生薬百選 83 忍冬(ニンドウ)
例年にも増して寒い日が続き、各地の大雪などのニュースを耳にするこの頃です。冬将軍が立ち去るまで、風邪などには特に注意したいですね。今回紹介するのは、このような季節にぴったりな名前をもち、風邪薬にも使われる生薬です。
忍冬は、日本でも生垣や野山で見かけるスイカズラ(Lonicera japonica)の葉・茎を乾燥させたものです。スイカズラは「金銀花」とも呼ばれますが、生薬としての金銀花はスイカズラの蕾を乾燥させたものを指します。
日本各地の山野に自生し、朝鮮半島や中国にも分布します。つる性植物で、つるが他の植物に巻きついて成長していきます。5〜6月には葉の根元から筒形で唇状の花が2個ずつ並んで咲き、ジャスミンに似た甘い香りを漂わせます。秋には小さな丸い黒色の実をつけます。
「スイカズラ」という名の由来は、昔子供たちがスイカズラの花の付け根にある蜜を吸って遊んだため(吸い葛)と言われます。その他にも諸説あり、花の形がものを吸う時の唇に似ているという説や、おできの吸い出しに用いられたためという説などがあります。欧米ではスイカズラの近縁種(ニオイエンドウ)をハニーサックル(蜜を吸う)と呼び、薬に用いたり、観賞用としても楽しまれています。ハニーサックルの香水もあるほどです。生薬名「忍冬」の由来は、文字通り冬でも葉や茎は枯れず、寒さに耐え忍んでいる様子からきたと言われています。また「金銀花」は、初めは白色の花が、2〜3日経つと黄色に変わっていき、やがて白と黄色が入り乱れて咲くことから命名されたようです。
忍冬と金銀花はいくつかの漢方薬に配合されています。忍冬は「治頭瘡一方(ぢづそういっぽう)」に処方され、解熱、解毒の目的で化膿性炎症に用いられてきました。金銀花は東洋医学でいう「寒」の性質を持つことから、「銀翹散(ぎんぎょうさん)」という、風邪、インフルエンザの薬に主薬として処方されています。日本では風邪薬といえば葛根湯が有名ですが、銀翹散は熱感が強い風邪に向いており、中国では親しみのある薬です。
成分はフラボノイドであるロニセリン、ルテオリン、ロガニン、タンニンなどです。有効成分はクロロゲン酸で、血管拡張作用、収斂作用、抗菌作用、消炎作用が期待でき、また美肌にも良いとされ、化粧品にも配合されています。また煮出した汁を風呂に入れると、あせもや美肌などに効果があるといわれます。
民間では茎葉や花をお茶として飲んだり、花をホワイトリカーに漬けて金銀花酒を作ったりします。江戸時代、当時としては異例の長寿を誇った徳川家康は、焼酎・みりんなどにスイカズラを漬けた忍冬酒がお気に入りだったようです。忍冬は家康の長寿に一役買っていたのかもしれません。
また、日本国内で最古の神社の1つとされ、酒造りの神として知られる、奈良県桜井市の「大神神社」の鎮花祭(薬まつり)では、製薬業者が奉納する医薬品とともに、忍冬と百合根を供える儀式が続いています。参拝者には三輪山の忍冬と摂社である狭井神社のご神水で作られた忍冬酒が配られ、リウマチ等の関節痛にも効果があるとされています。
見た目・香り・味を楽しめ、健康にも役に立つスイカズラは、神様に献上するほど古くから身近で大切な薬草だったのでしょう。
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