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冬の花 サザンカとツバキ~照葉樹天然林に野生サザンカの花を探す by 前中久行(GEN代表)

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 サザンカの花の季節です。既に咲き出したツバキの品種もあります。サザンカとツバキは照葉樹林の樹木で、ツバキは青森以南に広範に、サザンカは日本列島西南部に自生しています。多くの園芸品種が選抜や改良されて、秋から春まで長期間にわたって咲き続けます。外国人旅行者は冬でも花が咲いていることに驚くそうです。いっぽう自生地の天然林内では上層を他の木に覆われ日照が少ないために成長や開花が難しい状態にあります。今回は野生のサザンカとツバキ・サザンカの園芸品種群についてのエッセイです。======================
 サザンカの咲く季節になりました。

 サザンカとツバキはよく似ています。観察会でも「ツバキとサザンカの見分け方は?」とよく質問されます。ツバキの自生地は青森県から沖縄県までと広範なのに対してサザンカは本州(山口県)、四国、九州で日本列島南西部に限定的です。

 両者の自然分布が重なる地域では雌しべの下の子房、あるいは若い果実に毛があればサザンカ、なければツバキと区別できます。園芸化された品種については葉の鋸歯の切れ込みが深いとサザンカ、浅いとツバキ。また葉裏の中軸上に毛があればサザンカ、なければツバキといわれていますが、私には見分ける自信がありません。花びらが一枚ずつ個別につくのはサザンカ、花びらが合着して筒状はツバキといわれますが、花びらがパラパラと散るのを楽しむ散りツバキという品種群もあります。

 「ハルサザンカ」というサザンカとツバキの雑種の品種群もあります。平戸の旧武家屋敷には樹齢400年以上のハルサザンカの天然記念物(長崎県指定)があります。「寒椿(獅子頭)」もサザンカとツバキの雑種系統といわれています。気に入ったサザンカとツバキを近傍に集めて栽培しているうちに交雑して、さらにそれらが次世代の親になり多様な子孫品種群が出現したのでしょう。人間が植物をあつめると自動的に品種改良的な変化がおきるのです。野生のサザンカの開花時期は初冬です。ツバキは初春です。園芸品種では開花期が広がり9月中旬から5月初めまで開花のリレーを楽しむことができます。園芸品種は実に様々です。サザンカ的なものからツバキ的なものまでに種々の形質が連続的に変化します。サザンカとツバキは栽培上や利用上の取り扱いは同じなので、観賞上は両者を区別する意味は小さいと私は考えています。

 ツバキもサザンカも、シイやカシ類、タブ、イスノキなどとともに照葉樹とよばれています。季節変化がある地域では、冬の寒さや乾燥に耐えるために葉の表面にロウ物質を分泌して保護層をつくります。ロウ物質は光を反射して光るので照葉樹といわれるのです。万葉集のツバキを詠んだ歌には「つらつら」という表現があります。さらにこのうち二つの歌には「つらつら椿つらつらに」と繰り返しがあります。私は「つらつら」を葉の照り光る様子だと思い込んでいました。今回確認して間違っていたことに気がつきました。前のつらつらには「列々」の万葉ガナが当てられ並んでいる様子を、後ろは「都良々々」でよくよくの意味です。いずれにせよツバキの葉は光を反射して光っています。今後は「つるつる椿つらつらに」と葉の光る様子を説明したいと思います。

 私は熊本県水俣の照葉樹林の長期継続調査に参加しています。1966年から続いており最近は基本的に2年ごとに約2000本の樹木の幹直径を測定しています。前回2021年はコロナ感染症で中止で今回4年ぶりの調査を完了したところです。サザンカもツバキも自生しています。ちょうどサザンカの開花時期でしたが、調査区域内に開花したサザンカはありません。サザンカは小高木なので、上層をコジイやカシ類に覆われて日陰になっているためです。春に行ってもツバキの開花は希有です。別枠の10年ごとに調査している場所では1994年に幹直径4.0 cm以上のサザンカが4本ありました。その平均幹直径は4.75 cmでした。29年後の今回の測定では7.18 cmでした。成長はしていますが、1年あたりの幹直径成長は0.08 cmにすぎません。光量不足のため成長は極めて緩慢で、開花できず次世代個体を再生産することもできません。サザンカにとっては厳しい環境です。照葉樹林というと多様性の宝庫と捉えられがちですが個々の種や個体にとっては厳しい側面もあります。

 調査最終日に尾根筋でようやくサザンカの開花をみつけました。私が撮影した写真は見栄えしないものでした。調査メンバーの写真を使わせてもらって照葉樹林中のサザンカの花をみていただきます。野生のサザンカの花は風雅で素晴らしいでしょう(写真)。

 照葉樹林の長期継続調査に興味のある方は以下をご覧ください(英文)。

https://esajournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1890/ES11-00105.1

 

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