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文章を読みやすく加工する「読書アシスト」というサービスを試した

前置き

DNP(大日本印刷)が、文章を読みやすく加工する「読書アシスト」というサービスを無償公開していたので利用してみた。人間が文章を読む時の文章の認知方法や、眼球の動きを研究して開発したサービスらしい。

以下のホームページに、詳細が掲載されている。

機能

機能についての説明があったので、まるごと引用する。

「読書アシスト」は、独自の文章表示アルゴリズムによって、読んでいる最中の目線の動きをスムーズに誘導し、読むスピードを向上させる文字レイアウト変換技術です。日本語文における文節(意味のまとまり)ごとに目線を上手に動かせるように、文字配置や改行位置を調整することで、読むスピードが低下する要因となる、余分な目線の動きを減らします。DNPは2012年に、公立はこだて未来大学と共同研究を開始し、文章を読み進める際の人の視覚や認知のメカニズムを踏まえて「読書アシスト」を開発しました。本技術を適用したレイアウトでは、1分間に読める文字数が、一般的に400~600字程度であることに対して、特別な速読の訓練をしなくても、最大で1,000文字程度まで、約1.5~2倍のスピードに向上させることができます。

この説明文に「読書アシスト」機能を適用すると、こうなる。

FireShot Capture 014 - 読書アシスト - reading-assist.com

「走れメロス」の冒頭はこうなる。

FireShot Capture 013 - 読書アシスト - read-assist-dxn.web.app

機能的には以下の4つだそうだ。

①文字のベースラインを文節(意味のまとまり)単位で階段状に下げていく②文節を分断しないよう改行位置を調整
③段落単位で行頭を階段状に一字下げ
④画面幅や文字サイズに応じて行間・行長・背景色などを調整

実際に使った感想

・いくつかの文章にこの機能を適用して読んでみると、確かに読みやすい。単語と文節が区切られて、行の頭が斜めに並ぶだけでこんなに変わるとは思っていなかった。
当初は、慣れないレイアウトに戸惑ったが、読み続けることで、ほとんど気にならなくなった。

適切な比喩ではないかもしれないけれど、従来のレイアウトの文章は、道路にたとえて言えば、ちょうどジグザグで、でこぼこした道路のようなものだ。アシスト機能を適用した文章は、カーブがゆるやかで、舗装がきれいな道路だ。

・自分は教育の専門家ではないけれど、国語の学習や、文章を読むこと自体に抵抗がある子どもに対して、読みやすい文章を提供するツールとして使える可能性があるのでは?と思った。

・従来の日本語の文章は、改行のたびに単語や文節をぶつ切りにしていることに気づいた。当たり前のことすぎて、今まで意識したことがなかったけれど、このことが文章を読みにくくしている。

余談になるけれど、これが英文だと、単語の途中で改行する場合には、ハイフンを用いて、音節の切れ目で単語を区切ることがある。改行によって単語が2つに分断されてしまっているけど、一つの単語ですよ、と示す工夫だと思う。例えば以下のような文章だ。

……………………………………………………………… ………………………not given any expla-
nation until …………………………………………………………………………………………………

デメリット?

重箱の隅をつつくような内容だけれど、難点と感じたことも書く。

・階段状に文章を配置する構成は、多くの余白を生む。従来のレイアウトに比べて、紙面に無駄が生まれるのは確かだ。

もし全ページこの形式で紙の本を作ったら、従来のレイアウトの本に比べて、相当ページ数が増えてしまうのではないだろうか。元々ボリュームのある本は、この形式にすると、かなりかさばるものになってしまう。
もしこのアシスト機能が世間に評価されて広く広まったら、大活字本のように、「アシスト本」なんてジャンルが生まれて、流行るかもしれない。流行らないかもしれない。

いっぽうで、電子書籍なら、その問題は生じない。既存の本の表示形式をこのアシスト形式に変えることも、紙の本を新たに作ることに比べればコストは低いだろうし、本がかさばることもない。
このアシスト機能を開発した大日本印刷は、hontoという電子書籍サービスを運営しているから、将来的には、その電子書籍上でこのアシスト機能を使うことを想定していると思われる。

・早く読むことがすべてではない
「読書アシスト」の売りの一つは、読むスピードが1.5~2倍になることらしい。文量の多い学術書なんかを読むときには、たいへんありがたい効果だと思う。

ただ、小説に限って言えば、スムーズに読むことが常に良いわけではない、と自分は考えている。主観の話になってしまうけれど、すらすらと読み終えた小説より、ゆっくりとなぞるように読んだ小説のほうが、小説を深く理解できるし、読書体験の満足度も高くなると感じる。

ゆっくり読み込むことは、行間を読むことにつながる。ただの文字の羅列から、キャラクターの心情を読み取ったり、風景を想像したりすることができる。読書スピードが上がることは、この過程をそこなう可能性がある。

(自分はまだ、読書アシスト機能を使って小説を通読したことはないから、これは杞憂に過ぎないかも知れない)

まとめ

この「読書アシスト」は、技術の進歩そのもので、歓迎すべきものだと思っている。この機能は、従来の文章は実は読みにくく構成されたもので、もっと読みやすい方法があることを教えてくれる。

万能のツールにはなり得ないだろうけれど、これまで当たり前のものとして受け止めてきた文章のレイアウトについて、あらためて考えるきっかけになった。進展があったらまた記事を書きたい。



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