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自民党NFTホワイトペーパーの解説

 小田玄紀です

 本日、公開された自民党のNFTホワイトペーパーについて、この内容を事業者観点から、また、多少の法律用語から分かりにくい点もあるかもしれないので、少し解説をしてみました。

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 まず、この「はじめに」のところですが、全てはこの文章に集約されているのではないかと思います。良い意味で、自民党としても今のままだとWEB3.0に乗り遅れてしまうことを認識し、変えなくてはいけないという危機感を持っています。

 このホワイトペーパーは、元々は自民党の平将明先生が中心となり自民党NFT部会が今年の1月から発足し、そこから急ピッチで様々な議論がされました。従来の政府の部会は2~3ヶ月に一度のペースで勉強会が開催されて、その内容が1ヶ月後位に議事録公開されて、そこから検討がさらに行われる・・・というペースで、何か物事を審議するのに1年以上はかかるというものでした。専門家も呼ばれることはありますが、1回の説明を5分から15分でして欲しいというものであり、話す方も聞く方も理解に限界がありました(文字通り、形式的にやっているというところがありました)。しかし、この自民党NFT部会はわずか2ヶ月間で何度も勉強会を開催し、また、メッセンジャーグループなどで議論をやりとりし、まさにベンチャー企業のような感覚で議論の先鋭化がされてきました。

 私自身、JCBA(日本暗号資産ビジネス協会)やJVCEA(日本暗号資産取引業協会)の理事として、また、ビットポイントという事業者の代表者として、暗号資産に関する規制緩和については5年以上様々な形で意見提示をしてきましたが、特に今年の1月からは非常に建設的な意見交換が出来たと強く感じています。

 そして、この「はじめに」に全てが集約されていますが、事業者だけでなく、政治家の方々もWEB3.0が日本経済にとってもたらす価値を認識し、危機感を持って頂いたということが何よりも嬉しいことです。

 さて、前置きがいつものように長くなりましたが、以下に今回のホワイトペーパーの主なポイントを見ていきます。

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 これはWeb3.0担当大臣を設置し、日本から世界で通用する企業を輩出していくための様々なルールメイク、ルールチェンジをするというものです。

 現在は暗号資産は金融庁管轄となっています。これは自身の会社が金融庁管轄だからリップサービスという訳ではないですが、金融庁も暗号資産について適切な管理をしながらも推進していくという思いを持って頂いている方は多くいます。ただ、それでも「規制」と「育成」は相反するところであり、この「育成」を軸にした管轄を明確に設けるというのは非常に意義があることです。

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 そして、今回の提言の中でNFTについて触れられているところで注目をするべき点が、NFTが賭博に該当しないかどうかということに触れられている点です。

 この議論は実はNFT事業やCryptoゲームを営んでいる会社からすると非常に重要なところであり、通常のCryptoゲームを提供しているつもりでも、事後に顧客からクレームが入り「射幸心を煽るからこれは賭博だ!」という指摘が入ると違法とされてしまうリスクがありました(ゲーム業界で言うところのガチャ問題)。

 今回のホワイトペーパーにおいては、こうした事業者が潜在的に感じていた問題意識を含めて先回りをして議論・検討をされているのも非常に心強いところになります。

 この点がクリアになることで、Cryptoゲームについては大きく成長していく可能性があります。なお、Cryptoゲームについては以下のNoteをご参照ください。

 そして、次にこの提言。

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 この提言は非常に良いですね。日本では取引主体の99%が個人投資家です。しかし、欧米などでは過半数が金融のプロである機関投資家です。日本で機関投資家が参入出来ない要因としてはいくつかありますが、そもそも銀行などの金融機関が「暗号資産を触るのは良くない」と勝手に思ってしまっているところが挙げられます。

 他方で金融機関の若手社員もCryptoやNFTビジネスに対しては前向きであり、今後金融機関による市場参入が増えることで日本の暗号資産市場やNFT市場は活性化する可能性があります。

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 そして、今回の提言において最重要とも言えるのが税制改正です。上記については法人の税制改正について触れられたものですが、現在の税制では法人の場合は期末含み益に対して課税がされたり、ICOにより調達した資金について課税がされます。

 この点を解消していくのが今回の提言の骨子です。AstarやDeap Coinなど日本発のプロジェクトにも関わらず、この点が課題となり海外に移転するプロジェクトは多数あります(というよりも、日本を本拠地に選ぶプロジェクトの方がレアです)。

 この事実に向き合い、課題解決に向けた提言がされたことは非常に大きな一歩です。

 なお、出来れば、今回の提言は自社発行トークンを対象としたものですが、法人が一般的な暗号資産を保有した際についても含み益課税はされないようにするということも今後は改正提言されるようにして頂きたいです。

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 暗号資産審査についても触れられています。この問題については、先日グリーンリストというものを発表させて頂きました。

 昨年立ち上げた、暗号資産審査タスクフォースにより、暗号資産審査については多少の改善はされています。そして、先週発表をしたグリーンリストによりこの流れはさらに加速化します。

 しかし、このグリーンリストはあくまでも「既存暗号資産」すなわち日本で既に暗号資産交換業者が取扱をしている暗号資産(正確には3社以上取扱をするなど)が対象でした。

 これをさらに進化させて、WEB3.0時代のスピードに乗れるようにより柔軟に暗号資産審査が行えるように変更していくというものです。この点については、JVCEAの責任理事としても意向を踏まえて改善案を検討していきます。

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 これも大きなテーマです。ベンチャーキャピタルや機関投資家がCryptoに対して投資をすることには大きな制約がありました。そのため、従来は一定のリスクをとる、または、海外法人を活用するなどの手法での投資ファンドの組成しか出来ませんでした。

 これを日本法管轄で投資が出来るように改正するというものです。このことにより、従来の機関投資家やベンチャーファンドなどが暗号資産およびNFTに対する投資、または当該ファンドへの投資などが促進すれば、非常に市場活性化のためにはいい動きに繋がっていきます。

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 この点もしっかりと触れられています。監査法人の問題です。従来は監査法人が暗号資産審査については嫌がる傾向がありました。このため、上場企業は暗号資産が取り扱えなかったり(リミックスポイントの場合は、日本で初めて上場企業子会社として暗号資産交換業者であるビットポイントを設立しました。監査法人とまさに二人三脚でルールを確認してきました。監査法人の協力があったため出来ましたが、通常は監査法人は嫌がります)と大きな制約がありました。

 監査法人が暗号資産の監査を拒否する場合には明確な拒否事由を提示することを義務付けるなどすることで、この問題は改善していく可能性もありますし、また、監査法人にとっても会計指針が定まらないことが監査に消極的な理由なので、これを日本公認会計士協会やASBJと一緒に会計指針をつくっていくことで改善していくのではないかと思われます。

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 そして、個人の税制改正です。これが改正されることが多くのユーザーにとっては希望するところであり、また、何よりも日本の暗号資産市場は99%が個人投資家によるものなので、改正については強く求められることだと思います。

 また、いわゆるCrypto・Crypto取引については課税対象とすることの問題点も認識されています。

 この個人税制改正については、まだ様々な意見があります。ただ、時間がかかっても確実に進んで行く必要はありますし、今回もホワイトペーパーにこちらが記載されたのは非常に大きなことだと考えています(場合によっては今回は記載されない可能性もあると考えていました)。

 なお、個人の税制改正がされるには暗号資産の社会的有用性をしっかりと出していく必要があります。そのためにも暗号資産が社会問題解決にどう活用されていくのかなどをしっかりと理解浸透していく必要がありますし、また、暗号資産を活用した詐欺や犯罪を減少させていく必要があります。

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 今回、このDAO特区も触れられていますが、これについても、地方創生のために暗号資産やブロックチェーンが活用できる点がないかを検討することで、「暗号資産の社会的有用性」を証明することにも繋がります。

 その他、サンドボックス制度なども活用することで、様々なチャレンジが取り組まれていけば、非常に大きな意義があります。

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 これはいわゆるクリプトVISAと言われるものですが、たとえば中国やインドなど暗号資産取引について国家としては否定的な国には優秀なエンジニアや起業家がいます。

 距離的にはアメリカよりも日本の方が近いですし、シンガポールやドバイ、スイスなどに比べて、今回ホワイトペーパーに記載されたような点が改善されていくと治安・食事・文化など総合力を持ってすれば日本も選択肢になる可能性はあります。

 今後、メタバース社会になってくればリアルな法人設立場所の意味合いも変わってくるかもしれませんが、それでも優秀な人材が日本を何らかの活動拠点として選ぶことは大事なことです。

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 「はじめに」にも今回のホワイトペーパー作成にあたっての『覚悟』がありましたが、この結語にも今回のホワイトペーパーを提出することについての『覚悟』が感じられます。

 これまでは「リスクがあれば止めるべきだ」というマインドで様々なルールが創られてきました。このメッセージはそれを完全に否定するものです。

 今後、NFTやメタバースなどを含めてWEB3.0におけるサービスが出来てくると、必ず問題は出てきます。ただ、課題が出てくるからやめるのではなく、課題を正しく認識し、それに向き合いどう解決していくかが何よりも重要です。

 「何もしないことの方がリスクがある」

 これが現実的に日本が世界から突きつけられた事実であり、課題です。リスクがあるからやらないのではなく、リスクを正しく認識し、それでもより大きなリターンを求めてチャレンジしていくことこそが重要であり、これを事業者ではなく自民党の政治家の方達が同じ思いを持って頂いていることを非常に嬉しく思います。

 なお、WEB3.0については以前に以下のNoteでも概要を記載しておりますので、もしWEB3.0全般についての解説や認識共有が必要であればご参照ください。

 今後はこのホワイトペーパーを基にして、自民党としての成長戦略にどう入れていくか、また、政府としての骨太方針に反映されていくかがポイントになってきます。

 日本から世界を代表する企業が生まれるために、そして、リミックスポイント・ビットポイントもその1つになれるように、これからも取組みを続けていきます。

 あしたを、もっと、あたらしく。

 2022年3月30日 小田玄紀

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