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日本の暗号資産交換業者の規制対応状況~冬から熱い夏へ IVS2023~

 小田玄紀です
 
 6月28日から30日まで京都みやこメッセで開催されているIVS2023に参加しています。IVSは経営者やWeb3事業者が国内外から参加する日本最大級のイベントでした。

 なぜ「でした」と過去形になるのか、それは今回から日本最大級ではなくアジア最大級のイベントになったからです。

 3日間で同じ場所に1万人が集まる。これはとても凄い規模です。国内だけでなく、多くの海外参加者もいて、京都が今、非常に熱いです。

 今回のIVSメイン会場でのイベントも充実しているのですが、サイドイベントも充実しています。むしろ、サイドイベントで1つのイベント以上のクオリティです。

 OASYSの二条城貸切イベントもこの画像でSNSを騒がせましたが、実際に想像を超えるインパクトあるサイドイベントでした。

 メイン会場の多くのステージが人・人・人という状況であり、登壇者も企業側だけでなく、国内外の政府関係者や当局やメディアの方など多くの人たちが参加をしており、量だけでなく質を含めて極めて充実した内容となっています。

 今回、SBIグループとしてもIVS2023をスポンサーさせて頂き、私個人としてもセッションを2つほど担当させて頂くことになりました。

 6月29日に行ったセッションは「暗号資産交換業者の規制対応状況とSBIグループのWeb3領域の取組みについて」というものでした。メインステージの1つでプレゼンをさせて頂きましたが、お蔭様で最後には満員御礼となりました(なぜ、白い服装で登壇しているかについてはおそらくもう少ししたら分かるかと思います)。
 
 今回のセッションでは、「日本のWeb3市場はこれから期待が持てる!」と特に海外参加者に思ってもらうことを期待していました。結論、登壇後に多くの人から「可能性を感じた!」と言って頂けたので、その内容を共有させて頂きます。

 まず、多くの人が「日本は暗号資産審査が非常に厳しい。日本では上場できない」と”まだ”思ってしまっています。ただ、これは過去の話です。

 今、日本では5月末時点で91の暗号資産が審査完了となっています。

 暗号資産審査はこの2年弱で大幅に改善されました。以前は86件近い暗号資産が審査待ちという状況でしたが、4月末時点ではたった2件しか滞留がありません。IEOについても現在は審査開始から3か月間で可否が判断されるようになっています。

 たしかに以前は暗号資産審査は課題がありました。そして、この課題は基本的に解決されないのでは・・・と多くの事業者が憤りを覚えていました。ただ、この点を解決していきたいという思いはJVCEAのスタッフも同様に感じていました。そこで、2021年10月に暗号資産審査タスクフォースを発足させ、この課題解決にあたりました。

 色々な対策は講じたのですが、1つがDCAI制度の導入です。

 これまでは、日本初暗号資産も既存暗号資産も同様の審査をしていました。ただ、たとえば新しい会員企業がビットコインやイーサリアムを取扱うという場合に、「ビットコインとは・・・」という書類を作成し、それをJVCEAおよび金融庁が確認をする・・・という手間はあまり意味がなく、また、非効率的です。

 そこで、DCAI制度により既に国内で取扱いがされている暗号資産については、既存のホワイトリスト記載事項から変更があった個所についてのみ審査時に説明すればよいということにしました。

 86件の審査待ちの暗号資産を分析してみると、実は一定量が既存暗号資産であるということが分かり、まずは、こちらの解消を行ったのです。また、日本初暗号資産の審査枠と既存暗号資産の審査枠を別々に設けるようにしました。

 道路でもレーンが整理されると渋滞が緩和されるように、この方式は非常に効果がありました。従来は月間3~5件程度しか暗号資産審査が進まなかったのですが、このことにより月間15件程度の暗号資産審査処理ができるようになりました。

 また、もう1つがグリーンリストの導入です。これは「3社以上の国内事業者が取扱いをしている暗号資産」で「最初に取扱いが開始してから6か月以上がたっていて」「附帯条件などが無い暗号資産」についてはJVCEAの事前審査がなく取扱いができるとしたものです。

 そして、これにより日本初暗号資産について集中して審査ができるようになったこともあり、多くの日本初暗号資産が上場準備されるようになりました。実際に審査を行ってみて、様々な知見が暗号資産交換業者側にもJVCEA側にも蓄積されてきました。これまでは手探りでの検討だったものから、整理だてた審査が可能となり、これにより、さらに審査精度が向上して結果的に審査速度も速くなりました。

 また、これに加えてCASC制度も始まりました。CASC制度はCrypto Asset Self Check制度です。会員企業が適切な審査を行い、その体制が認められた場合にはJVCEAは事前審査から事後モニタリングに変えるというものです。

 IEOについても審査ポイントを明確にしていき、審査が高度化されたことにより現在は3か月程度での審査可否が判断されるようになっています。

 これら一連の取組みにより、既存暗号資産も大幅に審査期間が圧縮され、日本初暗号資産も以前は2年程度かかっていたものが現在は平均で1か月程度となりました。

 日本での暗号資産リスティングは遠い先の話ではなく、現実的なものへと変わってきたのです。

 なお、このようにIEOを含めて取扱銘柄が増えていくのは良いことばかりではありません。実際に2021年以降の国内IEO銘柄において、いくつか課題があるということも認識しています。

 これについては規制当局がレギュレーションをかける前に、一度、事業者側が自主的に対策を講じるので、猶予を欲しいということを要望し、現在その方向で調整がされています。

 IEOを行った事業者からヒアリングをした結果として、いくつかに課題とその改善仮説は集約されつつあります。こちらをまとめたのがこの表になります。

 一番本質的なところでは、『IEOの目的は何か』というところだと考えています。発行体(プロジェクト側)からすると一義的には「資金調達」がその答えになってはくるのですが、資金調達だけが目的になるとプロジェクトが成功する確率は下がってしまいます。

 IEOにより資金を調達し、その資金でプロジェクトを実現させて、トークンエコノミクスを回していき、より大きなトークンコミュニティが形成されていき結果的にトークン価値そして価格も上がっていくこと。これこそがIEOの目指すべきところであり、ここに発行体・引受企業(暗号資産交換業者)・トークン投資家の皆がHappyになる三方良しの状態が実現できると考えています。

 なお、このIEOの改善案については7月中を目途にJCBAなどが自主規制案をまとめることとなっており、これをJVCEAにても確認をした上で当局を含めた関係者と協議をすることとなっています。

 言いたいこととして、日本国内IEOは終わっていません。むしろ、これからです!ということを多くの方にメッセージとして伝えたいです。

 マネーローンダリング対策についても日本は先進的な取り組みを講じています。この6月1日から改正犯収法が施行され、FATFトラベルルールが運用されるようになりました。先進国において、FATFトラベルルールが適切に運用されている国は日本が最初です。日本の国内事業者はトラベルルールに加えた外為法に基づく対応も行っています。

 トラベルルールというのは、日本国内そして法域対象国のVASP(暗号資産交換業者など登録事業者)間の顧客が暗号資産を移転する際に、「誰から誰に送るのか」ということを適切に通知する義務が課されるというものです。そして、この通知がされないと暗号資産の移転は出来ないこととなります。

 これを聞くと、無登録業者やプライベートウォレットは対象でないから意味がないのではないかということを言ってくる方もいます。ただ、これはミスリードです。現在、暗号資産交換業者の多くはリスクベースアプローチといって、適切な取引モニタリングをしています。トラベルルールに基づくモニタリングに加え、疑わしい取引のモニタリングは行っているので、この点でしっかりと不正取引を検知しています。
 
 また、「トラベルルールによって国内事業者間でも暗号資産の移転がされなくなった。日本の暗号資産市場はもうダメだ」というような意見も5月頃に一部SNSで言われましたが、これもミスリードです。以前は日本の国内事業者間での暗号資産移転は多くありましたが、ここ数年はその数は極端に減っています(以前のように取引所間での価格差も減ってきているので、アービトラージ取引などは極端に減っています)。

 もし、どうしても異なるトラベルルールソリューションを導入している取引所間での暗号資産移転が必要な場合には、プライベートウォレットを介した移転もできますし(もちろん、ここはしっかりと不正取引でないかなどのモニタリングはされています)、この点でも影響はありません。

 実際にJVCEAの方にも5月までには2件ほど、トラベルルールに関する問い合わせはありましたが、6月1日に施行されてから不都合等の問い合わせは発生していないというのが実態です。

 また、マネーローンダリング対策以外の顧客資産保全についてもしっかりと対応をしています。顧客資産は100%分別管理をしていますし、暗号資産についても現在は実質100%がコールドウォレットで管理されています。

 取引をする会員については全てKYC(本人確認)をしていますし、これに加えて先ほども説明したようにKYTといって不正取引をリスクベースアプローチで監視しています。

 数年前までは「暗号資産=怪しい・不安」というイメージがあったかと思いますが、これまでで説明をしたように、金融庁登録事業者においてはだいぶ改善がされました。

 未だ、一部の無登録事業者などにより暗号資産の詐欺被害などは発生しているようですが、それらは暗号資産を騙った詐欺なので、正規登録事業者とは一線を画するということをご理解いただければ幸いです。

 このように規制対応をしっかりとしているということもありますが、さらに日本のWeb3市場を活性化させるために、新しいチャレンジも動いています。それがレバレッジの改正です。

 2017年4月には世界全体のビットコイン出来高の50%強が日本円による取引でした。それが現在ではたったの1~3%になってしまっています。これには様々な要因がありますが、1つにはレバレッジが以前の25倍から2倍になったということがあげられます。

 他の金融商品と比較をした場合でも暗号資産のレバレッジ倍率の低さは一目瞭然です。特にFX取引については2022年度の年間取引量は1京2000兆円を超えており、特異な市場が形成されています。これに対して暗号資産市場は年間たったの29.9兆円です。

 日本では2020年の金商法改正に伴い、暗号資産交換業者がレバレッジ取引を行う場合には、第一種金商業の登録が必要となります。つまり証券会社同様の経営管理態勢が求められており、これをクリアした事業者のみがレバレッジを扱うことができます。

 レバレッジ改正には様々な意味があると思っています。まずは税収の増加です。取引量が増え、政府としても税収が増えます。また、機関投資家が参入していくことに繋がってくるのではと考えています。

 ただ、個人的にはこのことよりも、日本政府としてWeb3を国家戦略にしている中で、世界全体でたった1~3%しかないと、海外プレイヤーが日本市場を魅力に感じないという現状を打破したいという思いが一番強いです。市場がないとプレイヤーは集まらないですし、市場があれば事業者は勝手に集まってきます。日本の市場を盛り上げていくこと、これがレバレッジ改正の最大の目的です。

 このようなWeb3市場の中でSBIグループとしては様々なチャレンジをやっています。暗号資産交換業者だけでなく、世界最大級のマーケットメイカーであるB2C2やNFTマーケットプレイスのSBINFT、レンディングのハッシュハブなど様々なWeb3事業者がSBIグループにいます。

 様々な先駆的なチャレンジもしています。SBI WEB3 WALLETはNFTを日本円から直接購入できるサービスです。

 SBINFTとSECURITIZE JAPANが提携した新しいデジタル証券のサービス提供も動き出しています。

 インベストメント機能も国内最大の投資規模を誇っています。現在はSBIグループ全体でアクティブな投資サイズで4000億円を超える投資ファンドを運用しており、これは日本最大です。国内外の様々な企業に投資をしています。

 大阪国際金融センターも様々な取り組みをしています。世界初となる先物市場である堂島取引所の総合取引所化に向けた全面支援。大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)にてPTS市場やセキュリティトークンなどを予定しています。また、世界からWeb3企業を大阪に誘致する取り組みもしています。

 2025年の大阪万博、2030年の大阪で日本初となるIRの開始を含めて、大阪はこれから金融市場としても経済市場としても観光市場としても非常に大きな可能性があります。また、東京一極集中に対するBPO対策としても大阪の果たす役割は大きな意味を持つようになってきます。

 日本デジタル空間経済連盟も多くの企業が参画を頂いています。この3月末時点の会員企業の時価総額を合算するとなんと73兆円になります。


 今回のIVSでは多くの参加者が熱い思いをもっていました。「暗号資産は冬の時代」と言われますが、この表現が1つ間違っていることとしては季節のように時間がたてば勝手に冬から春になるというわけではないということです。

 我々事業者が主体的に動いていくことで、また、多くの参加者が熱い思いを1つにしていくことが雪解けの最大の方法だと思っています。今回のIVSに参加して、冬から春に・・・ではなくいきなり夏に変わる兆しも感じました。

 これからも、1つ1つチャレンジを続けていき、日本のWeb3市場そして日本全体の経済活性化に寄与して参ります。

 2023年6月30日 小田玄紀

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