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グレイ

 部屋の隅で壊れた空き缶が喧しい。蓋を開けると隠元豆の匂いがする。爪を整えたボトルがこの中身を血眼になって探しているようだ。その透き通った身体で屈折された太陽が街を埋め尽くしつつある。プリズムという検閲を通過した虹どもの氾濫だ。ここには爪切りがないので擬態することが出来ない。仕方がない。死んだ牛に砂嵐を食ませる。それが世界に発見されないための唯一の方法なのだ。密通するスケープゴート、読後速やかに咀嚼せよ。果たして名を誕り、正しい宛先を避妊する。細断された手紙で爆弾を作る。小さな塊へのフェティシズム。金属片とプラスティックに賭けられたファンタスム。今日からこれをタイムカプセルと呼ぼう。手のひらに収まる墓標を弄る。碑銘は神託によって再生する。傷口から精液めいた火葬の灰が煙たい。どんな病も癒えるパラダイスには赦しがない。沈黙を去勢された機械は虚偽のキネマを回転し続けている。施されたその鮮明なモザイクにふと、烏の糞のように零るスコール。路面がグレイに染まってゆく。なるほど落雨とはスカトロジーなのだ。彼らが否定したがった曖昧だ。グランド・ピアノを猫に叩きつける。遍く白と黒が鳴る。これら全ての不協和音で三千世界に徹底されたファーザーグースを殺戮しなければならない。今カーテンが上がる。さあ、恢恢と張り巡らされた空を見よ。あの全色を気取る旗を見よ。

 潜れ! 虹を掻い潜れ!

あの架橋に、灰色の紛れる間隙はないのだから。

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