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メトホルミンは食直前が有効!

金沢肝臓フォーラム @ホテル日航金沢
 正常な血糖値変動
健常人は長時間絶食しても、暴飲暴食しても血糖応答は狭い範囲に保たれる。そして夜間絶食時であっても、脳や心筋などの全身細胞は1時間当たり10gものブドウ糖を取り込み、利用する。このとき肝がブドウ糖を放出・供給することで、ブドウ糖の供給と消費が一致しており血糖値は上りも下がりもしない。


朝、目を覚まし、手足を動かし始めると筋肉でのブドウ糖の取り込みは顕著に高まる。さらに食事を見ただけで脳からの情報が膵臓に伝わり、インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制する。そして食事が胃腸・消化管に流入することによる刺激がインクレチンを介してインスリン・グルカゴンの分泌に影響する。


食事中はブドウ糖・インスリン・グルカゴンがカクテルとなって肝臓に流入する。そしてインスリンにより肝臓でのブドウ糖の取り込みは顕著に高まる。肝臓を通り抜けたブドウ糖により食後の血糖値は少し上昇するが、インスリンの作用で全身細胞に取り込まれ、利用される。
ブドウ糖の肝臓への取り込みは、食事摂取時に門脈へ流入するカクテルの比率により決まり、食後高血糖は肝臓へのブドウ糖の取り込みが低下していることを示す。

 正常なインスリン分泌
体重60kgのヒトでは夜間絶食時でも約1単位のインスリンが分泌され、肝臓でのブドウ糖放出率と全身細胞でのブドウ糖取り込み率を一致させ、正常血糖を維持する。
食事中では血糖値が上昇し始めるとその直後10分で4単位、次の20分で4単位、その後60分で6単位程度のインスリンがタイミングよく分泌される。

 2型糖尿病患者における血糖応答
2型糖尿病患者では食事摂取時の血糖上昇に対し、インスリン分泌は遅延し、かつ少量しか分泌されない。そしてインスリン作用の低下によりグルカゴン分泌は抑制されず、逆に増加する。その結果肝臓へのブドウ糖の取り込みが高まらず、ブドウ糖が全身へ回り血糖値を顕著に高める。

 食後高血糖の正常化
2型糖尿病発症による最初の以上は食後のみの高血糖。この状況を放置すると膵β細胞のインスリン分泌能が低下し、早朝朝食前の血糖値上昇も観察されるようになる。食後高血糖は流入したブドウ糖を肝臓が十分に取り込んでいないことが原因。食後高血糖を正常化する手段は
1. 肝臓への急激なブドウ糖流入を穏やかにする
  α-グルコシダーゼ阻害薬
2. 肝臓におけるインスリン作用を高める
  メトホルミン(ピオグリタゾンは脂肪肝の改善によりインスリン作用を高める)
3. インスリンを速やかに肝臓へ供給する
  SU薬、グリニド
4. 食事摂取時に肝臓の門脈-肝静脈でのブドウ糖濃度勾配を大きくする
  各食前の血糖値を正常域に低下させておく
5. グルカゴンの分泌抑制と肝臓でのグルカゴン作用を抑制する
  DPP-4阻害薬
 (DPP-4阻害薬は食事刺激による消化管ホルモンの働きを高め、食事摂取時の
グルカゴン分泌を抑制する。その結果、門脈内のブドウ糖・インスリン・グルカゴン
のカクテルの比率が変化し、肝臓からのブドウ糖放出を抑制、肝臓へのブドウ糖取り
込みを高める。それにより食後血糖応答を改善する)

 軽度な高血糖状況を放置してはいけない
1. インスリン作用の低下は膵β細胞のオートファジーを高め、代償性にインスリン
分泌を高めるが、その状態が続くと膵β細胞はアポトーシスを起こしてしまう
2. 軽度であれ高血糖が亜鉛トランスポーター8の活性を低下させ、亜鉛を中心とする
インスリン六量体の形成が不良になり、インスリンは肝で多くの割合が分解され
てしまう。そして末梢血中インスリンレベルが低下し、更なる高血糖を招く
3. 軽度高血糖による膵β細胞内酸化ストレスが転写因子であるPDX1やMafAの
活性を低下させ、インスリン産生を不可能にする

軽い高血糖を放置しないことが求められる。

 メトホルミンの作用
メトホルミンは空腹の十二指腸に作用し、AMPK-GLP-1信号伝達経路を介して、脳へ、さらに迷走神経により肝へ情報を伝え、直ちに肝でのブドウ糖放出率を抑制することにより食後過血糖を抑制する働きがある。そのためメトホルミンは必ず食前に服用してくださいと指導している。
さらに膵臓でGLP-1受容体、GLP-1受容体、PPARαのmRNAを増加させる作用を持つ。
つまり、メトホルミンはGLP-1のsensitizerでありenhancerでもある。

 食事・運動療法
糖尿病の治療の根源は食事療法と運動療法。
食事療法は、日常生活での身体活動量と現時点での体重などを考慮し、摂取すべき適正エネルギー量を決めて指導する。炭水化物60%、タンパク質20%、脂質20%が科学的に最適なバランス。肝臓でのブドウ糖の取り込みを高め、食後の血糖上昇を抑えるために食事内容、食事の摂り方、間食の禁止を指導する。
1. 一気に大量のブドウ糖が肝臓に流入しないようにする。
  果物のジュースのような単純糖質を一気に大量摂取することを控えるなど
2. 食事の際には食物繊維を多く含む食材から先に食べ、その後の炭水化物の分解速度
を緩やかなものにする。
  3. 間食をしない。
    食事と食事の間に砂糖の多いお菓子を摂ると、血糖値が上昇し、十分低下する前に
次の食事が入ってくると、食前の門脈―肝静脈のブドウ糖濃度勾配が小さくなり、
肝臓でのブドウ糖の取り込みが低下し、食後高血糖を助長する。
  
  運動療法は「ハードな運動の励行」ではなく、糖尿病発症の引き金になった「運動不足
の解消」が目的。今の日本人の多くは過食ではなく、日常生活での身体活動量が低下し、
エネルギー消費が少なくなり肥満気味になっている。余剰エネルギーは主に脂肪
となり脂肪肝・脂肪筋を形成する。脂肪肝になることで、夜間のインスリンによる肝臓
でのブドウ糖放出抑制が不十分となり血糖値を上昇させる。一方で、食後のインスリン
による肝臓でのブドウ糖の取り込みが低下し、食後過血糖を起こす。AST値が20 IU/L
以上の例では、詳しく調べると脂肪筋を呈しており、筋肉でのブドウ糖の取り込みが
低下し、血糖値を押し上げている。
わずか10日間の脂肪制限と歩行励行で脂肪肝・脂肪筋が顕著に改善し、ブドウ糖の
取り込みが高まることが分かっている。
運動指導に関しては
・デスクワークの人はこまめに立ったり歩いたりする
・昼休みは会社内や喫茶店でじっとしているのではなく、街中を早歩きで歩く
といったように、「日常生活で体を動かすようにする」といったすぐに実行できること
を継続し、肝臓や筋肉の脂肪蓄積量を改善することが大切。

食事・運動療法を励行しても、インスリンの働きが不十分である場合は、薬物治療に
より良好な血糖応答を維持し、膵β細胞インスリン分泌能力を回復させ、発症前の状況
に速やかに戻れるようにするべき。

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