私が手首を切る理由

 初めて手首を切ったのはいつだっただろうか。
 高校生の頃、それは手首を切ったと言えるレベルではなかったと思う。自室にあった鋏の刃を左手首に当てがい、スッと引いてみた。
 きっとそれが最初。薄い引っ掻き傷。血が流れる事もなかったと思う。
 でも何だか……安心を覚えたのを思い返せる。
 私は自分の命を自分の意思で扱えるんだ。
 私の命をお前達の好きにさせたりしないんだ。
 そんな事を考えながら、笑った後、静かに泣いた……そんな夕方のオレンジの部屋だった。

 手首を切る理由なんて、今になっても良くわかっていない。
 手首を切る事自体、良い事だとも悪い事だとも思っていないし、その行動で何かが変わったか? と聞かれれば、生きていく事に対して不利な事が増えただけだ。
 普段どれだけ明るく振る舞っても、手首の傷に気付いた人は私に対して少しだけ線を引くような感覚を覚える。
 過去の事だからと割り切れれば良いのだろうけれど、その過去が今の自分と違うかと言われれば良くわからない。
 人生という名の一本道の物語。これが自分で、誰かが通るかもしれなかった一つの物語に過ぎないのだから。

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