切り刻む

 魚。スーパーの鮮魚コーナーに並んでいた、死んだ魚。
 きっと今朝まで優雅に泳いでいたのだろう、死んだ魚。
 瞳は濁り始めている、それが今のお前。死んだ魚。
 人間に付けられた値段で売買されて、どこの誰だかわからない人間の家のまな板の上。
 お前はもう死んでいるけれど、少し前までは生きていたのに。
 気が付けばまな板の上。
 さようなら、魚。もう死んでいたけれど。
 様々な場所で、様々な家庭で、様々な包丁で、様々な捌き方で、バラバラになっていくお前。
 さようなら、さようなら、魚。
 頭を断たれて。
 骨に沿って削がれて。
 そのまま咀嚼されぐちゃぐちゃになるか。
 火に炙られ焼き目を付けられるか。
 熱湯に放り込まれ茹るのか。
 誰も可哀想に……なんて思ってはくれない。
 だってお前は食べられる為に、どこかの誰かが生きていく為にそうされているのだから。
 殺されているのだから。
 うん。
 僕と同じだね。
 どこかの誰かが生きる為に殺されてしまう。
 仕方がない事だよね。
 お前が捌かれたように。
 でもお前はもう死んでいるから、きっと痛みは感じないんだろうね。
 僕はね、生きているからさ。
 沢山痛いと感じるんだ。
 この手首を自ら切る時はさ、何だか興奮して、手首をこの腕から切り離してしまおうって、思い切り切り裂くんだよ。
 それはもう痛みも感じ無いくらい。
 自分でもおかしいと思うけれど、その時笑っているんだ。

 「やっと死ねるかもしれない」

 「サヨナラ、世界」

 そんな事ばかり考えている。

 気付けば血の海。ドロドロの、ゼリー状。
 掌にすくって指で遊んで。
 だんだんだんだん、痛いなって。

 意識が遠のくふわふわの快楽。

 たった一人。夢の世界。
 ただただ死にたい。
 そんな訳じゃない。
 何を考えていたか、何を求めていたかなんてわからない。
 でも、この手首が僕を慰めてくれている。

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452字
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