がこれほど注目されているのか、人社会のさまざまなセクターが生物多様性をどのようにケアするべきなのか、について考えてみたいと思います。
 

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