機内持ち込み手荷物のみでの海外釣行はほんとに不可能か

タイトルどおりなんですが、飛行機を利用した遠方への釣行を、機内持ち込み手荷物のみでやれないか、と検討しているごくニッチな人に向けたエントリです。

先に結論を書くとルール上可能だし何度も実績がある。ただ工夫は必要だし、絶対可能とは言い切れない、となります(機内持ち込み手荷物のみでの飛行機を使った釣行、というフレーズはいささか冗長なので、以下勝手に「キャリーオン遠征」と呼ぶことにします)。

なんでこんな記事を書くかと言うと、ひとつにはここ数年「キャリーオン遠征は不可能」という見解がいくつかのブログや動画をソースとして流布しつつあり、いや可能だがー? やってるがー? とモヤっていたこと。また一方で、航空各社のガイドラインが<規則を逸脱して>厳しく掲出されている状況があり、どちらも旅行者の不当な萎縮を招いているからです。やればできるよ!と言っておきたい。

キャリーオン遠征とは

飛行機を利用する際、旅行者の荷物はサイズと重量によって4つのカテゴリに分類されます。小さいほうから 1) 身の回り品、2) 機内持ち込み手荷物、3) 預け入れ手荷物、4) 超過手荷物です。航空会社によって、また路線によって基準にいくらかの幅がありますがさておき、この1) と2) だけで飛行機を利用した遠方への釣行を完結させてやろう、というのがこの文章の目的です。

キャリーオン遠征のメリットはいくつもあります。輸送時ぶん投げられてタックルが破損する心配がないこと。ロストバゲージのリスクがないこと。バゲージクレイムでの待ち時間がないこと。コンパクトな荷造りを強いられるので結果的に身体が楽。デメリットとしてはタックルのセレクトにとても大きな制約を受けることになります。

私自身はこの制約をクリアするために工夫を重ねることをエンジョイしていますが、これから述べるあれこれが少しでもかったるいと思われるようでしたら、迷わず預け入れ手荷物で釣行なさるのがよいと思います。ちまちました工夫の積み重ねが楽しいと感じられる方だけ、読んでください。

ハードル1:サイズ

超えるべきハードルその1はなにより荷物のサイズでしょう。まずLCCですが、私がもっとも利用するJetBlueの場合、基本タダなのは身の回り品のみ、サイズは43.2 x 33 x 20.32cm以内。キャリーオン手荷物は55.88 x 35.56 x 22.86cm以内。1個目から有料で、かつ持ち込めるのは1個まで。最近はお金を払ってもキャリーオンが1個も許されないチケット種別も増えています。予約時によく確認してください。

フルサービスキャリアの一例としてANAのエコノミーの場合、無料の手荷物は2個まで、うち1個がキャリーオン可能だと思います。機内持ち込み可能なサイズは3辺の和が115cm以内、かつ3辺の長さがそれぞれ55×40×25cm以内。身の回り品は「ハンドバッグ、カメラ、かさなど、座席下に収納できるサイズのもの」とふんわりした記述になっています。ひとつの目安として、前の座席の下に入るかどうかが怒られるかどうかの線引きになっている印象。となると中型のバックパックくらいがギリのラインでしょう。

こうなってくるとクーラー、バッカン、ウェーダー、タモ、普通のロッドはサイズ面から諦めることになります。ゲームベストと磯シューズが必要な場合、ちょっとしたトンチですが、これらは着用していれば荷物と認識されません。搭乗後はビーサンに履き替えて乗り切れます。もっとも問題になりそうなのがロッドの仕舞寸なので、次に別項を立てることにします。

ハードル2 ロッド

機内持ち込み手荷物の枠は、多くの人がキャリーオン用を謳っているスーツケースに使うことになるでしょう。たとえば私がいちばんよく使ってるハーシェルのソフトタイプだと、収納できるパックロッドの仕舞寸は対角線にぎゅうぎゅうに詰めて55cm。リモワのクラシックだと53cmが限界。56cm入るキャリーオン用スーツケースも存在するだろうし、52cmしか入らないのもあるでしょう。

そこは個別論なので手持ちのモデルと話し合ってほしいんですが、間違いないのは対角線に収納したとしても、内部構造の凹凸に食われたりロッドの束の太さが辺につっかえて、想像よりだいぶ短い仕舞寸しか収納できない、ということです。フレッシュウォーターなら選択肢は多いですが、シーバスや青物をとりたければ片手ほどしか選択肢がありません。大型青物は…たぶん不可能です。

なおしばしばカタログに「機内持ち込み可能な仕舞寸60cm以内」と書かれたパックロッドがあります。あれは多くの航空会社において設定されている、三脚など棒状のものは長さ60cm以内まで機内持ち込み可能、というルールに則った表記だと思うのですが、仮にそのロッドをキャリーオンする場合、機内持ち込みの枠をロッドで使ってしまうことになります。ロッド+身の回り品だけで海外釣行できる猛者はさすがにいないと思いますので、キャリーオン遠征においては意味をなさないといえるでしょう。

ハードル3 危険物

無事自分好みのパックロッドと出会ってサイズ内のパッキングに成功したとしても、持ち込み不可な危険物が発見されたらよくて没収(悪いと別室送り)です。行き帰りの航空会社と発着空港を管理する国家のルールをよくよくリサーチして、トラブルを回避する必要があります。

たとえばプライヤーとフィッシュグリップ。これらは工具に相当します。日本の空港やwebに掲出されているガイドラインを読むと工具類持ち込み禁止と書かれていますが、これは実際のルールとは異なります。ほとんどの航空会社・空港では15cmもしくは6インチ未満の工具は持ち込み可能と規定しています。

というわけで15cm未満のプライヤーとフィッシュグリップですが、いまどき検索すればすぐ見つかります。念のため、もしゲートで止められたとき、これらが釣具であること、規定サイズ内であることを説明できるようにしておいたほうがいいでしょう。私は過去に一度だけ、セキュリティゲートでフィッシュグリップについて説明を求められたことがあります(釣り道具だって言ってニギニギして見せたら笑って通してくれた)。

つぎハサミ。これも工具同様、空港のガイドラインには持ち込み禁止と書かれていますが、たとえばANAの規定を調べると「支点から刃先までが6cm以内で先端が尖っていないものは持ち込み可能」となっています。私は何度もチェックを通過していますし、念のためANAに問い合わせたところ同様の回答を得ています。このルールに適合して、かつPEが切れるハサミを選びましょう。なおJALは国内線が同じ6cmルール、いっぽう国際線はハサミ一切不可です。

膨張式ライジャケはボンベ装着済みであれば持ち込み可、装着されていない状態のボンベは持ち込み禁止です。ちょっとトリッキーなルールですね。

ハードル4 担当職員の裁量

ここまでの話をぜんぶひっくり返してしまう気もするのですが、機内持ち込みのルールにはワイルドカードがあって、担当者が危険だと感じたらその場でおおよそ持ち込み不可にすることができる建て付けになっています。これを発動された時点で、どれだけルールを主張しても勝ち目はほぼゼロです。

ナイフ、包丁などの刃物は、ルール上は先端が丸まっていれば持ち込み可となっていますが、現実にはまずダメです。PEにシュッみたいなスプレー缶も、充填されてるのがフロンガスならOKのはずですが、ほぼ無理。リールオイルやPE革命みたいな謎い液体も、ゲートで没収される可能性がかなり高いと思います。日本からアミ姫キャリーオンしてきた人を知ってるんですがw、釣り人以外から見たら得体の知れなすぎる物体なので言うまでもなくハイリスク。

あと釣り針はベンドの底からチモトまでが10cmを超えると持ち込み禁止、というルールがあるんですが、たとえば9/0のシングルフックとかクエ針とかは迫力が出てしまうので10cm以下でも危険物認定されそうな気がします(これは実体験に基づかない想像です。そんな大きな針使うビッグゲームしたことがないので)。

難所はどこにある

手荷物の持ち込み可否は、いつどこで問われるのでしょうか。通常はチェックインカウンター、セキュリティゲート、機内の3ヶ所です。チェックイン時と機内搭乗時はエアラインの職員に、セキュリティゲートは空港の係官に荷物と人となりを問われることになります。

結局そんなふんわりした話かよ、と言われそうですが、これらの関所を通過する際には、最大限疑いをかけられづらくするよう、テロリストみの出ない服装に気を配ってください。また明るくほがらかな態度を取ってください。先述のとおり、どれだけルールをリサーチしてギアを工夫しても、怪しい人認定されてしまうとぜんぶ台無しなので。

ネット上を検索すると、PEラインを武器だと認定された、パックロッドを武器だと認定されたという記述が見つかります。こういう事例は実際にあったのでしょう。ただ私は一度も経験がありませんし、聞いたこともありません。こういう明文化できないムードや経験値の問題は取り扱いが難しいですね。

ちゃぶ台返し

おしまいにここまでの話を台無しにしてしまうようなことを言いますが、ボートゲームやガイドを雇う場合、レンタルタックルを利用してしまえばこれまでくどくど書いてきた荷物の工夫や心配からはすっかり解放されます。海外では、旅先での釣りに自分のタックルを持参する人なんてほんとうに少ないです。

どこのボートでも身ひとつでOKというところが大半だし、「なんで日本人ってのは自分のタックルを持ってきたがるんだ?」と聞かれたこと何度もあります。わかりますよ、自分のタックルで釣ると満足感が違いますよね(私です)。あとレンタルと無縁なショアゲームがボートより好きな人もいますよね(私です)。

その場合でも、現地調達という最終手段があります。物事はバランスなので、たとえばルアーとリールだけは持参し、ロッドは現地で安い2ピースを買う、みたいなコンビネーションができる人は賢いなーと思います。買ったロッドは帰りにお世話になった人や隣の釣り人にあげてきちゃえば喜ばれるので一石二鳥。

なので冒頭の繰り返しになりますが、こういったルールとにらめっこしてギアを選んでぎりぎりのソリューションを案出する工夫が、それ自体が楽しめる人にだけ、この記事を参考にしてもらえたらと思います。楽しいですよ、キャリーオン遠征。

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