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B Dash Camp 2023 Spring in Sapporo所感

 小田玄紀です

 5月24日~26日に札幌で開催されたB Dash Campに今回も参加してきました。B Dash Campは国内最大規模の完全招待性の経営者向けイベントになります。毎年、春と秋に開催され、私は5年程前から参加をさせて頂いています。

 今回は900名近い参加者が参加していました。この900名という人数はちょうどいい人数で、何回か参加していると半分以上の方が親しい人で、30%位の人が顔と名前が分かる程よい距離感、20%が初めましてな人となります。

 参考までにダボス会議はメイン会場の参加者数が3000人程度(ダボスの町に来る人を合算すると1万人を超えますが)ですが、こちらは親しい人の割合は10%位となり、あまりに多様な価値観の人たちが集まるので多少よそゆきになってしまいます。
 
 ただ、どちらも完全招待性であることからセーフティな空間となっており、また、通常であればアポを取ろうとしたら1か月以上先になってしまうような経営者の人たちが朝食・昼食・夕食同じ会場にいて、気軽に話が出来るという点でも非常に意義のあるイベントです。

 また、こうしたイベントに定期的に参加することの最大の意義は、『業界やトレンドの流れを肌感覚で確かめられる』というところにあると考えています。

 この『肌感覚』というところはとても重要なところであり、普段接している人やメディアの情報だけでなく、様々なステージや様々な業種の人たちが集まり、何をキーワードにしているかを感じること、その会場でどういう言葉やどういうサービスがより多く使われているかを五感で感じることの意義は極めて大きいです。

 2~3年前はこのキーワードがSaaSでしたし、それが去年はCryptoを含めたWeb3でしたし、今回は生成AIでした。

 なお、もちろんここでテーマになっていることを今から始めるのはナンセンスでタイミングとしては遅いです。このトレンドから共通することを見出し、また、流れは必ず回帰するところはありますし、また、新たなトレンドが過去のトレンドと組み合わさり、新しい価値を創出することがあるので、ここを感じ取ることが何よりも重要だと思っています。

 たとえば、現在は生成AIが注目されていますが、このことをもってCryptoやメタバースは終わったかというとそれは全くの間違いであり、生成AIが誕生したことにより、Cryptoやメタバース(含むAR/VR)はこれまで実現できなかったサービスが創出される可能性があります。

 「Cryptoか生成AIか」ではなく、「Crypto&生成AI」が大きな価値を創出していくことが考えられるのです。

 今回のBdashでは様々なセッションがありましたが、個人的には25日(金)のモーニングセッションの鈴木英敬政務官とZホールディングス川邊健太郎さんのセッションは業種関係なく、これからのスタートアップにとって、そして、ベンチャーキャピタルにとって非常に意義のあるセッションであり、なによりもこれからの日本に期待を感じることができるセッションだったため共有をさせて頂きます。


 パネリストの鈴木英敬政務官は経済産業省出身の方です。三重県知事を10年間務めて一昨年の衆議院議員選挙で当選し、国会議員となりました。なお、鈴木英敬さんは世界経済フォーラムYoung Global Leaderのメンバーであり、YGLとしても交流をさせて頂いています。

 鈴木政務官が草案を作成し、正式に閣議決定として承認された「スタートアップ育成5か年計画」ですが、この内容がとにかくすごいです(会場から私が撮った写真のため、見にくくてすいません)。以下に、何がすごいかを解説していきます。

①定量的な目標を掲げたこと。そして2027年度に10兆円のスタートアップ投資と明記したこと

 まず、これまでの政府目標の多くが20年後とか30年後とかの目標が多かったです。これはキャッチコピーとしては良いことをいうものの、政治家・役人として結果責任は自分は負わなくてもよくなるので、非常に都合がいいことを言えるわけです。

 今回、5年後までに10兆円のスタートアップ投資をするということを明記したことは非常に大きな意味があります。間違いなく、5年後であれば鈴木英敬さんが国会議員を務めているはずですし、「政府の目標」としてだけでなく「個人の目標」といってもいい計画になります。これは非常に大きな意味をもっていると思います。

 参考までに、こちらが現在の国内スタートアップの投資額となります。2021年度が8228億円と1兆円弱になっています。全体としては投資額は増えていますが、調達社数は2282社と減っているのが実態です。

 これを1兆円弱から10兆円にしていくこと。また、ユニコーンを100社創出し、スタートアップを10万社創出するという目標はこの観点からも非常に意義があります。

 なお、「10兆円という数値は達成可能なのか?」という疑問を持つ方もいるかもしれませんが、パネリストの川邊さんが「孫さんだけで20兆円のファンドをやったから、日本政府が出来ないわけがない」と前向きな発言をされていました。たしかに、その通りですね。

②投資だけでなくSBIR制度の強化を含めた政府調達の拡充
 スタートアップ投資の拡充も非常に大きな意味を持ちますが、それ以上に個人的に感銘を受けたことはSBIR制度の強化を含めた政府調達の拡充です。

 投資や融資というのは、あくまでも「資金調達」の話です。ただ、企業経営において何よりも重要なことは「売上および利益」を出していくことです。

 いくら、資金調達だけできても収益がおいつかないと企業存続だけを目的としたゾンビ企業が残ってしまうだけです。

 今回の施策で非常に感銘を受けたのは、「スタートアップの売上を増やす」施策です。これが「SBIR制度」の強化です。

 これは簡単にいうと、政府調達をスタートアップにも開放するというものです。

 こちらが当該内容を抜粋したものとなりますが、スタートアップ(含む中小企業)に対する政府調達を年間3000億円規模にまで拡充することを目標としたり、内閣府指定のみでも研究開発関連補助金にて年間400億円×5か年の2000億円の基金をつくることなどが明記されています。

 アメリカでは、宇宙産業や軍需産業が飛躍的に伸びた理由は政府調達を拡充したためです。日本でも同じように、政府としても育成をしたい産業分野において、政府が顧客となり仕事を発注していくことでこの分野を飛躍的に育成することが可能となります。

 個人的には日本語と外国語のより完全な自動翻訳機を開発した企業に100億円を支払うというような政府調達を表明すれば、多くの企業がより本気で日本語の自動翻訳に取り組むようになり(今もだいぶレベルが上がっていますが、さらに実用性レベルにまで行く可能性があります)、この結果として日本人と海外のコミュニケーションGapが解消されれば数兆円以上の経済効果があると考えています。こうしたものを含めて、政府調達をスタートアップに振り向けることは戦略的意義が非常に高いと考えています。

 また、先ほどの投資と政府発注の組み合わせは非常にいい話です。まず、スタートアップ投資で資金を投下し、初期のサービスレベルを構築していき、そして、政府調達を含めてベンチャーの売上・利益を支えていく。ここで成功した企業に対して、さらに民間の投資が流れるようになり(売上・利益があった方が金融機関の投融資は極めてスムーズになります)、この正の循環が形成されることでユニコーン100社、スタートアップ10万社の創出にも繋がっていく流れが創出されます。

③総合的な対策であること
 これまでに掲げた2点が特に大きな点ですが、今回のスタートアップ育成5か年計画の凄いところは「総合的な対策」であるという点です。

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/suikusei_dai3/siryou1.pdf

 こちらに原案骨子のリンクを貼っておきましたが、とにかく色々と考えてくれています。鈴木政務官が自分でベンチャー経営をしてきたんじゃないかと思えるくらい(笑)、起業家が抱える悩みについて向き合ってくれています。

 個人保証制度の見直し、大学など研究機関の創設、海外との提携などなどありとあらゆることを総合的に考えてくれています。

 私が初めに起業をしたのは2001年でしたが、その時は「製本された会社パンフレットがない企業は銀行口座を作ることが出来ない」と口座開設を拒否されましたし、公証人役場での定款認証も最初は難色を示されました。

 また、2003年からスタートアップ投資をはじめた際にも「ベンチャー投資は3期分の決算書がないと投資をしてはいけない。創業間もない企業への投資なんて「ただのギャンブル」に過ぎない」と言われました。

 それでも、自身で起業をした経験からベンチャー経営者の大変さとその価値は分かっていたので、真摯に課題に向き合い、スタートアップ投資を行い、一緒に売上をつくり、組織体制を構築して、起業家の夢の実現を共に実現をしてきました。

 当時は「頭がおかしい」「間違っている」と多くの人から言われてきましたが、改めて今回スタートアップを日本政府としても大きな目標を掲げてチャレンジしてくれることは、こうした経験をした者からすると本当に嬉しいことです。

 政府および各省庁も本気になってくれたので、後は民間の役割です。まさに今回のBdashのセッションテーマの通り「今こそ官民が総力をあげ、日本をスタートアップ大国に!」していく時がきました。

 この時代に、それぞれがどのような役割を果たして、存在意義・存在価値を出していくのかが何よりも大事なことだと考えます。

 2023年5月27日 小田玄紀


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